女子高校生ライフ。



「スリーサイズ言ってくるってことは、ぜってーセクシーアピールだぜ」

「イヤー!不潔よー(笑」

ドヤドヤとざわめき出す教室。

スーリアは、真っ青になっていた。やっちまったー!

「わざわざ自分のナイスバディを告げてくるってことは、俺に惚れてんな」

そう言ったのは、この芸能人クラスでも一際目立つ金髪碧眼の少年だった。

「世界的ディーバのスーリアちゃんなら、俺の彼女にしてやってもいいぜ」

ウインクしてくるそいつに、スーリアは見覚えがあった。

「あ!あんた、天駆天瑰の最年少で、一番ちびー奴!」

スーリアは言ってしまった。

「んだと!おらぁ!」

そいつは立ち上がる。

「俺は、確かに天駆天瑰のチームの一員だよ。最年少はいいとしてもよ。一番ちびー奴ってなんだよ!このアマァ」

スーリアに近づいてくるやつ。スーリアはやっちまった余波で、真っ白になって固まっている。

「俺の名前、覚えてねぇの?バカ」

今にもくっつきそうな距離にそいつはいる。スーリアのひたいに一筋の汗が。しかし、スーリアは声を振り絞った。

「あ、あんたの名前なんか知らない。興味ないし」

そいつは、はぁぁっと深いため息をつき、呆れた顔で言う。

「もう一度名乗ってやるよ。俺の名前。エア・シングリードだよ。天駆天瑰のシンって覚えてねぇのかよ」

――そうだ。こいつ。天駆天瑰のシン。大人気のダンス&ボーカルグループ、天駆天瑰の中でも、一番生意気な奴だ。

高身長なグループの中で、一番背が低くて、年上の女性ファンに、生意気でカワイイとか言われてる奴。あにさまと先生くらいしか男に興味なんてないけど、これから高校生活を一緒に送るクラスメイトだもんね。覚えておかなきゃーー

第一印象最悪ではじまった新しい学校での生活。

最初こそつまずいてしまったが、スーリアは、その学校生活初日をこなしきる。

絡んできた天駆天瑰のシンは、一日中スーリアをジトーっと見ていた。

イケメンで、男性モデルもやっている奴で、自分の容姿やオーラに自信があるためだろうか。自意識過剰そうなやつなので、きっと自分の名前を忘れられていたことに妄執を抱いているのだろう。

あー、まためんどくさいことになるのかぁ。と、スーリアは心の中でうなだれる。

そんなスーリアの心境は、お構いなしに、昼休みになるとクラスメイト数人がスーリアに寄ってきた。

「スーリアさん、貴重な情報(スリーサイズ)ありがとうございました」

そう言ってきたのは、いかにもオタクそうな、学級委員の宇喜田くん。名前を名乗りつつ、ネットの呟きにでもスーリアのスリーサイズを投稿するのだろう。そう言った。

スリーサイズ情報のお礼に自分のブログのアドレスをくれた。

宇喜田くんは、ネット発のオタク系タレント。動画サイトやブログで、けっこうコアなファンが多いそうだ。次に声をかけてきたのは、レトロなカメラを手にした女の子。

「スーリアちゃん、うちのクラスにきてくれてありがとう!一緒に写真撮ろう」

この子は、宇喜田くんと同じく学級委員のハルさん。この子も、ネット発のオタク系アイドルで、ブログで自分のコスプレ姿を載せている。

なぜか、自分のレトロなカメラは御構い無しに、ポケットから出したスマホで、自撮り棒を使い、スーリアと自分のツーショット写真を撮った。

――馴れ馴れしいとか思ったけど、話しかけやすい子なのかもーー

なんとなく馴染んでいけそうかも…と思ったスーリアは、思い切って、自分の席の後ろにいる女の子に、自分から声をかけてみた。

「こんにちは。スーリアだよ。あなたは?」

その女の子は、参考書から顔を上げた。

「わたし?」

スーリアは、笑顔を返した。

「うん」

その子は、無表情だ。

「わたしは、エメラルド・サンドラ。これからよろしく」

スーリアは、握手しようと手を差し伸べる。

しかし、その子は、スーリアの手に視線を移すことなく、スーリアを真っ直ぐ見据え問う。

「スーリア、東照機国で生まれたって噂、本当?」

スーリアは、面食らってしまった。思わぬ質問だ。

「…東照機国は、わたしを作った人、カンダタの出身国だよ。わたしはこのAガーデンで生まれたの。何?なんかわたしのことで、何かあるの?」

「そう。いいの。ちょっと気になってたから聞いただけ。あなた、セカンドクラスでも、最上位のレベルだものね。てっきりセカンドクラス製造会社の最王手がある東照機国で生まれたんじゃないかって思ってたの。疑問が解けてよかった」

