第8話「男がリードするもの。」


あの後、ベルを除き、皆で教室を出た。


「それじゃ、また明日なアル」


ガルフはニカッと明るい笑顔で俺に手を振ると、ハーマンドとブィオラもニコっと微笑み手を振った。


「ねぇ、アル。アルはこの街生まれなんだよね?」


「あ、うん。そうだけど。なんで?」


「良かったら街を案内してくれないかなぁ‥って思ったんだけど。」


「そうだな。

この後に何か用事があるわけでもないし、‥いいよ。行きたい場所とかあるの?」


「うーん。繁華街に行きたいかな。」


「オッケー。じゃぁ早速いこうか!」



〇〇〇〇



「わぁー!凄い賑わってるね!それに色んな種族の人も沢山。」


そりゃ王都ですからね。


行き交う人々は巨人族もいりゃ小人族、妖精族など様々だ。


この世界で記憶が戻り見た時は皆んなコスプレをしているのか?と驚いたが、今となっては普通の眺めだ。


しかし、「案内する。」とは言ったものの俺は人混みが苦手だった為、ここには母さんのお使いぐらいでしか来た事がない。


なので何処に何があって、何処の店が美味しいかなんて事は正直わからない。


だが、案内すると言った建前上、男として引き下がる訳にもいくまい。


俺の知ってる限りで頑張ろう。


こうして、うろ覚えながらも繁華街を徘徊していると、気づけばもう夕方になっていた。


そして、俺の顔色も悪かった。


「ごめーん。つい楽しくなっちゃってぇ。大丈夫?」


これが良く聞く女性の買い物か。


意見を聞かれても適当に返事はできず、真剣に答えれば「えぇ~!?けどこっちも可愛い!」などと、いつまでたっても決まることのないエンドレスなイタチごっこを連発。


恐るべし女の買い物!!


そして荷物が重い!!


しかし、此処でヘコタレたら頼りない男に見えるかもしれん!


弱音なんて吐かないぞ。


頑張れ俺!



「大丈夫大丈夫。それよりも最後に案内しときたい所があるんだ。」


「何処にいくの?」


ニアは首を傾げる。


「いいから、ついて来て。少し急ぐよ。」


俺はニアを連れ、少し急ぎ足で進んだ。


そして、俺の唯一自信をもって案内したい場所へと到着した。


「ここだよ。」


階段を登りきった先。


「わぁ‥‥‥。」


そう、俺が唯一案内で誇れる場所。


それは‥


この王都が一望できるこの場所だ。


赤屋根が綺麗に並び、街のシンボルの大きな時計塔。


それらが全て夕日に包まれ、黄金色に変化するこの景色だ。


「たまに来るんだけど、綺麗だろ?き、‥気に行ってくれた‥かな?」


俺は恐る恐るニアに尋ねると、ニアはこっちに振り返るなり直ぐに俺に抱きついてきた。


「わっ‥な、ちょっと。」


慌てる俺の胸をキュッと握り締めるニア。


そして俺の方へと視線を向ける。


夕日に染まるニアの顔はいつも以上に可愛いく映り、心なしか目が潤んで見えた。


「すっ!‥ごく良い。 私、‥こんなに綺麗な景色見たの初めてだよ。」


「お、そ、そうか。気に行ってくれて俺も、その、嬉しいよ。」


やべー!なんちゅうヘタレな返答か!

それに恥ずかしくて目も真面に合わせらんねぇ!


だが、喜んでくれたのは確かで俺は安心した。


恥ずかしい話。女の子と何処かへ行くなんて事は前世でも無かったからな。


けど、何かの番組で昔言ってた。


何処かに行く時は男がリードするもの!


的な事。


その当時は何故男って決めつけなの?って思ったけど、喜んでもらえるなら悪くないのかもしれないな。


そんな事を考えながら、暫く2人で夕日を見た後、俺らは帰る方向へと向かった。


勿論ニアの寮の前まで俺は付き添った。


「今日は、‥ありがとう。すっごく楽しかったよ。」


「そっか。‥うん。俺もすごく楽しかった。」


俺がそう言うと、ニアはそっと俺に近づき、俺の頬にキスをし、耳元で囁く。


「アル。大好きだよ。」


ニアは、そう言い残すと恥ずかしそうに手を振り、そそくさと寮の中へと入っていった。


ぬぉおぉおぉ!!!

可愛いすぎ!んだろ!!!

リア充半端ねぇ!!


って?


ある物に目線が行き俺は動きを止め、直ぐに寮の扉を叩く。


「ニア!!荷物!荷物!!!」


ガン!ガン!ガン!


いまいち締まらない2人であった。



そんな2人を遠くから、冷たくも少し寂しい瞳をした影が見つめていた。


アルスがニアに荷物を渡し、ニアとアルスが別れると、その影も静かに姿を消したのだった。



=========================

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る