1,2,3,ダーッ!…あれ?

オレの頭の中では【UWF】のメインテーマ曲が流れていた。



UWFとは、当時プロレス界に一大ムーブメントを起こしたプロレス団体。



従来のプロレスとは一線を画し、ショー的要素を一切排除した格闘技志向のプロレスとして人気を博した。



エースの前田日明を筆頭に、藤原喜明、高田延彦、船木誠勝らの活躍により、全日本プロレスや新日本プロレスを上回る程の人気団体で、チケットはあっという間にソールドアウト。



キック、サブミッション(関節技)、スープレックス(投げ技)を駆使し、勝敗はギブアップまたはKOのみというスタイルで短い期間であったが、日本のプロレス史に残る、総合格闘技の元祖的な集団だった(プロレスファンじゃない人、ごめんなさい)



まぁ、そんなワケでオレと龍也は【敗者坊主頭デスマッチ】をする事になったんだが、



この挑発にキレた龍也は椅子をを手にし、威嚇のつもりだろうか、窓側にブン投げた。



【ガッシャーン】



所詮はハッタリだ 。


だが、ガラスは粉々になり、床に破片が散った。



『キャーッ!』



『おい、マジだぞ!ヤベーよ』



悲鳴を上げる女子や、ビビってしまい、何も出来ずにただ狼狽える男子もいた。


だがオレは余裕綽々だ、あれは単なる威嚇、もしマジでやるならオレに向かって椅子を投げつけただろう。


ハッタリだけで、コイツにそんな度胸はない。




「どうした、番長!椅子振り回して何がしたいんだ?えぇ?」



それがどうした?殺れるもんなら殺ってみろ!とばかりに挑発した。


「殺す!」


怒りマックスの龍也は精一杯凄んだつもりだが、何せオレは41才の中2だ。経験値の違いってヤツ?そんなハッタリは通用しない。


脅しだろうが、威嚇だろうが、オレには通用しない。


龍也はオレの胸ぐらを掴み、必死の形相でガンを飛ばしている




んー?…しかし迫力の無え顔だ。



それに当時はスゲー力強かった感じがしたけど…


そうか、所詮は中坊、この程度の力なのか…



何でこんなヤツに皆ビビっていたんだろう?


今思えば何て事無いじゃないか。



皆は、オレが龍也にボコボコにされるものだと思っている。


仲裁に入りたいのだが、巻き添えを食らいたくないのか、ただオレと龍也のやり取りを怯えた目で見ているだけだ。



あぁ、こりゃ楽ショーだ、オレは秒殺にする自信がある。


余裕の表情で龍也を見た。


体型や力は中2の頃に戻っているが、オレはコイツよりも経験値が遥かに上だ。


ドラクエに例えるならば、レベル5ぐらいの龍也がレベルマックスのオレに挑むようなもんで、結果は分かっていた。



「おいおい、ひ弱だな、番長!テメーケンカ強く無えだろ、ん?」



オレは龍也を手首を取り、お辞儀をするような形でグイっと曲げた。合気道や護身術とかで使う技だ。


「…痛っ!」


手首が曲げられ、苦悶の表情を浮かべた。

オレはその手を離さないまま、更に挑発を繰り返していた。


「なぁ、番長。こっから折った方がいいか?それとも投げた方がいい?あ、打撃でボコボコにする方がいいかな?なぁ、どっちにする?」



赤子の手を捻るが如くとは、まさにこの事だ。



「テメー、ぶっ殺す!」


龍也は手首を極められ、片膝を付いた格好で、反撃等出来ない。



「はいはい、解った解った」



そう言うやいなや、オレは素早くローキックを龍也の膝の内側に叩き込み、両膝を付き、正座をするような格好になった。


そのまま背後に回り、両腕を龍也の首に巻き付け、頸動脈を締め上げた。


プロレス技でいう、スリーパーホールドの体勢だ。




龍也は暴れて逃れようとしたが、プロレスファンのオレは頸動脈をガッチリと締めてるので、徐々に脳へ血流が行かなくなる。やがて抵抗する力が弱くなり、ダラーンとして全身の力が抜けた状態になった。


