○ ゐす
椅子がもう一つ落ちてきた。
「僕がやったんじゃないよ」と、ランプが言った。
「うん、わかってるよ」と、蓮太郎が言った。
「おっ、何だこりゃ」と、大工が言った。「随分変わった椅子だな」
そうなのだ。確かに変わっている。
「最近ではあまり使われない形ね」と、歴史研究家が言った。「正確には『うぃす』と読むのよ」
「うぃす」と、大工が返事をした。復唱したのかも知れない。
「この『うぃす』、誰か使いますか?」と蓮太郎が言った。
大工が言った。「俺ぁいいや。椅子が欲しくなったら自分で作るからよ」
歴史研究家は「私もいいわ。彼に差し上げたら?」と言って、釣り人を示した。
釣り人は草の上にあぐらをかいている。
うぃすを持っていくと、釣り人は「こりゃどうもありがとう」と言い、「よいしょ」と上に乗ってあぐらをかいた。あぐらが落ち着くようだ。
近くに寄ってもヌシは魚影にしか見えなかった。ヌシたる者、軽々に姿をさらすわけにはいかないのだろう。寝ている時に腹が出ていたが、あれはちょっと油断しただけだ。いや、きっとあれも夢だったのだ。
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