第37話「王直々の以来」

現在俺は片膝をつき、こうべを垂れていた。


目の前には金髪で髭を生やした40過ぎの男が高級椅子に腰掛けている。


この男こそ、我がレイドックの王である。


初めて会ったが近くで見ると身体を鍛えているのかガッシリとしていて強そうだ。


そしてその横には騎士が数人立ち並ぶ。


「表をあげよ。」


その言葉で俺は顔を上げた。


「お主アルスといったな。」


「はい。アルス・ホーエンツでございます。お初にお見え掛かります。」


右拳を左手で握りこみ、頭を再度下げる。


謁見でのマナーはクライス兄さんに予め教えてもらった。


「うむ。その歳でよく出来たヤツよ。其方の今回の働き。誠見事である。よって大白金貨5枚を授けよう。」


王がそう言うと、隣に立つハゲ。もとい、60は過ぎているであろう宰相が隣に並ぶ騎士に首を動かした。


その合図で騎士が俺の前に布袋を置き、元の位置へと下がった。


「そこに大白金貨5枚が入っておる。受け取るがよい。」


宰相がそう言ったので俺は迷わず受け取り懐へとしまった。


しかし、今回俺がドンパを倒したのは事実だが、ハーマンドや月影だって町の人々や魔物と激戦し活躍していたのだ。


俺はこのお金を一人で受け取る積もるは毛頭無い。


後でハーマンドと月影にも分けようと心に決めた。


「ありがとうございます。」


「して。お主の今回の実力を見込んで、折り入って頼みがあるのだが‥」


何だいきなり?王直々に俺に頼みなんて‥。


「やってくれるか?」


いやいや、何も聞かずにやる訳ないでしょ。


「どういった内容か聞いてから決めても?」


「うむ。それは的確な判断だ。内容は応接室で話たい。後で案内させるゆえ、来てくれるか?」


断ってもいいが、まぁここは聞くだけ聞いてみようか。


俺は首を縦動かした。


謁見が終わり、玉座の間から出ると今日は非番のクライス兄さんが待ってくれていた。


「どうだった?」


「なんだか緊張したよ。王って感じだった。それから何だか頼みたい仕事があるとか言われたんだけど」


その発言にクライス兄さんは目を見開いた。


「王直々に!?アル!それは凄い事だよ。」


「アル様。」


クライス兄さんと話していると、メイドに呼びかけられた。


「応接室にご案内させて頂きます。」


「あ、はい。」


俺がそう返事すると、「頑張ってこい。そう言う事なら先に帰っておく。帰ったら話してくれよな。」そういってクライス兄さんは俺の背中を押した。


応接室に入ると、長めのテーブルがあり、メイドに誘導された席へと着席した。


だが着席したと同時に真横から威圧感?いや殺気のある視線を向けられ、振り向くと、屈強そうな男が俺を睨みつけていた。


髪は緑で目に大きな傷跡がある。歳は20代ぐらいだろうか?


誰が見ても実力者と頷ける貫禄のある男だ。


だけど何?その敵意むき出し的な目は?辞めてくれない?めちゃくちゃいずらいんですけど。


俺は視線を合わせるべきではないと判断し、目線を逸らした。


その緊張感の中、数分後に応接室の扉が開かれ、宰相と王が入って来た。


そして俺と対面に腰掛けた。


「さて、詳細を説明する。」


内容はレイドックの国境内にある、ジャンベラ小爵の領地である【ベルベラの街】の調査だった。


なんでもドンパと繋がりのあった男だそうで、何かと裏で悪巧みをしているのだそうだ。


それに最近のベルベラは荒れ放題らしく、ゴロツキが多く治安も最低ランクだそうだ。


だが何故俺にその様な仕事を?っつか子供にそんな所に行けとかバカなのでしょうか?


