第三話 「コブラクラッチ!! 」
■■■自殺ランブルのルールその3■■■
自殺ランブルで敗退し、現世に生き返った者が再び自殺を図ってランブルに参戦した場合。2つのパターンにより、能力が強化される。
①前回と同じ方法で自殺した場合。
その能力のLvが上がり、威力や性能が向上する。
例)第一話で登場した川端憲明(かわばたのりあき)(ガス男)は2度に渡りガス自殺を図ったので【銀白のけむり (シルバーヘイズ)Lv2】となり、可燃性ガスを操ることが出来た。
②前回と違う方法で自殺した場合。
前回の会得した能力を引き継ぎながら、新たな能力を得た【多能力者(ハイブリッド)】となる。
例)第二話で登場した馬根健二(まねけんじ)(銃男)は、前回首吊り自殺によって【グリーンにこんがらがって(タングルドアップイングリーン)】を得るも敗退。そして二度目の自殺で拳銃を用いたので、【ボヘミアの鎮魂歌 (ボヘミアンレクイエム)】を併せ持つようになった。ただし、能力Lvは両方1のままである。
※ちなみに自殺ランブルに再び参加した者は、前回の記憶も引き継がれるコトになり、知識・戦術の点で初参戦の者より優位に立てる仕組みになっている。
■■■第三話 「コブラクラッチ!! 」■■■
あの世での"死に残り"を掛けたバトルロイヤル【自殺(スーサイダーズ)ランブル】にて知り合った女性、甲州蛍(こうしゅうケイ)さん。彼女はボクの目の前で、頭をスイカ割りのように粉砕させて姿を消してしまった。
あまりにあっけなく、あまりに残酷に、彼女は"生き返って"しまった。
「くそっ! くそっ!」
「動いても無駄だ小僧。知ってるぜ、お前の能力は両手がふさがれちまうと発動できないってコトをよ」
そして、彼女を"生かした"その男は、自由自在に伸ばした髪で作ったロープを操り、ボクの両手を束縛し、さらには右手を変形させて作り上げた"ライフル銃"の銃口をこちらに向けて狙いを定めている。
相手の動きを封じ込める"ロープ"と、一撃で相手を消し去る"銃"の能力の組み合わせは相性抜群だ。ボクは両手を縛られたコトで能力を使えなくなり、反撃の糸口さえ掴めないでいる。
「あばよ、小僧。達者でな」
銃男が引き金を引く動作がゆっくりと見えた。
こんなにも簡単に終わってしまうのか……ボクは敗退して、地獄のような日々を再び送らなければならないのか……?
■ ■ ■ ■ ■
「よお、ブタイちゃん。ちょっと一緒に来てよ」
そいつは5人の取り巻きを引き連れながら、人懐っこい笑顔を向けて、ボクを人気の少ない旧校舎のトイレへと無理矢理連れ込んだ。
外面は誰にでも愛されるような"仮面"を被り、多くの人を絶望の淵に追いやったクズ野郎……
上流輝義(うえるてるよし)。それがボクに飛び降り自殺を決意させた男の名前。
ボクを初め、弱そうで利用しやすい人間を嗅ぎつける才能に秀でたソイツの手によって人生を狂わされ、学校を去った生徒は数知れず……大手製薬会社の重役である父を持つことで、その傍若無人ぶりは、教師を初め、大人からも黙認されていた。
上流(うえる)に目を付けられたら最後。暴力の的になるコトなんて生易しいレベルで、ムリヤリ窃盗を働かせる等の犯罪行為を強制したり……最悪なのは、見知らぬ女の子に対して性的な乱暴を働かされそうになった時もあった……さすがにそれを命じられた時は、殺される覚悟で逃げ切ったけど……それが原因で、ボクに対するイジメはどんどんエスカレートしていった。
「うぐ……ゴバッ……グボォ……!! 」
ボクはコイツに、排泄物が染み込んで吐き気を催す便器の中に、頭を突っ込まされた上に水を流されて溺死しかけている。
