異世界転生したら何でも出来る天才だった。

第23話「当たり前の笑顔を大切に」

「【#捜索眼__サーチアイ__#】！」

僕は魔力を目に集中させ、辺りを捜索。

直ぐに敵を発見した僕は団長に方角を示す。

「あの岩陰にいます！」

「よくやった！」

直ぐ様、団長は岩に向かい、大きな大剣を振り回し、岩ごと切断。

だが敵には当たってはいない。

「上です！」

僕の声で次に動いたのはランスさん。

ランスさんは一気に飛び上がり、手持ちのダガーで敵を攻撃するが、カキィン！！と何かに弾かれ、再び地に着地。

皆の視線がその敵に向けられる。

敵は独特な黒の文様が描かれた白色の仮面を被っていて、黒装束の服を着ている。

そして、手に持つのは平安の国でよく見る刀という武器だった。

「貴様！ここで何をしている！？」

団長がそう言うと、問答無用の如く、黒装束は刀を大きく振る。

「【真空・一文字】」

グガァァ！！と激しい音を響かせ、先程と同じ真空波が僕達に向けられた。

それに対し、僕は目の前の地面に魔法を放つ。

「【#爆破__ブラスト__#】！！」

一気に向けた先がドカーン！！と爆破され、真空波を打ち消したが、立ち上がる灰色の砂煙の中から、黒装束の太刀が伸びる。

それに対応したのはランスさんで、伸びた太刀をダガーでい否地面、そのまま黒装束の腹へと回し蹴りを入れ、黒装束は後方に飛び退く。

それに続き、トールさんも躍り出てスピアを突き出すと、刀で軽く否され、スピアを切断。

そしてそのまま、トールさんの肩を刃が裂く。

ザシュ！！

「トールさん！！くっ‥！」

直ぐにトールさんに駆け寄り回復魔法を掛けようとするが【#捜索眼__サーチアイ__#】の反動で、目に激痛が走る。

そんな僕に狙いを定めたのか、僕に刃が降りかかるが、その瞬間に団長の大剣がその攻撃を塞ぎ、跳ね返す。

しかし、その反動を利用するように黒装束はまた身体を捻り、下から刀を振り上げる。

そこへ、横からランスさんがまた介入し、間一髪の団長の股下で刀をダガーで制御。

その隙に、団長が大剣を振り上げ黒装束の頭上目掛けてドカァ！！と振り下ろすが、黒装束は身体を捻りそれを回避すると、後方へ1.2.3とバク転し後退する。

「はぁ、はぁ、はぁ。 彼奴シャレになんねぇ程強ぇぞ。」

「はぁ、ふぅ。1対4でこのザマか。おい、クライス。目はもういけるか？ 」

2人は息が上がり肩で呼吸する。

「はい。大丈夫です。ありがとうございます。」

「行くぞ。」

「はい！」

僕は勢いよく黒装束に向かって踏み込んだ。

「【#無慈悲な雨__グリムレイン__#】！！」

黒装束はその無数の斬撃を悉く防ぐが、僕は囮だ。

僕の背後から大剣が伸び、僕は態勢を下に沈ませそれを避ければ、団長の突きが黒装束に直撃。

ガキィィン！！！

音と共に黒装束は後方に吹き飛ばされる形となり、向き上がる大地の岩に背中をドカァ！と直撃させる。

「やったか？」

ランスさんが立ち上がる砂煙の奥に目を凝らす。

「いや。さっきの感触だと、刀で防がれた。」

僕らが目を凝らすと、砂煙の中の影がムクリと立ち上がる。

「やはりな。」

「おい！テメェどこのどいつだ！？」

「‥さすがにこの面子だと部が悪いか。‥まぁいい。ここでの要は済んだ。」

「あ？何ブツブツ言ってやがる？」

要は済んだ？何の事だ？

黒装束の言葉に僕達は訝しげな表情を作ると、黒装束は何かを袋から取り出し、地に叩きつけた。

ボン！！という爆発音で、辺り一面の灰色の砂が宙へと舞い上がる。

「くっ、目眩しか！！？」

暫くして、砂煙が収まり視界が開かれると、そこにはもう黒装束の姿はなかった。

「逃げられた！？直ぐにサーチアイを！？」

僕が直ぐに目に魔力を集めようとすると団長がそれを止めた。

「奴相手に深追いは、危険も伴う。それに今はトールの治療を先決にしてくれ。」

そうだ、トールさん！

僕はトールさんの方へ目を向けると、ランスさんがトールさんの容態を確認していた。

僕もトールさんに駆け寄ると、トールさんは肩に深い傷が刻まれ、心臓の鼓動に連呼する様、血が溢れ出していた。

