○ 夜
墨をスッと流すように、夜がやって来た。
陽が落ちるのより僅かに先んじて、滝が上の方から「陽の当たっていない色」に変化した。「夜の始まり」が水流と同じ速度で通過した。そしてたちまち夜になった。
帽子や靴を引っ掛けるのに丁度よさそうな三日月が浮かんでいる。
三日月の光は弱い。辺りは暗い。昼間とは別世界である。見えない、ということの心細さを蓮太郎は噛み締める。
旗に触れてみると、完全に乾き切っていた。立派な寝具だ。旗の上に寝そべり、端を持って体を包む。
「んひ」と、ロバが鳴いた。
「おいで」と蓮太郎が言うと、ロバの気配が蓮太郎の近くに寄ってきて止まった。
彼がロバで良かった。人間の女性でなくて本当に良かった。もし人間の女性だったら、自分が人間の男性であることを苦しみながら一夜を明かすことになっただろう。
蓮太郎は穏やかな気持ちで瞳を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます