龍也の将来

翌朝オレは登校してきた茶坊主を捕まえ、昨日と同じ、校舎の裏に連れて行った。


「おい、何だあの犬は?あれがお前の上司なのか?」


犬の下で働くお前は一体何者だっつーの!


「はい(^^)ポメポメ夫統括部長です(^^)」


犬が上司ってどんな世界だよ…


オレは昨日ウチに帰った後のポメ夫との事を茶坊主に話した。


「ポメポメ夫統括部長はいつもああやって人を試しているんです(^^)

どうやって名前を言い当てるかで、その人の性格や進むべき道を判断するのです(^^)」


…ホントにコイツが言うと、何から何まで胡散臭い…


「てことは、オレのお目付け役はお前からあの犬に変わったって事になるのか?」


冗談じゃねえぞ、何でオレが犬に色々と指導されなきゃなんないんだ?


「いえ、ポメポメ夫統括部長と私の二人で山本智さんの事をアドバイスして、徳を積むよう進言します(^^)」


二人じゃなく、一人と一匹だろうが…


ちなみに今朝はポメ夫はウチでグーグー寝て起きてこなかった。


そして去り際に茶坊主はポメ夫に対して一つ注文をつけた。


「山本智さん、ポメポメ夫統括部長には朝と夕方散歩する事をお願いします(^^)

ポメ夫統括部長を散歩に連れていくと、徳が増えます(^^)」


そう言い残して教室へ戻っていった。


散歩して徳が積めるのか、ウソくせー!


まぁ、いいや。コイツらはなるべく相手にしないようにしよう。


もっと楽しい中2ライフを送り、飽きてきたら2017年に戻ればいいだけの事だ。



んー、でも楽しい中2ライフって何だろうか?


勉強?いやいや、それは楽しいどころか苦行に近い。


スポーツ?あっ、また朝練サボっちまった!…こりゃ楽しくないな。


という事はやっぱり恋愛レボリューション21という事に行き着くのか…


しかし、あの茶坊主のダンスの下手さ!


よくもまぁ、あんなリズム感ゼロで踊るもんだ。


オレの方がキレッキレで踊れるぞ。


「超超超 いい感じ 超超超超いい感じ woo love revolution♪」


一人で踊っていたら、横に龍也がタバコをくわえながら、冷たい視線でオレを見ていた…


「のゎっ!何だ急に!」


オレはキレッキレのダンスをノリノリでやっていたのを龍也にバッチリ見られた。


「お前、朝から元気だなぁ~。何の踊りだ、そりゃ?」


プカーっとタバコの煙を吐き出しながら、呆れた表情をしている。


そうか、この時代、モー娘。はまだいないんだ。


「いやまぁ、その…軽く準備体操ってヤツで、ははっ…」


テキトーに言い訳した。


「今日は体育の無い日だろ。何やってんだか…

それよかお前も吸うか?」


龍也は学ランのポケットから、マイルドセブンの箱とライターを出し、オレに勧めた。


「あれ、そう言えばお前タバコ吸った事あるのか?」


何だと、人を子供扱いしやがって!



「おっ、サンキュー。オレ学校じゃ吸わないけど、ウチでオヤジのハイライトパクって吸ってるんだよ」


龍也からもらったマイルドセブンに火をつけ、プカーっと煙を吐いた。


いつしかオレと龍也はヤンキーみたいにウンコ座りしながら、色々な話をした。


そして唐突に龍也は将来の事を語り始めた。


「オレさぁ、お前と一緒で大した高校にも入れそうにないからさ。卒業したら自衛隊にでも入ろうかと思ってんだよ…」


ぷっw自衛隊www


お前はド底辺の工業高校に入って、一年の二学期に中退して、19でデキ婚するんだぞw


…いや、待てよ。


ここでコイツにムダだ、諦めろって言うより、背中を押すような事を言った方が、コイツの人生もガラッと変わるんじゃないか?


オレは笑いを押し殺しながらも、龍也の言葉に耳を傾けた。


「いいんじゃないか、自衛隊。あそこに入隊すりゃ、色んな資格が取得出来るっていうじゃん?やってみたらどうだよ?」


うんうん、こう言った方がコイツの為にもなる。


龍也は下を向き、タバコの火を揉み消しながら、ボソッと呟いた。


「尾崎豊の歌じゃねえけど、サラリーマンなんてなりたかねえしな…頭ペコペコ下げながら満員電車に乗って会社に通うより、手に職つけて何かをやれればいいんだけどなぁ」


バカヤロー、サラリーマンをそんなに軽く見るんじゃない!


サラリーマンてのは、頭ペコペコ下げるのが仕事じゃないんだぞ!


…でもまぁ、今は反論せずにコイツの言葉を聞いて背中を押す事にした。


「やってみなきゃわかんねぇじゃん!自衛隊入りたいなら入るしかないだろ?もし他にやりたい事見つかれば、その時はその時に考えればいいじゃん?」


何故か二人ともしんみりとなり、龍也の将来の事を話し合った。


「お前はオレより大人だよ。オレなんか、まだ何にも考えてないしさぁ」


41才の今でも、オレはホントにサラリーマンでこのまま定年を迎えるのか?その事をよく疑問に思っていた。


妻も娘もいて、マイホームも購入した。


今さら転職なんて出来ない。


それに比べ、龍也は自衛隊に入ろうかと真剣に悩んでいる。


茶化すのは簡単だ。


だが、あの龍也が真面目に話しているのを茶化す気分にはなれない。


「でもその前にタバコ止めないとな。色々とうるせーらしいぞ。ましてや未成年がタバコ吸ってるなんてバレたら、先輩からボコボコにされるみたいらしいぞ」


自衛隊って、モロ体育会系で上下関係が厳しいっていうからな。




「そうだよな。これを機に禁煙すっかなぁ」


そう言うと龍也はマイルドセブンの箱とライターを側にあった焼却炉に投げ入れた。


こりゃ本気だ。


「悪かったな、変な話しに付き合わせて」


照れ臭そうに頭をポリポリ掻いていた。


オレは龍也の肩をポンと叩き、


「とりあえず教室行こうぜ。この事は誰にも言わないから」


そう言ってオレらは教室へと向かった。


「あれ、そう言えばチャッピーいないけど、どうした?」


いつもなら、チャッピーが見張り役として、龍也がタバコを吸っているのを見つからないようにしていたのに、今日は姿を見てない。


「風邪引いて休みらしいぞ。まぁ、もうアイツに見張り役をやらせるつもりは無いけどな」


オレらはチャイムが鳴り始めた校内を走りながら、どうにか教室に間に合った。

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