王とはいえ、それはあんまりでしょ。


俺は怪訝に思い、問う。


「何故、俺にその様な危険な場所に?」


「ふむ。確かにお主の様な子供に本来頼むような仕事ではないのだが、うちの調査員を何度かベルベラに派遣したのだが何処かで密偵の者の情報が漏れているようでな、返り討ちにあっておるのだ。そんな時、お主のような、若く、知名度も少ない実力者が現れれば‥」


「気づかれる心配もなく使う。って事ですか?」


俺がそう問うと、先程まで玉座に座っていた王とは違い、ニヤリと無邪気に笑って見せた。


「そうだ。使える者は、誰でも使うのが私の主義だ。まぁ無理を言っているのは100も承知だ。断ってくれても構わん。因みに、やってくれるのであれば報酬は大きく取らすし、何処ぞの空いてる屋敷もくれてやる。どうだ?」


どうやら王の本来の性格はなかなかフランクな感じらしい。


だが俺にとってそこまでする必要はない。


何を好き好んで、そんな危険な場所に行かねばならないのか。


金はいくらあっても欲しいが、ここは断るべきだろう。


俺が断ろうとするその時、隣に座っていた男がガタッと激しい音を響かせ立ち上がった。


「おいジジイ!いくらなんでもこんなガキに任せるなんてありえねーぞ!」


「王に向かって何だその口のきき‥」

「よい!」


宰相が男に対して憤怒しようとしたがそれを王が止めた。


「アルスすまない。自己紹介がまだだったな。こいつは今回の依頼で共に協力してもらおうと思っているバルックだ。ちなみにこの宰相の息子だ。」


息子ぉ!!?


「王!このバカが申し訳ない。どうか打ち首だけは」


「はっはっは!よいよい。幼き頃から知っておる仲だ。そんな事はせんよ。」


「そんなこたどうでもいいんだよ。ジジイ。それよりなんでこんなガキと俺が組まなきゃなんねぇんだ?俺一人で充分だろがよ。」


「確かにお主の実力には目を見張る物がある。だがバルトールきっての推薦なのだ。」


「バルトールさんが?」


バルトール?どっかで聞いた事があるな。


あっ!団長のことか。そうか、あの団長が推薦なんか出したばっかりにこんな事になったのか!とんでもない事してくれやがったな。


っつか王はジジイなのに団長は【さん】付けなの!?


だがバルックは其れを聞くなりすぐ俺にまた目線を戻し、更に威圧する。


「おいクソチビ。バルトールさんにどういうコネ使ったんだよ?」


はい?何のこっちゃ。


キョトンとした表情を浮かべる俺に対して、余計に苛立ったのかバルックは俺の胸ぐらを掴み引き寄せた。


「おい!テメェに聞いてんだよチビ助!こんな仕事は俺一人で充分なんだよ。断るよな?断るだろ。お?」


グイングインと俺を振り回すバルック。


ああーめんどくさいタイプの奴だな。


俺だってこんな奴と仕事なんてする気もないし、この依頼を受ける気もない。


むしろこの依頼を受けた場合、また暫く家に帰れない。


ドンパの依頼の時はニアとイフリートも明るく送ってはくれたが、帰って来た時のあの寂しそうな表情は忘れられない。


抱きしめられすぎて危うく死ぬ寸前だったが‥。


それに加え、いなかった分を取り戻すといって2人共に抱きつかれながら寝たせいで今日は身体中が痛い。


だけど、あの表情を見てからじゃ次に行く時はニアもイフリートもと思っているんだ。


「で、どうだ?やってくれるか?」


王が俺に再度確認する。


断るに決まってるさ。


「やる訳ねーよな?」


その時にバルックが俺の胸ぐらをグイッと引っ張ると俺の首が縦に動いた。


乱暴な奴だ。はいはい断りますよ。


「断‥「おお!やってくれるか!!」


「え?」


不意な王の反応に素っ頓狂な声をだす。


何?なんでそうなった?


「おい!何頷いてんだよぉ!」


「えっ、違!「いやー良かった。良かった。断られるんじゃないかとヒヤヒヤしたぞ。おい、アルスの学校に王直々の命で外に出ると伝えておいてくれ。あと報酬の用意もしっかりとしておいてくれ。」


「は!承知しました。」


執事らしき物が、早急に応接室から出て行った。


えぇぇ!!?なんでこうなった?


結局、おれは断るタイミングもないまま、明日レイドックを出ることとなった。


だが、これが後、バルバラの町とは別件でレイドックにて大きな事件が起きる事も知らずに。


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