脳みその回転の早さには定評がある

ちびまるフォイ

ざるセキュリティ

近くに競馬場らしきものができたので行ってみることに。


「あれ……馬いないぞ?」


競馬場といえば芝が敷いてあり、馬がロータリーを回る。

そんなイメージだったのに1頭もいなかった。


「すみません、ここに馬っていないんですか?」


「あんたなに言ってるんだい。ここは競馬じゃなくて、競脳だよ」


「けいのう?」


「頭の早さを競うのさ。せっかく来たんだしやっていきな」


おじさんにそそのかされて脳みそ新聞を買って会場に入ることに。

競馬場よりもずっとコンパクトな会場には、ガラスケースに入った脳みそが18個あった。


「なんか……グロいですね」


「んなこたぁいい。それで、どれに賭けるんだい?」


「ああ、そこは競馬と一緒なんですね。そうだなぁ」


脳みそ新聞に目を通してみる。

新聞には、かつてその脳みその学歴も書いている。


「お! これなんかいいじゃないですか! T大出身! これにします!」


「学歴だけで判断するなんて兄ちゃん、まだまだ素人だな。

 いいかい、そんな一面的な見方をしてはダメだ」


「脳みその早さを決めるんでしょう? ほかに何があるっていうんですか」


「今回の出題内容を見てみろ。今回は数学と出て入るだろう?

 数字に強い脳みそはどれかを見極める。さらに血統も大事だ。

 この脳みそなんか親が教師をやっているから、間違いなく勉強系は強い」


「な、なるほど……!」


「もう脳券買ったからしょうがないが、次からはもっと考えて買うこった」


かくして競脳がはじまった。


ガラスケース18個の脳みその前に、18人の人間がやってくる。

脳みそを中に入れると紙が配られてスタートした。まるでテストみたいだ。



『結果は、3脳身差をつけて、5番が勝利しましたーー!!』



レースの結果は俺も、ましておじさんも見事に外れた。


「おじさん……さっきあれだけ言っておいて……」


「ま、まぁ、わしらのような頭が悪い人間に先が読めないのが面白いところさ」


結果的には負けてしまったものの、予想できないものを予想する楽しみを覚え

それからしばらく競脳場へと出入りするようになった。


「また負けた――!!」


が、どうやら才能はないらしくまるで勝てない。


「もう、どうして最後に一気に答えにつまるんだよぉ……。

 そのときの主人公の気持ちなんてすぐわかるじゃないか」


今回の問題は「国語」だった。

序盤の漢文や古文のところで大きく引き離したのに最後の問題で大失速。

見ているこっちがやきもきする。


「はぁ……もっとうまく脳みそを操ってくれよ……」


自然と漏れたつぶやきだったが、脳みそに雷撃たれたような衝撃だった。


「ってそうだよ! 俺がやればいいじゃん!

 俺がやればもっと脳みそを上手く使って一着間違いなし!」


脳みそを入れてもらう「脳手」と呼ばれる職業を目指すことに。

結果を予想する才能はなくても、脳みそを上手く使うことはできるはず。


自分に賭けておけば必ず勝てるはずだ。

競脳にインサイダー取引などはない。


「っしゃあーー! 頑張るぞ――!!」


脳手になるべく資格を取り、ついに競脳の場へと呼ばれた。

会場にはおじさんも来ていた。


「えええ!? お前、脳手になったのか!?」


「ふふふ、おじさん。今度は結果がわかります。1番の俺に賭けてください」


「お、おう……」


レース開始直前、脳みその前にやってくる。

俺の担当する脳みそは海外のSANAスペース研究所職員の脳。


柔軟で思いもよらない角度の答えを出すことができるはずだ。


『さぁ、脳みそが今、脳手へと移されました!』


脳みそが入れ替わると、一気に視界が開けたような気分になる。

見えている風景から得られる情報が何倍にも増えたような回転の早さを感じる。


「これは……すごい……!!」


ファンファーレが鳴った後、レースが開始された。

今回のテストはIQテスト問題でまさにこの脳の得意分野。


見ただけで頭の中で答えが泉のように湧き出てくる。

アイデアの激流に体側が追い付かない。


そして、これからどうすべきかも一瞬にして閃いた。


「よし、これしかない!!」


 ・

 ・

 ・


『出ました――!! レースの結果、1着は12番の大学教授脳ーー!!』


レースが終了した。

オッズが一番高かった俺の脳券はびりびりに破かれて会場のゴミと化した。


1着の脳みそが表彰されていると、おじさんが顔を赤くしてやってきた。


「お前!! びりってどういうことだ!!

 あれだけ良い脳みそで、最高の環境で負けるなんて、ありえないだろ!!!」


「いやぁ、脳みそがすごすぎて、体側でさばききれなかったんですよ。

 電動自転車にF1エンジン乗せられたような気分でした。あはは」


「こっちは大損だ!! 騙された!!」


「競脳って難しいですね」


おじさんは去っていった。

てっきり気付かれたのかと思ってヒヤリとした。



「1着で表彰されると、持ち出しにくくなるからな……」



俺は競脳職員に感づかれる前に、入ったままの脳みそを持って会場を去った。

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