THE CULT(期間限定公開)

GARBS. from 友引撲滅委員会

「てがしびれてうごかないんだ」と彼は言う。

 目の前の男は、車いすに乗って、ゆがんだ唇を懸命に動かしていた。そこから発せられる空気の振動を、あまり高性能ではないICレコーダーが音として拾う。傍には大きな窓があり、太陽が覗いていた。

「なんで、自分が、生きて、いる、のか、わから、ない」

 すべてをわすれてしまおうとしたけれど、からだをうごかすたびにあのこうけいがめにうかんではなれない。

「そうですか」

ICレコーダーの持ち主が、ぼんやりと言った。その肩越しに見える青空の下。新緑でにぎわう公園では、ホームレスが寝っ転がっている。その横を、高タールの煙草を吹かす一人の男が通り過ぎていく。

男が息をする度に、白い煙が空へ昇っていくのを、ホームレスはじっと見ていた。


まるで、そこに誰かがいるかのように。

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