第35話 「鬼になる。」

あの後。皆んなで救出活動に参加した。


だが助かった人達もいるが、戦場後を見れば断然に死者の方が多かった。


「これでまぁひと段落やな。」


月影が額の汗を拭う。


ハーマンドも腰を地に落とす。


「皆んなお疲れ様」


クライス兄さんが労いの言葉を皆に掛けた途端。


ドンパを入れた檻の方角から悲鳴が聞こえだす。


「ぐぅぁ!!た、助けてくれぇ!!」


「きゃぁぁあ!!」


言わずもがな皆、只事ではないと判断する。


「何事だ!?」


「一難去ってまた一難とは良く言ったもんやなぁ。」


「そうはいってられないようだ。」


座っていたハーマンドはすぐに立ち上がり、肩に回した弓を取る。


「皆!悪いけどもう少し動いてもらうかもしれない!」


「構わないよ。」


〇〇


俺達は一斉にドンパの檻へと駆けつけると、そこには三メートル級の緑の化け物が暴れ回っていた。


「な!?トロール!!」


ハーマンドがそれを見るなり驚愕する。


「何でこんな所に?」


「アルの兄さん。あれはトロールやない。恐らくやけど、ドンパや。」


その月影の一言に皆が驚愕する。


「ぐははははは!!!捕まってたまるか!!ワシは貴族だぞ!お前らのような下等な生物と一緒にするでないぞ!」


騎士達がそのトロール相手に立ち向かうが、トロールは動き俊敏に騎士達を次々と弾き飛ばす。


そんな時。馬に跨り此方へと駆けつけてきたのは我がレイドック騎士団団長だった。


「クライス!!これは一体どう言う事だ?」


「分かりません。ですがあのトロールがドンパだと推測されます。」


「何!?」


団長も驚愕すると共にドガァァァ!!と真横に何かぎ落ちてきた。


見れば騎士だった。トロールに投げつけられたのだろう。


皆がトロールへと視線を向けると、トロールがニタリと下卑た笑みを浮かべる。


その表情はドンパそのものだった。


「見つけたぞ!ワシを苔にしよったクソガキが!」


ドンパは俺と目が合うと一気に地を蹴った。


そして一瞬の間に俺たちの前に現れ拳を振り下ろした。


ドガァァァン!!!


間一髪で皆散り散りに四方へと飛び避けた。


ドンパが当てた地には大きなクレーターが出来た。


「なんて早さにパワーだ!此奴本当にトロールか!!?」


団長がそう言うと、ドンパはニタリと笑う。


「トロールなどと一緒にして貰っては困るな。この身体は超筋肉増強剤で進化した新たな人の姿だ。貴様ら下等な生物とは違うのだよ。」


「誰もトロールにはなりたくないがな。」


団長は相手を挑発するように笑うと、ドンパはまたニタリと笑う。


「そう言っていられるのも今のうちよ。」


またドンパが動き、団長に迫る。


団長は大剣を抜き取り大剣でガードする。


だがドンパのパワーは想像を遥かに超えていた。団長の身体が浮き上がり後方へと飛ばされる。


「ぐぅぁは!」


「団長!!」


クライス兄さんが呼びかけると「大丈夫だ!」の一言が返ってくる。


さすがは団長といった所だろう。一撃ではやられない。


「ぐふふふ。無駄だ無駄だ!!下等な種族が何人集まろうとワシには勝てん!!」


「ぐは!!」


ドンパはまた瞬時に動きクライス兄さんの腹に蹴りを入れた。


クライス兄さんは膝をつく。


「く、なんて早さだ。‥目で終えない。」


「貴様らにワシの力を見してやる!」


ドンパは片手を頭上へと掲げ魔力を集めだす。


辺りの残骸が浮き上がりドンパの魔力の玉に吸収されていき徐々に大きく変化していく。


ドンパの魔力の玉はまるで小さな太陽のようになった。


「見よ!これが力だ!」


ドンパはその魔力玉を後方の騎士達目掛けて投げつけた。


ドッガァァァァァン!!!


目の前で巨大な爆発が発生し、その爆風で皆吹き飛ばされる。


魔力玉が通過した先を見ると、何一つ残らず焦げた跡だけが大きく広がっていた。


一体、今の一撃だけで何人の人が死んだのだろう。


「ば、化け物だ。い、今の私達だけでは‥」


ハーマンドはその力の前で顔を硬直させている。


だが月影はこうなる事を予測していたようだ。


「あ~あ。やっぱりこうなったか。アル。お前の責任やぞ。お前があの時彼奴を仕留めとったらこんな事にはならんかった。」


俺に月影の言葉が突き刺さる。


確かにあの時殺すチャンスはあった。月影にはああ言ったが俺は殺さなかったんじゃなく殺せなかったんだ。


綺麗事を言うつもりはないが、人と魔物とは大きく異なり殺す勇気が無かったのだ。


人なら変わる事も出来るのではないかと言い訳の様に思考を変えて



俺のせい?俺の所為なのか?


「アル。お前は強いし優しい。だけど人の見極めは大切や。その判断が犠牲を産む事も有り得るんやぞ。」


「でも‥「でももクソもあらへん!!」


ドガッ!!


頬に熱い衝撃が走る。


「でも。とか、もし。は後の言い訳に過ぎんのや。現実を見ろ!!お前が躊躇したばっかりに人が死んどんねん!お前はあの時と一緒でどっかが抜けとる!しっかりせぇよ!!」


俺は月影の言葉に涙が溢れでた。


「何また泣いてんねん?ったく。お前見とったらイライラすんねん!強いクセに中身が甘っちょろや。だけど‥僕が今まで見た奴でお前は間違いなく一番や。強い奴は選択を間違えたらあかんねん。時には鬼なる事も覚悟せなあかん。望んでない事かも知れへんけど、それは強さを持ってしまったお前代償や。一生もんのな。」


月影の言葉で俺は覚悟を決めた。


「‥鬼になるよ。」


この世界で、皆んなと出会ってから色んな事が分かった。


そして綺麗事も言ってられない事も分かった。


月影がいったように鬼になる事も致しかたないということも。


「ぐはははは!!どうだ見たか!!ワシのパワーに平伏すがいい!!」


高笑いするドンパに俺は目を合わせるとドンパは不敵に笑う。


「恐怖のあまり言葉もでぬか?ははは!!いいだろう!一瞬で消して「きえる‥」


「は?何かいったか小僧?」


「耳が遠かったか?‥じゃぁ、もう一度言う。一瞬で消してやるよ。」






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