第十三話 「ソウル!! 」

■■■自殺ランブルのルールその13■■■


 【自殺(スーサイダーズ)ランブル】参戦者の衣服は、例え戦闘によって破損してしまったとしても、10分毎の自然治癒によって元通りに復元される。




■■■ 第十三話 「ソウル!! 」■■■




「そこをどけぇぇぇぇぇぇッッ!! 」





 清水 舞台(きよみず ぶたい)は、園内のライブハウスで知り合ったミュージシャン、三田 鳴(みた めい)の元へと戻る為、その進行を妨げる謎の"ジャージ男"に向かって勢いよく飛び出した! 





「くそッ! 人の話を最後まで聞けっての! 」





 ジャージ男は苦すぎるコーヒーを味わったような顔を作りながら、腰に手を当てて"何か"を取り出す構えを取った。





 何をする気だ? ……でも、考えている時間はない! 





 舞台は男の動きなどお構いなしに、一気に【吹けよ風、呼べよ痛み(ワン・オブ・ディーズタイムス)】の射程範囲へと詰め寄る! そして右手の紋章で相手を天高く打ち上げようとしたのだったが……





「そらッ! 」と、一瞬早くジャージ男は"何か"を舞台に向けて放り投げた。それは、チョコレート色をした、単二サイズの乾電池のような形状の物。





 何だこれ? 何か白いものがまぶしてある……? でも、長さは違うけど、ちょっと前に同じような物を見たことがあるような…………まさか? 





 今まさに右手を地面に叩きつけようとした舞台だったが、ジャージ男が投擲(とうてき)した物体の正体に気がつき、その"得体の知れなさ"に危機センサーが働いたのだろう、彼は攻撃を中断してそのまま横にジャンプし、投げつけられた物から緊急回避した。





 何だ? あの人……どういうワケなのか、"ちぎったチュロス"をボクに投げつけてきた? お菓子なんかをなぜ? 





 チュロスを避けた舞台の判断は正しかった。





 「解放(ロール・オン)!! 」





 放られたチュロスは、そのジャージ男の掛け声と共に、突然爆発するように一本の"刀"へと"変化"したのだ! 





 なんだアレ!? お菓子を武器に変える能力!? あのまま攻撃を止めていなかったら、頭を貫かれてた……! 





 突如現れた刃渡り70cmほどの日本刀による驚異から逃れた舞台だったが、彼が息をつく間もなくジャージ男は次の攻撃に移っていた! 





「今度はどうだ! 」





 彼は、ポケットから取り出した無数のチュロス片を舞台の真上に向けて放り投げた。その意味する恐怖を理解した舞台は、さきほどまでの威勢を砕かれんばかりの"恐怖"を覚える。





 「解放(ロール・オン)!! 」





 その掛け声と共にチュロス片は、禍々しいコンバットナイフへと変化し、それらは地面に引っ張られるように、舞台に向けて降り注がれる! 




 今度の攻撃は避けようにも範囲が広く、間に合いそうにない。加えて風の紋章によるジャンプの逃走も、真上からの攻撃では意味を成さない。





 これしかない! 





 舞台は素早く両手にツバを吐き付けて合掌した! 風のシールドを発現させる為の重要な儀式だ! 





「ズギュオォォォォオオオオンンンン!! 」





 この判断は正しく、かつ合理的だった。舞台の周囲に取り巻く烈風が、雨のように降り注がれたナイフ群をことごとくはじき返し、同時にその数本がジャージ男に向けて飛ばされたからだ。まさしく攻防一体! しかし……





「解除(ロール・オフ)!! 」





 さっきとは異なるジャージ男の掛け声。そしてその瞬間、男に向けられたナイフの数々が元のチュロスに戻ってしまい、ポトポトと茶色の菓子が地面に落とされ、シュールな絵面を作り上げた。





「そんな!? 」





「危なかったぜ……まさかそんなコトまで出来るとはな」





 ジャージ男は舞台の能力に多少動揺していたものの、すぐに余裕の笑みを作り上げ、再びポケットからチュロス片を取り出して「解放(ロール・オン)!! 」と叫ぶと、それを西洋の細身剣である"サーベル"に変化させた。




 マズイ! と舞台が左手の紋章で自身を浮き上がらせようとするも、一手遅く……





「うッ!? 」





 サーベルの剣身は、あと数mm動かせば腹部を貫こうとするほどの距離まで突き立てられ、舞台の動きを封じ込めていた。





「ぐ……」





「これで勝負は決まったな。さぁ……いい加減おとなしく話を聞いてくれないか? 」





 再び舞台に話しかけるジャージ男。その背後の遠景には、天にも昇るかと思うほどに吹き上げられる火柱と、それをかし消そうとばかりに数多の落雷が降り注いでいる……ここからは少なくとも1kmは離れているというのに、その雷火はハッキリと確認できるほどに大規模だった。





