PART 5 - 光る空

「なにか変わったことは」

「いんえ、べつに」


 夜半である。

 塔の見張りをエリクに任せ、ギブンは庭先に陣取るヴァグランの横に並んだ。

 皓々こうこうと月が出て、夜の庭が白々しらじらしている。庭師は勤勉なようで、庭木の手入れも行き届いているのが見える。


「旦那のほうはどうです?」

「村長にも確かめたが、ここ最近怪しげな者を見かけた村人はいないと言う」

「でしょうなあ」


 ふへへ、とヴァグランが例の軽薄な調子で笑う。


「来ると思うかね?」

「来るとしても、手前がお役御免になってからにしてほしいもんで」


 お代も確かに頂戴しましたし、とおどける。


「それならなおさら、放り出そうとは思わんかね」

「傭兵の沽券こけんというやつで」

「沽券か」

「お代の分は仕事をするもんです」

「……雇い主が罪人でも?」

「構いません」


 この男にしては、へんにまじめくさった顔をする。


「雇われたのがどんなクソ変態クソ野郎でも、お代を頂いたからにはきちんと働くもんです」

「立派な心掛けだ」

「旦那こそ難儀ですな」

「なにがだね」

「どうせありゃあ刑場送りでしょう」


 月夜に浮かび上がる尖塔の影を顎でしゃくる。


「放っておいたら、手間が省けやしませんかね」

「それこそ、捜査官の沽券というものだ」

「なるほど」


 訳知り顔で相槌を打つ。


 空が緑色に光る。


「……旦那、いま」


 ギブンとヴァグランは顔を見合わせる。


「なにか……」

「なにかまずい」


 一斉に塔に向けて走り始める。

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