第40話「不器用だから」
カルマ視点
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俺は昔から兄クライスと比べられた。
当時からアニキは天才と謳われ、5歳にして勉学は学生と比べても群を抜く賢さで、魔法に関しても5歳で習得し、皆から【天才童子】と謳われていた。
そんなアニキを持つ俺はアニキを尊敬し誇りに思っていた。
だが周りの目は違った。
始めは俺に対し、兄が天才故の期待を乗せられる。
だが、アニキとの差が歴然と離されていくにつれ、俺に対しての目が変わっていった。
勝手な奴らだ。勝手に俺の背中に期待と言う名の重しを付けて愕然とするあの大人の目にはウンザリだった。
挙句に同世代からは「才能無しのクズ」「兄から才能全てを奪われたゴミ」と心も無い言葉をかけられた。
だから俺は誰よりも鍛錬し、強さを得ようとした。
バカにする奴はすぐに殴りかかり喧嘩した。
おれは強い!俺は強いんだ!と証明するかの様に。
そんな矢先にアルが頭を打ち意識を失うといった事件が起きた。
その当時、そんなに違和感を感じなかったが、目が覚めるとアルは別人の様だつたかもしれない。
根本的に違ったのはともともと好奇心旺盛な感じだったのに、3歳とは思えない程、物事に対しての執着心が無くなってしまった。と言うよりも何をするにも何かに怯えている様だった。
別人と言えばそう言えるかもしれないが、今までの物事の記憶を辿れば間違いなくそれはアルだった。
それからだったか?
アルが俺とアニキとの差を気にしだし、人と目を合わさなくなったのは‥。
そして留めはアルが6歳の時だ。
魔力測定でアルの魔力が全くの無だったのだ。
正直。俺がアニキに対し、劣等感を感じるよりも、アルに対し俺は不憫に思った。
そして、とうとうアルは家出を図り帰ってこなくなった。
アルの気持ち。俺には痛い程わかった。
期待の重り。出来なかった時の皆から向けられる視線の恐怖。
前に進むには余りにも強大な壁だ。
だから俺は必死に探した。親父、母さん、アニキも必死に。
親父と母さんが見つけて帰って来た時はホッとしたんだ。
そしてアルとアニキが寝静まった時、親父が俺の部屋に入ってきて俺に言った言葉は今でも忘れない。
「アルを探してくれてありがとうな。お前はアルの気持ちを誰よりも分かってあげれる子だ。人は生まれや育ち、兄弟でも生まれた時から平等に何かがあるわけではない。何が出来るから素晴らしいとかじゃなくて人それぞれの個性、それが素晴らしくて美しいんだ。綺麗毎かもしれないが、俺はそう思っている。お前もたまには肩の力をぬけ。誰が何と言おうと、俺達は家族なんだからな。」
親父は分かっていた。いや分かってくれていた。
俺の気持ちを。
俺は頭が良い訳でも魔力が高い訳でもない。ほんとは只の凡人にすぎない。だから頑張ってるんだって事を。
その言葉を俺に告げ、ポンと俺の頭に手を置き、頭を撫でた。
俺は親父とは目を合わさず、目線をそらすと、親父は一度俺を抱きしめ背中をポンポンと叩くと、満足そうに部屋を出ていった。
俺が物心ついてから始めて涙を溢れ出した一瞬だった。
それ以来、俺の肩の荷は軽くなり、相変わらず喧嘩などは日常茶飯事だったが、俺自身も心の余裕はできた。
ただ鍛錬に関しては元々の負けず嫌いもあり鍛錬量は減らさず今でもかわらない。
だがそんなある日。思わぬ現実を知らされる。
アルが学園での入学式で思わぬ学園トップという数字を叩き込んだ。
皆が喜び中、俺はボーゼンと立ち尽くし、褒めるよりも驚きが大きかった。
何故なら信じられなかったのだ。
アルは6歳の時に魔力測定をしていて、魔力量が皆無だった。
なのにそれが魔力測定器を破壊する程の量が出るなんてことは考えられない。
だが、アニキとの試合や、サーベルリザードとの戦闘時で知らされてしまった。
アルの才能を。
正直。妬みが無いと言えば嘘になる。
俺はその才能が無い為、今まで死ぬ思いで努力し、この地位まで駆け上ったんだ。
何がきっかけでこうなったかはわからない。
親父の言葉も心に確かに焼き付いてられてはいる。
だが納得いかないだよ。
ムシャクシャした気持ちが抑えきれねぇーんだよ。
確かに人それぞれの個性は素晴らしいかもしれないがあんまりだろ!?
考えれば考えるほど自分が虚しくなる。
自分の持つ器の小ささが垣間見えるからだ。
アル。俺はどう言ってお前と話せば良いかがわからなくなった。
だから俺と戦ってくれ。お前がもし嫌がったとしても、その時は殺す訳はないが殺す気持ちで攻め込む。
こんなやり方でしかお前と向き合えないアニキを許してくれ。
そして俺はきっとお前に負けるだろう。
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