あっという間に龍也は落ちた。



「おい、チャッピー!オレの勝ちだろ?」



龍也は気を失い、そのまま床に倒れた。



見張りをしていたチャッピーは言葉を失い、呆然と立ち尽くしていた。


チャッピーだけじゃなく、この光景を目の当たりにしたクラスの連中も一瞬シーンとなった。



そして大の字に倒れてる龍也を見て、ザワザワと騒ぎ始めた。



『えっ何?どうなったの?』



『金澤くん動かないよ、ヤバくない?』



『…まさか死んだんじゃないだろうか』




「死んでねえよ、一時的に意識を失ってるだけだ、すぐに元に戻るから安心しろ」



龍也が一方的にボコボコにして勝つだろうと思っていた皆の予想は外れた。


でも、今のオレは41才の中学2年生だ、格闘技経験は無くとも、よくプロレスごっこして遊んだ事があるから、龍也相手にプロレス技を出して勝ってしまったというワケだ。



「チャッピー!」


オレはチャッピーにちょっと来い、と手招きした。



「は、はい…」


大将の龍也があっという間に気を失い、チャッピーは狼狽えた。


「今からバリカン持ってこい、コイツ坊主にすっから」


何せこの試合は敗者坊主頭デスマッチだ。

敗けた龍也今から坊主頭になる。


「ええっ、マジで!バリカンなんて無いじゃん…」




『うそっ、ホントに坊主にするの?』



『マジかよ?智?』



『もう、いいでしょ。これで終わったんだから』



『っていうか、龍也弱っ!』



「バ、バリカンなんて無いよ…」



この金魚のフンみたいなチビは龍也がぶっ倒れていて、オロオロするばかりだ。



「じゃあ、ハサミ持ってこい!コイツの髪切ってやる!」



中2の分際で、茶髪に染めて、ホストっぽいの頭をした龍也の前髪とてっぺんだけ短く切って落武者みたいな頭にしてやろうw



『止めてよ、もう終わったでしょ?』



『そうだよ、智。もういいだろ?』


「智、もうすぐチャイムが鳴って先生来るから、もういいだろ」



泰彦は龍也に蹴られた腹を押さえながら、もう止めろと言う。


だが、仲裁に入った泰彦が蹴られたんだ、その分もお返ししないとな…



「何言ってんだよ、お前さっきコイツに蹴られたろ?コイツに仕返ししてやりゃあいいじゃないか」



「そうだけど…もういいだろ、とにかく早く元通りにしよう!」



泰彦の号令で皆は机を元の状態に戻し、席に着いた。


龍也は後ろの方でまだ気を失っている。


「おい、チャッピー!コイツのおでこに【肉】と大きく書け!それで勘弁してやるから、な?」



オレはチャッピーにマジックを渡し、チャッピーは恐る恐る龍也のおでこに肉と書いた。


「チャッピー、ちょっとこい」



オレはチャッピーの肩に手を回した。



実のところ、龍也よりも、このチャッピーの方が嫌われていた。


何故ならコイツは龍也がいるからという理由で、やりたい放題にやってきた。



「な、何だよ、何すんだよ?」


チャッピーは怯えていた。

コイツも少し痛い目にあった方がいいからな。



「オメーも龍也と同じ目に遭え、コノヤロー!」



オレはチャッピーを抱え上げて、机の上に叩きつけた。



「ギャーッ、痛ぇ、背中が痛ぇ!」



フン、このバカが。



「よし、オレの勝ちだ!いくぞ~っ、1,2,3ダーっ!」



…あれ?皆ノッてこない。



背中を打ち付け、のたうち回るチャッピー、大の字に倒れてる龍也、そして1人虚しく勝ち名乗りを上げるオレ…



そろそろ先生が来る頃だ、席に着かなきゃ…ってオレの席どこにあるんだよ?


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