だが、今ならまだ回復魔法でなおせる。

「トールさん！！いま治療します！！【#高治療__ハイヒール__#】！」

僕はトールさんの肩に回復魔法を唱え、魔力を流し込むが、トールさんの傷口は塞がらない。

「くっ、何故塞がらない！？」

その様子を団長が見て、ある事に気づく。

「‥魔剣。」

「魔剣？」

「うむ。恐らくこれは魔剣で切られた傷だ。これではもう‥。」

団長が暗い顔をするが僕には理解できない。

「な！？諦めるんですか！？な、何か他に治療法は？くそっ、塞がれ、塞がれよ！！」

僕はもてる限りの魔力をトールさんに流し込むが、トールさんの血は溢れるばかり。そんな俺の手をトールさんが握りしめた。

「もぅ、‥いい。」

「そんな！トールさん！諦めちゃダメだ！」

トールさんは僕の顔を見て、少し微笑むと、団長の方へと目を向けた。

「だ、‥団長。申し訳‥ないです。もっと団長の役に立ちたかったのですが、‥どうやらここまでのようです。‥僕を‥僕を育てて下さりありがとうございました。」

団長は黙ってトールさんの最後の言葉を聞き入れる。

「クライス。‥最後まで面倒を見てやれなくてすまない。だが先輩として最後の願いを聞いてはくれないか？」

僕はトールさんの手を握りしめ頷くと、トールさんは胸元から小さなペンダントを僕に託した。

「ザナール港にもし寄る事があったら、これを崖の上にある、一番奥の石碑に置いてくれ。」

「はい！はい。わ、わかりました。かならず。」

トールさんは最後にその言葉を残し、目を閉じた。

その後、僕達は遺体の遺品を回収した後、遺体を地に埋め一度王都へと帰還した。

帰還後直ぐにもう一人の騎士ロイスさんの遺品を親族へと届けに向かった。

ロイスさんは30歳で2歳の子供がいる。奥さんに遺品を届けると、涙を流し崩れ落ちた。

冒険者や騎士は何時も死とは隣合わせだ。

奥さんもその日がくるかも知れない事は理解はしていたし、覚悟の上でロイスさんと結婚して子供を作ったはずだ。

だけど実際起きてみれば頭の中が直ぐに整理が着くはずもない。

だって、昨日まで笑っていたんだから。

僕はそれから2、3日の休暇をとり、ザナール港に赴き、トールさんの言っていた崖の上に来ていた。

崖の上は見晴らしの良い海が見え、気持ちのいい潮風が流れている。

そして其処にはいくつもの石碑が立てられている。

そして、トールさんの言っていた、石碑の前に立つと、トールさんが僕に託した同じペンダントが置かれていた。

後から団長に聞いた話だが、団長は昔、ある街の襲撃の知らせを受けていて、街に辿りついたのだが、その時はすでに遅し、街は燃え盛っていた。

しかし、未だ残党は残っていて、一気にレイドック騎士団で制圧した。

そんな時、血まみれになり、瀕死状態になりながらも、未だ魔物と戦い続けている青年を団長は見つけた。

それがトールさんだ。

トールさんは当時19で、若くして奥さんと子供がいたそうだが、その襲撃で2人とも亡くなり、これからの事さえも途方に暮れていたが、団長がレイドック騎士団に向かい入れたのだ。

それ以来、団長に恩を感じ、団長の付き人となり、団長の元で立派に育ったトールさんは後輩からも慕われる人間となっていった。

「いいか、クライス。お前は恐らくこの先の騎士団にとって重要な人物になるはずだ。俺はお前のような立派な後輩を持てて嬉しく思う。」

明るく笑うトールさんの笑顔がアタマに浮かび、涙がこぼれた。

トールさん。数日間しか貴方と一緒に要られませんでしたが、貴方ともっと話してもっと楽しく笑い合いたかったです。貴方の言うような立派な騎士に僕はなってみせます。

僕はペンダントの裏には、トール・チコル・ジェシー、と家族の名前が刻まれていた。

貴方の笑顔は忘れません。どうか、安らかに眠ってください。

そして‥

ありがとうございます。

僕はペンダントをそっと石碑に置いた。

人は、明日何があるか分からない。

だから大切にしよう。

当たり前の笑顔を。

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