森本レオの語りが聴こえてきそうな「けものフレンズ」

Kishi

キョウシュウエリアの日常編

#1

 「アルパカのまくら」というお話。


 ジャパリパークに、嵐がやって来た。

パークのあちこちで強い風が吹き荒れ、大雨が降り続く。川の水は氾濫し、地盤が緩んで、崖は崩れやすく危険な状態になっていた。

嵐の真っ只中にいたフレンズ達は、それぞれが知恵を絞って、お互い、怪我がなく安全に過ごせるようにして、しのいでいた。

高山の頂上でカフェを営むアルパカは、あまりの天気の荒れように、山から降りられなくなっていた。友達のトキも一緒だ。


「酷い天気だねぇ、危なくって紅茶の葉っぱを摘みに行けないよぉ」

「私も、この風じゃ飛べないわ」


嵐は数日間続き、ようやく太陽が顔を出したのは、四日後のことだった。


 アルパカの事を心配していたかばんとサーバルは、様子を見に高山へとやって来ていた。頂上へと登るためのロープウェイは、特に壊れていなかった。頂上のカフェも同じだ。傷一つついていない。二人は、安心した。


「よかった、何処も壊れてないみたい」

「風、凄かったもんね。図書館の本、何冊か飛んじゃってたもん」

「これならきっとアルパカさんもトキさんも無事だよ」


そう言って、かばんはドアを開けた。すると、彼女はびっくりして後ろに転がりそうになった。


「どうしたの?」

「な、中にオバケが……」

「ええー?」


サーバルも、中を覗いた。するとどうだろう、白くてとてつもなく長い髪の毛をだらりと垂らしてうなだれているお化けが、そこにいるではないか。サーバルはギョッとした。


「うみゃあぁ!?」


サーバルの声に気付いたのか、お化けが少しだけ動いた。


「あれぇ、その声はもしかしてサーバルかねぇ、いらっしゃあい」


聞き慣れた声が、カフェの中に響いた。


「アルパカ!?大丈夫!?何処にいるの!?オバケに食べられたりとかしてない!?」

「何言ってるのぉ、目の前にいるよぉ」

「サーバル、それにかばんも、よく来てくれたわ」


トキが後ろから声をかけた。


「驚くのも無理はないわ。でも、アレがアルパカなの」


かばんとサーバルは、びっくりした。


「えっ?でも、この前会った時と全然違いますよね?」


すると、ラッキービーストが、説明した。


「アルパカの毛ハ、刈り取ラレルマデ凄い速さデ伸び続けルンダ」

「そうなんだよぉ、だから毎日紅茶の葉っぱを摘みに山から下りるついでに、毛をカットするのが得意な友達の所に行って、丁度いい長さに切って貰ってたんだよぉ」

「そうか、嵐のせいで、山から下りられなくなっちゃってたんですね」

「今すぐにでも切りに行きたいんだけどねぇ、重たくって動けないんだよぉ」


かばんは改めて、アルパカの姿を見た。なるほど、確かに、髪の毛はいつもの彼女のものよりも何倍にも長くなり、両目がすっかり隠れてしまっている。尻尾も、いつもの何倍にも膨れ上がり、まるで特大の綿菓子のようだ。こんな姿のアルパカを見たのは、初めてだ。