取り巻きに両手を拘束され、さらに頭を押し付けられて抵抗することも出来ない。そして汚水を飲み込み、意識が遠のく一歩手前で髪を思いっきり引っ張られ、ようやく水攻めから解放される。
「ハァ……ハァ…………ゲホッ……グェッ! 」
「駄目じゃないブタイちゃん、また見つけられなかったの? 」
「ハァ……ハァ…………」
「その便器に落っことしたピアス……彼女から貰った大事なモンなんだからさ。見つけてくれないと困るんだよ? 分かってる? 」
上流(うえる)は何かとメチャクチャな理由を付けてボクを呼び出し、このようにしてボクに苦しみと辱めを与え続けていた……毎日……毎日……
「それじゃ、もう一回探してみてね! デリケートな物だから、ちゃんと口で拾うんだよ? 」
上流(うえる)は再び取り巻きに指示して、ボクの顔を便器に突っ込ませた。
「グボォ! グオオオオッ! 」
ヤツは絶対に直接自分の手をくださず、手下の同級生に命令させてボクに苦しみを与え、本人はその様子をビデオに収め、仲間内で見せあって楽しんでいた。
痛い。苦しい。臭い。汚い。恥ずかしい。悔しい。悲しい……
何度も、何度もコイツから"逃げよう"と頭をよぎった。
でも、ボクの父親が務め先が上流(うえる)の会社だという弱みを握られていて、コトあることに……
『君がいないと寂しいんだよね……あ! 関係ないけど、君のお父さんさ、毎日お仕事頑張ってるよねぇ……聞いたよ? ローンがいっぱい残ってるんでしょ? ……もし失業しちゃったら大変だよね~』
と脅しをかけられていたコトがストッパーとなり、ボクは登校拒否すら出来ず、毎日胃の中を荒らしながら登校していた。
そしてこの次の日、ボクは全校集会の直前に無理矢理下剤を飲まされ、大勢が見ている中、グチャグチャの汚物を噴き出してしまったコトで、生き続けるコトを完全に諦めた。
死んで楽になろう……
そう思ってボクは、躊躇なく学校の屋上から身を投げ、全てを終わらせた。
…………ハズだったのに!
■ ■ ■ ■ ■
「うおおおおおおおォォォォッッッッ!!!! 」
"死にたい! "その強い気持ちが、とある"閃き"を呼び起こした。
バスッ! ブシュウゥッ!!
銃声と烈風が吹き上がる音が、テントの中で同時に響く。
「マジかよ!!?? 」
銃男の放った弾丸は、ボクの頭を撃ち抜くことなく、はるか遠くへと通り過ぎていった。男の狙いは完璧だったけど、その直前にボクがロープの束縛を解いて、咄嗟に体勢を崩してその標準から回避した。
そして銃男は、商店街でライオンに出くわしたかのような驚いた表情を作り、ボクの"左手"を凝視している。
「ハァ……ハァ……」
痛い……! メチャクチャ痛い!
ボクが弾丸を避ける為に取った行動……それは、思いっきり右足を振り上げ、靴を左の手のひらに接触させて"自分だけを飛ばす"紋章を作るというモノ。それにより発生した風圧で、ボクの左手は引きちぎられ、ロープの拘束から逃れるコトに成功した。
「お……お前……イカれてんぞ! 」
宿主を失くし、血を滴り落としながら髪のロープにぶら下がる"左手"を見て、銃男はそう言った。
……ああ、そうだよ。ボクは理不尽な苦しみを与えられ続け、正常な心なんて……とっくに失ってるんだよ!!
死ぬ為なら……なんだってしてやる!!
「おおおおおおおッッ!! 」
銃男は一瞬だけボクに気圧されるも、スグに右手のライフル銃をコッキングさせ、ボクに射撃した!
「ぐあッ! 」
弾丸はボクの右腕に命中してしまい、吹き飛ばされてしまった。ボクはコレで両腕を失くし、能力が使えなくなった……でも!
