スキー・ホライズン

@kuronekoya

第1話 DEPARTURES

「俺、一度スキーってやってみたかったんだよね」


 アキバのクリスマス祭の準備をしながら、ポツリとトウヤが言った。


「姉ちゃんも行ってみたいよね?」

「……うん、そうね」


 現実世界のトウヤは事故のせいで車椅子生活だ。スキーもスノボも出来はしない。

 パラリンピックの競技にもなっているチェアスキーというのはあるけれど、トウヤがやってみたいのはそれではないだろう。


「あ! 私スキーもスノボも得意だよ!」

「五十鈴さん、リズム感いいですもんね」

「行くんだったら、私、教えるよ! あ〜、でもそもそもスキー場がないかぁ」

「スキーっていうのは何なんだい? ミス五十鈴」

「長い板を足につけてね、雪の上を滑って遊ぶの」

「よくわからないけど、それって面白いのかい?」

「最初のうちは転んだりして怖いけどさ、上手くなってくると面白いよ!」

「ふ〜ん、それは冒険者のレベルアップみたいなものなのかな?」


「斜面の勾配、コブ、雪質、天候……あらゆる状況を瞬時に判断して自分の体をコントロールする――冒険者の身のこなしにも通じるものがありますにゃ」


「にゃん太さん!」


 どこからともなく現れたにゃん太班長。

 そして、すかさず振り向くセララさん……あいかわらず一途でブレないな。

 っていうか、三日月同盟自分のギルドのクリスマス祭の準備は大丈夫なの?


 私は知っている、にゃん太さんはたぶんスキーが得意。

 それは北海道出身だから。

 どうして知っているかは秘密。

『にゃん太班長・幸せのレシピ』に描いてあった、なんて言えるわけない。


「どうですかにゃ? クリスマス祭が終わったら、大晦日の前にギルドのみんなでスキーに行くというのは?」

「おう! もちろん行くさ!! スキー祭りだぜ!!」

「ええなぁ、ついでに温泉とかあったらもっとええなぁ……」


 にゃん太さんが振り向いた先には直継さんとマリエールさん。

 そしてその陰にはシロエさんとアカツキさん。


「僕は留守番して仕事するよ」

「私は主君の行くところ、どこへでもついて行くぞ。

 ……たとえ留守番でも……」


 アカツキさんはスキーに行きたいみたいだ。

 ジト目でシロエさんを見上げている。

 いつの間にこんな女子力の高いあざとさを身につけたのだろう? 女子大生侮りがたし。


「直継さんがひとっ走り現実世界でスキー場と温泉があったあたりを回ってきて、適当な候補地を探してくればいいのですわ。

 ――出来ますよね? 直継さんなら」


 眼鏡をクイッと上げて、いつの間にか現れたヘンリエッタさんが思わせぶりに問いかける。

 グリフォンで行って来い、ってことですね、判ります。


「あー、ならウチも一緒に行って、手分けして直継やんがスキー場でウチが温泉を探せば効率ええやん」

「ダメです! 三日月同盟ウチのギルドはクリスマス祭の準備で大忙しなんです!

 さあ、マリエールもセララも戻ってもうひと働きですよ」

「ひと働きどころやないやん! いつの間にウチのギルドはこんなブラック企業みたいになったんや!?」

「つべこべ言わずに『働かざる者食うべからず』です。

 その代わりクリスマス祭が終わったら、直継さんに見つけてもらったリゾートでスキーと温泉を楽しみましょうね。

 もちろんシロエ様もご一緒していただきますわ」

「僕はいいよ……」

「ダメです! 休息と気分転換は大事ですわ」

「行こう! 主君!!」

「これは行くしかなさそうですのにゃ」


 ナイスダメ押し! にゃん太さん!!


「それじゃあ、さっそくスキー場と温泉を探しに行ってくる祭りだぜ!」

「では我が輩はロデリック商会へ行って、板とスキー靴を発注してきますにゃ」

「にゃん太さん! 私スノボがいいです!!」

「ふむ、それならいっそ人数分のスキーとスノボを両方作ってもらうですにゃ」

「じゃあボクはミチタカさんのところへ行って、スキーウェアを作ってもらってくるよ!」


 いつからいたのか、てとらさんが直継さんの腕にぶら下がっていた。

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