エメラルド・サンドラは、そう言うとまた参考書に視線を落とした。

ーーなんか、ちょっと、この学校でも上手くやれそうにないんだけど…

と、スーリアは思った。

スーリアは、セカンドクラスと呼ばれる人造人間の一人だ。アンドロイドやヒューマノイドなどの、機械的な、人工知能を搭載した人型ロボットではなく。人工のDNA、人工の子宮で作られた肉の身を持った人造人間なのだ。

スーリアは、何を着ても似合った。

セクシーなベリーダンスの衣装、大人っぽいイブニングドレス、可愛いロリータ風のドレス、女子高校生の制服。

制服に身を包み、颯爽と歩くスーリア、窓際で風を受けながら長い黒髪をなびかせるスーリア。

この美しさは、芸術。作られたのだ。

太古に存在していたとされる女神と崇められる女性のDNAを復元し、修正し、さらに見た目を美しく、声を魅惑的に、頭脳を明晰にしたのがスーリア。

長く真っ直ぐで、烏の濡れ羽色をした髪。エキゾチックな褐色の肌。大きな瞳。完璧な肢体。誰もを惹きつけるそれは、人の作った人だからなのかもしれない。

皆、その人工の芸術に、酔いしれていた。


新、高校生活2日目の朝。スーリアに、気になる人ができる。

「ッはよ。スーリア」

昨日やり合った天駆天瑰のエア・シングリードが、スーリアの頭にカバンを乗せて挨拶してきた。

「な、何!?」

スーリアは、いきなり置かれたカバンの衝撃に驚いた。

「何、だと?昨日のこと忘れたとは言わせねーぞ。俺のことディスってくれやがって」

「ディスってなんかないわ。本当のことでしょ。ちびー奴!」

「それがディスってんだよ!こいつ!」

と、シンはスーリアに拳を向ける。

それを見ていた学級委員の宇喜田くんが飛んできた。

「シン君!暴力はいけないよ」

「宇喜田ぁ?マジで殴るわけねーだろ。こいつ、殴って言うこと聞くタマか」

「分かってるならいいんだけどさ。君、もう暴力で停学になるのヤバいから。次やったら退学だから」

「わかってんよ。俺みたいな人気者が、誰かを傷つけたとして、味方がいなくなるわけねーけど。スーリアは殴らねー。俺の股間に関わるからな」

シンのその言葉で、宇喜田君が真っ赤になる。それを見兼ねたスーリアが、宇喜田君の代わりに突っ込んだ。

「股間じゃなくて、沽券でしょ。バカ」

「な!?」

シンは、これまた沸騰したヤカンのように水蒸気を上げた。

「そ、そうだよ。沽券な。沽券。てか、バカはそっちだろ」

「何であたしがバカになるのよ。頭悪すぎ!」

ますますヒートアップするスーリアとシン。そこに、エメラルド・サンドラが通りかかった。

「シン君、スーリア、宇喜田君、もうすぐホームルーム始まる。席につけば」

涼しい雰囲気で目前を去っていったエメラルド・サンドラに、三人は急に熱が冷め、自分の席に向かう。

すると、スーリアの鼻に、覚えのある香りがした。

この香りは、どこまでも続く原っぱの匂い。

ーーあの人の匂いだーー

香りのする方向を向くと、そこにはエア・シングリードの姿が。

ーーえ?

シンは、スーリアの視線に気づき、振り返る。

「まだなんか言いてーことでもあんの?スーリア」

スーリアは、シンを見つめ、言葉が見つからず、金魚のように口をパクパクさせた。

「なっさけねー顔」

と笑うシンに、スーリアは先ほどの熱が蘇ってきた。

「ちょっ…」

ぷくーっとむくれてきたスーリアの頬。

ーーしかし、あの香りは?

プシューっと頬の空気を逃すスーリア。

スーリアは、真顔になった。

シンは、スーリアの空気がシリアスになったのを感じ取り、つられて真顔になる。

「スーリア?」

誰ともなくスーリアの異変に気づきだした。

沈黙が流れる。

「あの…」

口を開くスーリアに息を飲むシン。

「…ごめん。おはようって返事してなかった」

一気にガクゥっとなるシン。周りも、何だそんなことかと、ホッと胸を撫で下ろした。ホームルームの間、スーリアは、自分の胸の鼓動を感じていた。

ーーあれは、あの匂いは、あにさまの匂い。旅を続けてるジゴロで優しいあにさま。スーのためだけのあにさま。どうして、あの変なちびー奴からあにさまの匂いが?

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