「ウオオオオオオッ!! 」
それと同時にボクを縛り付けるモノは無くなった! ボクは思いっきり踏み込み、銃男の頸動脈目掛けて飛びついた!
【特殊能力(スーサイダーズコマンドー)】が無くったって! お前に噛みつくコトは出来るぞ!
どんなに痛めつけられようが、ボクは絶対に死ぬことを諦めない!!
ドガッ!
……でも……
「ふぅ……ビビらせやがって……」
駄目だった……銃男は、飛びついたボクを冷静にかわしながら、強烈な肘打ちを背中に振り落としたようだった……
「くそ……ちくしょう! 」
そして地面に這いつくばりながら、ボクは気が付いた。
この人は……多分、能力が無くても"元々強い人間"なんだ……。気迫や根性で補いきれない程の……"圧倒的実力差"があった……
『強い者が勝ち残る』
そんな絶対不可逆な現実を、わざわざ死んだ後にまで見せつけなくたっていいじゃないか……
「面倒かけやがって……コレ今度こそオシマイにしてやる」
ガチャリ! と銃をコッキングさせる音。このままボクは頭を撃ち抜かれて、敗退してしまうのか……
みじめな醜態をさらして一日一日を涙を流しながら送らなきゃいけないのか?
そんなのは……
「ぐああああああああああああああああッッッッ!! 」
え!?
「うおおおおああああッッッッ!! 」
銃男が悲鳴を上げている?
ボクはその状況を確認すべく咄嗟に体を起こすと、目の前で行われている"えげつない状況"に、思わず胃液を逆流させてしまった。
銃男は、"見知らぬ大男"の太い腕によって首を絞めつけれながら……火を灯したロウソクのように、全身を見る見る"溶かされて"しまっていた!
ブクブクブクブクブク…………
そして、炭酸飲料をコップに注いだ時のような音を立てながら、銃男はドロドロとした"液体"になり果て……遅れて光の球体となり、天へと昇って消えてしまった。
「ゲホッ! ゲホッ! ……今のは……コブラクラッチ? 」
銃男をアッという間に敗退させたその男は、身長190cmはあろう長身、かつゴリラのような筋骨隆々な逞しい体の持ち主……
彼はその恵まれた体躯の剛力で、銃男の右腕を絡み取って首に巻き付けて締め上げる……いわゆるプロレス技の「コブラクラッチ」を完璧に極め、それと同時に、どういうワケか人間を溶かして消してしまった……
「……両腕が無くなりながらも立ち向かうとはな。なかなかガッツがあるじゃねぇか! ボウズ! 」
「は……? 」
ボクもさっきの銃男と同じように溶かされてしまうのか? そう思いながら怯えていたが、彼は全く敵意の無い口調で、ボクを称賛しサムズアップを向けた。真っ白な歯を覗かせながら……
「オレは『須藤大葉(すどうおおば)』ってんだ。ヨロシク! 」
爽やかでよく通る声、丸刈り頭に刻まれたトライバル模様のライン。そして虎をモチーフにしたロゴマークがプリントされたタンクトップ、そこからはバキバキに鍛え上げられた大胸筋がはみ出している。
「同盟を組まねぇか? 最後の二人になるまで協力するんだ、タッグマッチだ! 」
「タッグ……? ボクと? 」
生きている頃は運動オンチのオタクで、体育会系の人とは縁が無かったボクだけど……どうやら頼りがいのある、マッチョな"死にたがり"仲間が出来たらしい……
■■【現在の死に残り人数 43人】■■
■■■自殺ランブルの能力紹介3■■■
【能力名】胸いっぱいの毒を (ホールロッタベノム)
【能力者】須藤大葉(すどうおおば)[28歳]
【概要】
薬や毒を用いて自殺した者に与えらえる能力。両手のひらから全てを融解させる強力な酸液を噴出させることが出来る。それは、例え金属であっても溶かしつくす程に強力である。
Lvに応じて酸液を噴出できる箇所が増え、Lv3ともなると酸液を弾丸のように飛ばせるようにもなる。
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