 三田さんはきっと、あのセーラー服の子と戦っている……なんで……? 自分からリタイアするって言ってたのに……戦う気なんて無いって言ってたのに……





 自分に置かれた状況など二の次とばかりに、三田の心配をする舞台。とにかく彼は、氷男(郡山 藤次)のように三田が苦痛に晒されるコトを止めたいと考えていた。





 くそ! くそ! こんなコトをしてる場合じゃないのに! 早く三田さんの所に行きたいのに! 





「よおし、小僧! よく聞け。オレ達はチームを作ってる……、みんなで協力しあってこの戦いを……」




 ジャージ男が舞台に話しかけるも、もはや彼にその言葉は届かない。 降着状態になってしまった舞台は、もう"躊躇"するコトをやめることにし、行動に移した! 





「うおおおおおおおおおぉぉぉぉ!! 」





「な……何を!? 」





 ジャージ男は彼の行動に対し、驚愕と"恐れ"を抱き、思わず足を震わせてしまう。





「うぐっ! 」





 舞台はなんと、あえてそのまま直進! 腹部にサーベルに体を貫通させて距離を詰め、そのままジャージ男にのし掛かって地面に押し倒してしまった! 





「やばい! 」





 焦るジャージ男。舞台は間髪入れず、その状態から右手に紋章を作り、地面に叩きつけようとしていたが、それを寸前に察知した男は、左手で掴んでそれを阻止した。この状態で舞台の能力が発動したら、強風によって両者共に巻き上がられてしまうことになる。





「くそっ! お前イカれてるぞ! 自分で体に穴開けやがって! 痛くないのかよ!? 」





「痛みは現世に置いてきた! ここでお前を空に打ち上げて、地面に叩きつける! 」





 大量の血液を口から垂らしながら、舞台は確固たる意思を男に示した。




 やべぇ……やべぇぞコイツ……弱そうな見た目から反して、とんでもねぇ"決断力"じゃねぇかよ……このままじゃ、マジでやられちまう! 





 ジャージ男は説得を諦め、右手でポケットから別のチュロス片を取り出し、 「解放(ロール・オン)!! 」の掛け声でコンバットナイフを作り出す。





「どきやがれぇ! このイカれ小僧! 」





 迷いなく頭部に向けらたナイフを舞台は上半身を後ろに仰(の)け反らせて回避! しかし、それによって生じた隙をついたジャージ男は、舞台をはねのけて立ち上がり、距離を取った。





「ハァ……ハァ……」





 一呼吸整えようとしたジャージ男だったが、その時彼は重大なミスを犯してしまったことに気が付く。





「マジかよ……」





 はねのけられた舞台は、すでに"次の行動"に移っていた……





 彼は園内の傍らに立てられていた看板に左手の紋章を"横向き"に作り、それを蹴って強風を発生させると、ジャージ男に向かってまっすぐ射出されるようにして突進を敢行した! おまけにその両手には、自身の体から引き抜いたサーベルが握られている! 





 このまま……来る!? 





 ジャージ男のミスは、自分の身を守る為のナイフを作る前に、舞台に突き立てたサーベルをチュロスに戻さなかったこと。なぜなら今、この状況で「解除(ロール・オフ)!! 」をしてしまうと、舞台が持っているサーベルと一緒に自分のナイフまで元の状態になってしまう。





 ナイフで舞台のサーベルを防御するか? それとも丸腰になって高速移動する舞台の体を受け止めるか? 瞬時の判断を攻められたジャージ男だったが、その答えは出せず"決断"出来ずにいた。





 やられるッッ……!! 





 舞台の突進に対し、避けることも受け止めることも出来ず、ジャージ男は両目を閉じて立ち尽くしてしまった。





 そして暗闇の中、何かがぶつかり合う音と、雨の日に自動車が水をはね飛ばすような音が聞こえ……そして自身に何の痛みも生じずに、辺りに静寂が生まれていたコトに気が付いた。





「え? な……何が起きた……!? 」





 困惑したジャージ男だったが、その開いた目の前にはジュースの自動販売機と見間違えるほどに大きな……大きな男の背中があった。





「ちょっと見ない内に、ずいぶんとケンカっ早くなったな」





 その巨漢は、突き立てられたサーベルが刺さらないようにしながら、舞台の両肩を掴んで、突進を正面から受け止めている……彼の足下の地面は何故か泥のように柔らかく変化しており、それがブレーキとなって舞台の攻撃の勢いを徐々に殺していたようだった。