「かばんちゃあん、何とかならないかねぇ」

「うーん、サーバルちゃん、爪でどうにかできる?」


サーバルは、戸惑った。


「ええー?私、誰かの毛を爪で切ったことなんてないよ!」

「だから、そのアルパカの友達をここに連れてくるのが一番手っ取り早いんだけど、私、会った事がないし、何処にいるかも知らないから、どうしようもなくて」

「博士さん達に聞いてみよう。何かわかるかも」

「それなら私が行くわ、二人はここでゆっくりして待ってて」


そう言うと、トキは図書館の方へ飛び立っていった。


 図書館では、博士と助手が嵐でめちゃくちゃになった本の片付けに追われていた。片付けても片付けても、散らかった本が減る気がしない。


「こんにちは、博士。聞きたい事があるのだけれど」


トキが博士たちに声をかけた。二人は、ご機嫌斜めだ。


「後にして欲しいのです。我々は忙しいので」

「そう言うわけにはいかないのよ、私も急いでるから」

「知った事ではないのです。どうしてもと言うなら我々を手伝うのです」

「わかった。じゃあ、二人の疲れが少しでも取れるように歌を歌ってあげるわ」

「な……」

「わ、我々今はそういう助けはいらないのです。早く片付けるための人手が欲しいのです、人手が……」


博士が言い終わる前に、トキはそれはもう遠くまで響き渡る大きな声で歌い始めた。

可哀想な博士達。


 その後、トキは図書館から、色々な道具の入った箱を、カフェに持ち帰った。


「随分とたくさんありますね、これは一体なんなんでしょうか……」

「博士達が、図書館にあった『ものを切るためのもの』を、ひと通り集めて渡してくれたわ」

「すっごーい、なんかキラキラしてて綺麗だね!」

「でも、どれが毛を切るためのものなんだろう……」


かばんは頭を悩ませた。トキが持って来たもののうち、いくつかは、博士に頼まれて料理をする時に見たことも、使ったこともある。

けれど、ヒトは料理をする時に使う物を、自分の毛を切る時にも使うのかな……そんな風に考えながら、かばんは目の前に並べられた道具を見渡した。

すると、ふと、見慣れない道具が、箱の隅に入れられていることに気づいた。


「あれっ、これなんだろう」

「なんだろうね、なんだか面白い形してるよ」

「なになにぃ?それどんな形してるか教えてくれないかなぁ」


アルパカが、見たくても見れない様子で、かばんに言った。


「あ、はい。えっと、薄い二枚の銀色の板が重なってて、先の方は尖ってて……真ん中あたりで交差してて、上の方になんだか丸い穴が二つあります」


それを聞いて、アルパカは思わず飛び上がった。


「あぁ!きっとそれだよぉ!私の友達がいつも毛を切ってくれる時に使ってるのぉ!名前は確か、『はさみ』って言うんだよねぇ!」

「はさみ……ということは、この二枚の板の間に、切りたいものを挟んで切る……のかな。サーバルちゃん、ちょっと外から適当に草を取って来てくれるかな」

「わかった!」


かばんの予想は大当たりだった。彼女は、サーバルが取って来た草を、その『はさみ』で見事に切り刻んだのだ。


 それから、かばんはゆっくりと、慎重に、伸びに伸びたアルパカの髪の毛と、尻尾の毛を切り始めた。慣れない仕事だったので随分と時間がかかったが、ついに、アルパカを元の姿に戻すことが出来た。


「わぁ〜、目の前がすっごく明るいよぉ〜、それに身体も軽いよぉ〜!ありがとねぇかばんちゃん!」

「いえ、この道具を用意してくれた博士さんたちと、それをここまで持って来てくれたトキさんのおかげですよ」

「ほんと?照れるわね」

「ねえ、かばんちゃん、これ、どうしよっか」


サーバルは、カフェの床一面に散らかったアルパカの毛を見て言った。四人は、苦笑いした。仕事はまだまだ、残っている。


 次の日、かばんの元にトキがやって来た。彼女は、袋のようなものを抱えている。


「昨日は本当にありがとう。おかげでまた美味しい紅茶が飲めるようになったわ。それで、アルパカから、あなたにお礼がしたいから、これを渡して欲しいって」


「わあ、すごくふかふかですね。なんですかこれ?」

「枕、って言うらしいわ。昨日切ったアルパカの尻尾の毛が中にいっぱい入ってるの。よかったら、眠る時に使って」

「ありがとうございます。大事にしますね。アルパカさんにもそう伝えてください」


その日から、かばんはアルパカの枕を使って眠るようになった。彼女の毛に柔らかく包まれるように、暖かくふかふかの枕は、心地よい眠りを誘った。


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