未来の名は

古海 拓人

黄昏の始まり

ここはある海沿いの町「大洋町」

ある丘の上にある白亜の洋館である自宅に三人の少年が坂道を上がり向かっていた。

「今日はパパとママがいないからたっぷりとゲームできるね」

黄色のTシャツとデニムの短パンを穿き、チョコレート色の髪の少年の名前は鋼(こう)が横の二人に話す。

「夜更かししてアニメやゲーム、漫画三昧出来るな」

坊主頭で白のT シャツとキャラメル色の短パンのがいがウキウキしながら言う。厳しく口うるさい両親が今日から明後日の夜まで東京に行っている。

「塾もないし、お菓子とジュースで今夜はオールナイトしようぜ。なんせ、連休だしな」

蜂蜜のような甘い黄金色の髪を肩まで伸ばし水色のTシャツを着こなす煉(れん)

花の十一歳の三つ子で、家も町で有名な資産家「黒山家」の子供たちで学校では、ハニーフェイスな上、男女ともに人気があり、周りから「王子様三兄弟」「プリンスブラザーズ」などと呼ばれていた。

それはご近所でも同じだ。周りの大人たちは御曹司やらお坊っちゃま兄弟と呼びするくらいの人気者だ。ちなみに、両親が東京に行っているのは、

「夏子姉ちゃんも明日は結婚式か」

レーシングゲームをプレイしながら、チョコチップクッキーやポテチを頬張り、コーラを飲む三人は結婚式を挙げる十歳年上の従姉夏子の話題で盛り上がっていた。

「旦那さんは、職場の後輩で、夏子姉ちゃんより二歳も年下らしいぜ。その上、浅草では名のある名家らしいぜ」

夏子姉さんが結婚すると聞いて嬉しいが少し寂しく感じていた。お盆やお正月で来てくれる度に遊んでくれた大好きな彼女が遠い存在になるみたいな気持ちだった。

「玉の輿かよ。今年の誕生日とクリスマスプレゼント、来年のお年玉は豪華になるかな」

鋼と煉が感傷に浸っている横でお調子者の鎧は従姉がお金持ちと結婚すると聞いて、ちゃかす。二人は少しプンプンと怒る。

「鎧!!」

「少しは┅」

ゲームのコントローラをいじくりながらちょい悪な笑みを浮かべている鎧。

「だったら、ゲームせず、宿題しなさい」

「全く、お菓子やジュースでこんなに散らかして」

三人はその声を聞いてビクッとなった。

「案の定ね。ご両親が遠出すると聞いた時から好き勝手すると思っていたら、やっぱりね」

扉の前に三人の大人の女性が仁王立ちしていた。

杏子先生きょうこに、美華先生みか百合恵ゆりえ先生」

白田杏子、美華、百合恵は二十四歳の三つ子の三姉妹で、三人の隣家に住む美人教師たちだが、性格は超が付くほどきつく、いたずらっ子はビビリ、喧嘩している子達は一瞬で仲直りし、いじめなんてもっての他、保護者と一緒に謝罪しにくると言われる「鬼教師」だ。

教育内容もスパルタで、宿題を忘れたり、居眠りや遅刻なんてするもんなら、「たるんでいる」「やる気スイッチを入れなさい」と出席簿や物差しでお尻叩きをしたり、廊下に立たすなど遠い昔のような指導法をフルに活用している。

だから、周りはその覇気のあるオーラから女帝のようにふるまうのて、「女帝三姉妹」と通り名で呼ばれていた。

緑色の長い髪を後ろで団子に束ねた黒いスーツとタイトスカートをはいた杏子、藍色の長いストレートヘアーでルビーのような紅いフレーム、白いスーツとスラクッスでOLのような姿をした美華、紫色の長いウェーブのかかったストレートのロングヘアーを束ね、カジュアルな服装でエメラルドグリーンのロングスカートをなびかせた百合恵。

校長先生や教頭先生も教育委員会と抗議したが、三人で「生徒を甘やかす」と一蹴したこともあるのだ。もちろん、三人も例外ではなかった。

「宿題と復習と予習」

「終わったら、公園のグランドで走り込み、市民プールで水泳十往復よ」

「さっさと用意しなさい」

厳しい口調に少年たちは「はい」と用意する。

厳しい年上女性たちに逆らうことも出来ず、言われるままに準備した。

「煉くんは算数からね」

「鋼くん、漢字書き取り」

「鎧くんは英語の連分と動詞、単語ね。ほら、さっさとするの」

机に座らされて、煉の隣は美華が、鋼には杏子、鎧には百合恵がマンツーマンでレッスンすることに、

「こら、二日前に教えた公式があるでしょう」

「書き順が違う。書き直し」

「ここはbe動詞でしょう」

ひぇ~と三人は涙目になっていた。

ただでさえ、怖い女教師が三人もいるのだからたまったものじゃない。

“パパ、ママ、早く帰ってきて”

心の中で三人揃って願った。

憧れていた花金の黄昏時は、輝く時間から厳しいスパルタ教師たちにより地獄の時間に変わってしまった。

東の空から明星が上がった。

「ふー、終わった」

「もう、ヘトヘトだよ」

「死ぬ〜」

全ての学習とトレーニングが終わり、少年たちはヘトヘトだった。だが、息付く間もない、いや、そんな時間はない。

なぜなら、怖い女帝三姉妹がいるからだ。

(やべー、先生たちキレている)

また、ダラけた所を見せたら怒られるとビクっとなり、身体を起こして整列した。

だが、女性教師たちの反応は以外なものだった。

「お疲れ様」

「頑張ったわね。エライわ」

杏子は鋼に、美華は煉、百合絵は鎧に寄り添う。

いや、抱きしめてくれた。

(杏子先生、今日は優しい)

そこには厳しい女性教師の顔などなかった。

(美華先生、苦手な英語の動詞的確に教えてくれたな)

(百合恵先生、体育の時も俺の体調気にしてくれたよな)

「さて、プールだけど、少し特別な場所へ連れて行ってあげる。三人とも戸締まりと片付け、火の用心をして来なさい。四十秒で支度してね」

杏子が言うと、鋼、煉、鎧は「はい」と返事をし、鋼はゴミを片付けて台所やお風呂を確認し、煉は窓をしめて、鎧は散らかっているゲームや漫画、お菓子を片付けた。

三人の教師たちが念入りに確認し、杏子と鋼はブラックパールのポルシェに、鎧は百合恵のパールホワイトの四駆に、煉は美華のオートバイのサイドカーにヘルメットを被り乗り込んだ。

「さあ、行くわよ!!!」

「はい」

「お願いします」

女帝たちと王子たちの黄昏の時間が開幕した。

~FLOWERY FRIDAY NIGHT~





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