「え……ま……まさか……」





 突如目の前に現れた屈強な男の姿に、舞台は瞳を揺らめかせる……





「よう舞台……まだ"死んで"やがったか! 」





 その男は紛れもなく、本草凛花によって破れたかと思われていた……





「……やられてなかったんですね……」





「ああ……まだオレも元気で"死んでる"よ……」





 プロレスラーであり、舞台の相棒……須藤 大葉(すどう おおば)だった。









 ■ ■ ■ ■ ■









 凛花ちゃんの炎に包まれて……目の前が光に包まれたかと思ったら……あっという間に体の中に焼いた鉄を入れられたかと思うくらいの苦しみが襲ってきた……





 ああ……マズイなぁ……このまま何も出来ないでやられちゃうのはちょっとカッコ悪いかも……





 何とか声を出そうとしてるけど……音も聞こえなくなってきちゃってさ……声出てるかな? 凛花ちゃんに聞こえてるかな……? 





 もう"熱い"って感覚すらなくなってる……このままウチ……やられちゃうんだなぁ……でもさ……最後の最後に、めいいっぱい声を出せて良かったよ……





 これで本当にお別れだね……毎日一緒に音楽を楽しんだ……ウチの声……今度会う時は……"ちゃんと"死んだ時なのか……? 





 舞台くん……凛花ちゃん……ウチの最後の歌声……どうだったかな? きみたちだけのシークレットライブ……精一杯歌って、ここでの想いをしっかりと"魂"に刻めた気がするよ……





 生き返って記憶を失ってても……この"魂"だけは……絶対に変わらずにいるだろうぜ……根拠はないけど……そんな気がするよ……





 ああ……意識がだんだん遠のいて行く……そろそろ目覚めの時かな。





 …………あれ……? 





 この感覚……





 抱きしめられてる……? ウチ……今……





 ……凛花ちゃん、きみが抱いてくれてるの……? 





 ……ああ……やっぱりきみ……実はイイ奴だったんだな……ごめんな……疑ったりして……





 ……でも凛花ちゃん、きみとのぶつかり合いは、なかなかロックで楽しかったよ……





 ……そして最後に、ありがとう舞台くん……





 さようなら……自殺遊園地(スーサイドパーク)









 三田の体は光の球体に変わって吸い込まれるように空へと舞い上がり、さきほどまで両腕で包み込んでいた三田の感触を名残惜しむようにして座り込む本草 凛花(ほんぞう りんか)だけが残されていた。





 その周囲のテントやアトラクションはことごとく破壊されてメラメラと燃えさかり、地面は黒く焦げ、戦闘機による爆撃があったのかと思うほどの惨状。それほどまでに二人の衝突は凄まじいものだった……





「長い間……色んな人と戦ってきたけどね……」





 凛花はゆっくりと立ち上がり、虚空に向かって話しかけ始めた。





「三田さん……"憎しみ"を忘れて本気で力のぶつかり合いをしたのは……アナタだけだった……」





 凛花は自殺遊園地(スーサイドパーク)から見えるとろけそうな夕日に向かい、裸足で歩み始める。"裏技"を使った際に衣服が全て焼け落ちてしまって裸の状態だったが、彼女はそんなコトに一切構わず、力強い足取りで一歩一歩、焼けた地面を踏みしめた……





「……友達の為に通さない……か……」





 夕焼けの光を浴びて、オレンジの縁取りに包まれた凛花。そして、彼女の頬には飴細工を思わせる輝きが一筋流れ落ち、滴なって足を濡らしていた。





「いいなぁ…………そういうの……」





■■【現在の死に残り人数 23人】■■




■■■自殺ランブルの能力紹介11■■■


【能力名】刃をとれ(テイク・ア・ナイフエッジ)

【能力者】瀬根川 刃(せねがわ じん)(ジャージ男)[28歳]

【概要】

刃物を使って体を傷つけ、失血死した者に与えられる能力。"物体"を剣(つるぎ)やナイフ、刀といった武器に変えるコトが出来る。

 物体は、一度手の平に収めた後、「解放(ロール・オン)」と声を上げると武器に化ける。そして媒介となる物体は髪の毛や小石等、手の平に収まる大きさであれば何でもよい。さらに「解除(ロール・オフ)」の掛け声で武器化した物体を再び元の状態に戻すコトも可能である。


 「解放(ロール・オン)」「解除(ロール・オフ)」の発動範囲は、自分の周辺5mまでと決まっていて、武器は10個まで同時に生成可能。Lvに応じて同時生成出来る武器の数が増え、発動範囲も広がる。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る