2ページ

「・・・」

「・・・」

 目の前に来たのに、相手まで無言とは。もしかして近づいて見たら違う人だったパターン? これは双方辛い奴だ。マジか。ここは男の俺が恥を被るしかない、か?

「えっと」

「やっぱり」

 やっぱり?

「気づかないんですね」

「え」

 その女性は笑う訳でもなく、呆れる訳でもなく、悲しむ訳でもなく、あざ笑う訳でもなく、無表情で言った。

「わたしですよ」

 わたし?

「アサギリミクリです」

 アサギリミクリ・・・? アサギリミクリ?

「ほら、占いの館の」

 ピンポーンッ!

「ミクリさん!」

 ミクリさんの苗字がアサギリっていうのも初めて知ったわ。

「ミクリさん、こんにちは」

「酷い人ですね、ご近所さんなのに」

「い、や。その、いつもと雰囲気が違っていたので、ちょっと分からなくて」

 だっていつもの黑装束じゃないし、なんか黒々しいオーラ出てないし、占い師感ないし、いつものミクリさんじゃないし。

「そんなにいつもと違いますか」

「いつもよりお顔が出ていると言うか、その、いつもはお顔があまり見えないから」

 それに猫背だし。今日は前髪をセンターで分けてスッキリとした印象だ。全然違う。こう、品があって綺麗な感じ。ちょっといつもがもったいないくらいに。

「だってそっちの方がソレっぽいじゃないですか」

 美人にしてはいささか残念な笑みを浮かべてミクリさんが言った。やっぱり一緒だったわ。ちゃんと見たら黒々しいオーラ出てたわ。

「あ、そうだ、花菱さん」

「え?」

「今日はあまり公園に近づかない方が良いと思いますよ」

「え?」

 なんで公園に行くのが分かったのかは分からないが、紅葉を見るために出来るだけ公園から距離を取って歩いていたのに、見事にサッカーボールが飛んできた。痛む頭を撫でながら思う。

 ミクリさんはどんな見た目でも、やっぱりミクリさんなんだなぁ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る