東方神起ならぬ、東方仁起…

オレは一階の隅にある用務員室へ向かった。


ジジイめ、ちゃんと用務員として仕事してるのか。


案の定、用務員室でテレビを観ながらお茶を飲んでいた。


仙人のような装束ではなく、つなぎのような作業着を着ていた。


「こらっ!ちゃんと仕事しろ、このくそジジイ!」


その声にビクッとして、ジジイが振り向いた。


「あっ、お前!ばかもん!お前こそ授業中だろうが!サボってないでちゃんと勉強せい!」



サボってるクセに何言ってやがる。

オレは茶坊主から聞いた件をジジイに話した。


「うるせー!あの茶坊主から全部聞いたぞ!テメー【山木智】を【山本智】とミスしてオレをこの時代にタイムスリップさせやがって!」


元はと言えば、このジジイが名前をちゃんと確認しないからオレが1990年に連れ去られてしまったのだ。


「うっ…それはその…」



ジジイはしどろもどろになって、何とかごまかそうとしたが、オレは更に続けた。


「どうしてくれんだよ、ジジイ!さっさと2017年に戻せ!」


人違いで中2にされたんだから、現代に戻すのが当然だろう。


「いや、しかしもうワシは仙人じゃないし、杖もお前が燃やしてしまったから、呪文も何も、杖が無いと無理なんじゃ」


このクソジジイが一番下っぱで、あの茶坊主がこのジジイの上司で、茶坊主の上司があのアホ犬だってか。


なんつー世界なんだ、天界ってのは。



「ふざけんな、このクソジジイ!何でもいいからさっさと2017年に戻せ!戻さないと用務員の仕事もクビにしてやるぞ、おいっ!」


コイツの手違いで1990年にタイムスリップしたんだからな。


「貴様にそんな事が出来るのか?出来るワケなかろうが!」


逆ギレしやがって、このクソジジイ。


「あっそ。じゃあ花壇やグランドをグチャグチャにしても構わないってんだな?

用務員が雑な仕事してるから、こんな事になったと言いふらしてやるからな、ギャハハハ!」


こうなったら、とことん嫌がらせをしてやる、ウワハハハハ!


「この、小悪党め!ワシは今、仙人じゃないんじゃぞ!天界から下界に降格させられたんじゃぞ。

もう、仙人の能力は使えないのだ、だから勘弁してくれ、この通りだ!」


ジジイはペコペコ頭を下げながら許しを乞うとしているが、オレは納得がいかない。



ったく、中2になったら、予言者よりも確実に未来が分かると喜んでいたのに、ジジイや茶坊主、おまけに犬まで出てきたんじゃ、このチートのような能力は何も発揮出来ない。


「おい、ジジイ。この際茶坊主でもバカ犬でもいいから、ヤツラの弱点とかないのかよ?」


もう、このジジイは使えない。

ならば、ヤツラの弱点ぐらいは知ってるか聞いてみた。


「ワシは直接聞いたことがないんだが…あの宇棚部長のかけてるメガネ、ありゃ千里眼と言って、先の事が見える特殊なメガネだと聞いたことはあるが…あくまでも噂の段階で、本当かどうかは確かめてみなきゃ分からん。

ただ、あの宇棚部長は滅多にメガネを外さないからのぅ」


あの茶坊主のメガネか…



「おい、ジジイ!ヤツのメガネ外してこい!」


オレはジジイに無理難題を吹っ掛けた。


「バカ言うな!ワシャ宇棚部長の部下じゃぞい!そう簡単にメガネ外してくれりゃ苦労しないわい!」


「テメーはもう天界の人物じゃねぇだろ!それに元上司だろうが!何とかしてメガネはずしてこい!」


ジジイはそれだけは勘弁してくれ、と更に頭をペコペコ下げた。


「あの茶坊主のどこが怖いんだよ?ありゃただのバカだろうが。誤字だらけで横文字はからっきしだし。

よくあんな頭で部長になれたもんだな。オレも天界に行けば、ヤツラより上の地位にいけるんじゃないか」


何かそんな感じがしてきた。


「アホか!宇棚部長はコネで天界の下界更正育成部長になったんじゃぞい!」


コネ?天界にもコネってのがあるのか?


…下界と変わんねえじゃねぇか…



「まぁいいや。要はまず最初にあの茶坊主のメガネをブン取って、次はポメ夫をターゲットにすりゃ何とか元の世界に戻れるだろう」


それしか方法はないからな。


このまま中2からまた人生をやり直すのも悪くはないが、何せコイツらが邪魔で邪魔でウザい!



「じゃあオレは教室に戻るけど、何か他にいい情報があったら連絡しろよ。…あ、ジジイの番号教えろよ」


この時代はまだケータイが普及されていない。

ケータイがあれば便利なんだがなぁ…


するとジジイは机の引き出しから名刺入れのケースから名刺をオレに渡した。


【◯×区立美ヶ原中学校 用務員

東方仁起】


ホントに胡散臭いもんばっかだな、おい!


「ジジイ!なんだこの名前は?まさか【とうほうしんき】とか言うんじゃないだろうな?」


もし、目の前に東方神起ファンがいたら、ボコボコにされてるとこだぞ。


「ばかもん!ちゃんと名前を読め!【とうほうじんき】と読むのじゃ!」


…いずれにせよ、インチキ極まりない…


まぁ、いいや。これでジジイの連絡先が分かった。


後はどうやってあの茶坊主の【千里眼】と呼ばれるメガネを外すか、その事を考えよう、うん!



オレはジジイに渡された名刺を学ランの内ポケットに入れ、教室へ戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る