オレの席は特等アリーナ席(教壇の真ん前)

「ちょっとぉ~っ!どうしたの、このガラスの破片はっ!」



あ"ぁ~っ!この声は?



担任の佐伯瑠璃子(さえきるりこ)、国語の教師で30才、独身。



教室に入るなり、窓ガラスが割れて、破片が床に散乱してるのを見て、びっくりしたらしい。




確かこの先生、周囲の先生達 が立て続けに結婚して、適齢期を過ぎて結婚相談所に行ったとか誰かウワサしてたっけな、誰だっけ?



この先生、顔は悪くない、だからと言って良くもないw



スタイルも悪くない。


だからと言って良くもないw



中肉中背、童顔で髪はショートカット、目はクリクリっと二重まぶたで、輪郭は丸い。



おまけに声も年の割にはロリっぽいってんだから、ケッコー生徒からは弄られてたような気がしたなぁ、いや~ホント懐かしい!



この先生、結局結婚したんだっけ?



どうだったかなぁ…確かオレたちが卒業したと同時に教師を辞めたみたいだけど、その後の消息は不明で、同窓会にも出席しなかったからなぁ…


「誰っ!この窓ガラス割ったのは?」


そのロリっぽい声でキャンキャン喚いた。


すると、すかさずオレは、


「チャッピーでーす!」


と答えた。


「えっ?オレ割ってないよ!」


まさか自分に振られるとは思ってもないチャッピーは、テンパりながらも否定した。


だが、オレは龍也よりも、チャッピーの方が憎たらしいから、敢えてチャッピーのせいにした。


「ウソつけっ!テメーが椅子投げて割ったんじゃねえか、おい!」


それに龍也はまだ後ろで気を失ったままで、おでこに肉と書かれている。




おまけにチャッピーを嫌ってるヤツはいっぱいいるし、この際、犯人はチャッピーにしちまえwてな感じでチャッピーを名指しした。


「加藤くん!何で椅子なんか投げたの!どうするのよ、こんなに破片が散らばって!早く掃除しなさいっ!」



ギャンギャン声を張り上げて先生は怒鳴っていた。



『おいチャッピー、早く破片片付けろよ』



『さっさとやれよ!』



『ケガしたらどうするのよっ!』



『モタモタしてねえで、早く掃除しろよっ!』



『ザマーミロ、チャッピー!』



今までテメーが龍也を後ろ楯にして散々人に迷惑かけたお返しとばかりに、皆はオレに同調した。



「オ、オレじゃねぇよ…」



チャッピーは涙目になりながらガラスの破片を塵取りに集め、ゴミ箱に捨てた。



『おい、アイツ泣いてるぞ』



『ダッセーw』



『クスクスクスクス…』



…これでチャッピーもデカイツラ出来ないだろう。



うん、よくやったオレ!



これは決してイジメではない!


むしろそれを止めさせるように懲らしめたのだ!(しつこいようだが…)



「はい、じゃあ改めて授業始めまーす」


先生は落ち着きを取り戻したところで、授業を始めようとした。

おぉ、この授業を受ける雰囲気!


懐かしいなぁ、おい!



…って今思い出したんだけど、オレの席ってどこだ?



あれ?確か廊下側だっけ…それとも窓際だったかな?



「山本くん、何ウロチョロしてるの?早く席に着きなさい」



…いや、席に着きたいんだけど…オレの席どこ?



「聞こえないの?早く席に着きなさい!」



えぇ~っと…確か中2の一学期の席は廊下側だったような…


オレは廊下側の空いてる席に座ろうとした。



「山本くん!どこ座ってるの?そこは今日風邪で休んでる木下さんの席でしょ!何ふざけてんのよ!」


ふざけてねぇよ、ただオレの席がどこなのか、完全にド忘れしている。

何せ27年前の事だから覚えてない。

またオレは立ち上がり、ウロウロし始めた。


すると、あぁ~っ!もうやってらんねえ!とばかりに先生はバンっ!と出席簿を教壇の上に叩きつけた…キレたか?


いや、キレてないですよ、って言ってくんないかなぁ…



だってホントにどこの席か知らないんだもん、誰か教えてくんないかなぁ…

って言うか、皆オレの事を変な目で見てるし…



【こりゃ!】



また煙と共にジジイが現れた!



「あ、ジジイ…っうぎゃ~っ!頭が、頭が痛ぇ~っ!」



突如、ヘアバンドがギリギリと頭を締め付けるっ!オレは頭を押さえてのたうち回っていた。



『おいおい、今度は智がおかしくなったぞ』



『大丈夫?なんかヤバくない?』



『アイツ思いっきり先生からかってんじゃんw』



ホントに知らねえっつうんだよ!


しかもジジイ!いきなり出て来て頭締め付けるんじゃないっ!



【お主、何だかんだ言い訳してあの少年をイジメてるじゃないかっ!何たる卑怯者っ!】


杖をかざし、ヘアバンドを締め付けるように呪文を唱えた。


【ホンダラハンダラ、マーマーチー。ザギンデシースー、クラブハギロッポン!】



「痛えよ!違うよ、ジジイ!アイツは金魚のフンみたいなヤツで、皆に嫌がらせしてたのを、龍也と一緒に懲らしめただけだって!」



ったく一部始終見てから判断しろってんだったく!



【うぬ?そうか、そうであったか。ならば良し!】



てな事を言ってまた煙と共に消えた…

そして頭を締め付けが緩まった。

あぁ~痛かった!ホントに頭割れるんじゃないかと思うぐらいだ。


「いきなり現れて頭締め付けるんじゃねえ!ったくスゲー痛ぇんだぞ、このヘアバンドは!」



『おい、智誰に話し掛けてんだ?』



『山本くん、霊が見えるのかしら…』



『マジ?あの豹変ぶりといい、何かに取り憑かれてんじゃん?』



『いやぁ、怖~い』


ザワザワザワザワザワザワ…



ザワザワってカイジかよっ!



「いいから、静かにしなさいっ!!」


先生はギャーギャー喚くし、周りはザワザワするし、おまけに頭は痛いわで散々だ!



しかしジジイの姿がオレしか見えないってのが腹立つなぁ!


「それと山本くん…」


感情を押し殺すかのように先生はオレに聞いた。


「あ、はい…」



「貴方、自分の席が解らないって、先生をからかってるのかしら?」



ヤベーよ、先生の目がマジだょ!


一体オレの席はどこなんだ?



思い出せ、中2の1学期の席はどこだったか思い出すんだ!




あれ?あの女子、オレを見てこの席だと指差してる。


おぉ、あの席かっ!成る程、誰だか名前忘れたがサンキューっ!



…って、教壇の超目の前じゃんか!



オレ、こんな特等アリーナ席に座ってたのか?



今日1日、疲れそうだな~…



あぁっそうだ、思い出した!あの女子は中野恵(なかのけい)



確か、オレが好きな女子だった…



そうか、この女子の隣でしかも先生の真ん前という、スーパーアリーナ席だった事を思い出した…

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