第14話 ひと段落ついて

 爆風が収まって、妖は跡形もなく消滅していた。

 いや、なんとかなりましたしそれはいいんですけど。

 とりあえずミコト様に一言言いたい。これは言ってもいいよね?


「おいこらミコト様。鬱憤溜まってんのはわかるけど、少しは眷属の身の安全ってものを」


「あースッキリした。やっぱ思いっきりぶっ放すのは良いもんだな!」


「話聞けやこの阿保」


 さらっとスルーすんじゃねえや。目を合わせろ目を。

 いや本当に大変だったんだよ?千歳さんが吹き飛ばされないように必死に押さえつけなきゃいけなかったし。


 かなり強い力で抑えてたから千歳さん苦しくなかったかな––––––って、


 あ、もしかして、


 ・・・まだ千歳さん押し倒したまんまじゃん? 俺。

 見ればを俺は千歳さんに上から覆いかぶさっている体になっていた。

 やばいやばいこれはやばいって!

あーこれ弁解とか大変なやつだ勘違いされて冷たい目で見られるやつだどーしよぉぉお!


 って、おい何笑ってんだミコト様。笑い殺してる仕草が露骨すぎるわ。


「あ、すまん!千歳さん!」


 俺は慌てて千歳さんから離れる。


「む、少し痛かったんだよ? でもまぁいいけど。助けてくれたんだし。」


 あ、許してくれた。良かったぁ。取り敢えず安心した。


「良かった。 顔が少し紅い気がしたから怒ってるのかと思ってた。」


俺がそこまで言うと、千歳さんはまた顔を赤らめて、少し頬を膨らませた。

あれ、怒ってる?


「顔が紅いのは怒ってるからじゃないよ・・・もう。そこには気がつくんだ。」


 千歳さんはそう言って口を尖らせる。あれ?怒ってるのか怒ってないのかどっちなんだ?

「羅一、お前もまだまだだなぁ」


「いや何がだよ」


「おいおい・・・まぁそいつ自身今感じてる感情は今さっき自覚したことだろうけどな。お前がわかんねぇのも無理ないか。」


 ミコト様が口を挟んでくるが何のことか全くわからない。

 もっとわかりやすく言ってくれ。頼むから。


「ふう、もういいや。それよりも、そこにいる女の人、誰? 心の底から見てて、相当親密な人っていうのはわかったけど」


 千歳さんはミコト様を見てそう言う。

 やっぱり視えてたのか。まぁ予想は出来てたけど。

でも、疑問が無いわけではない。一応ミコト様には聞いておく。

「おいミコト様。千歳さんは何でアナタが視えるようになったんでしょうかね」


「十中八九お前の神力に当てられたことだろうな」


 まぁ俺もミコト様の御神体に触れて視えるようになったわけですし。

 別に俺でも良かったんですねっていうくらいで特段不思議には感じないけど、それだと少し疑問が残る。


「あれ? じゃあ妖に乗り移られてる時は? その時からアナタのこと視えてたみたいだけど」


「多分妖が自分の妖力を使って意図的に視えるようにしてたんだろ。自分の力だけで視えるようになった直接的な理由はお前だよ」


 あぁなーるほど。納得できない気もしないではない。

サディスティックだったあの妖のことだ。多分俺とミコト様をボッコボコにするところをあえて見せることによって、千歳さんをより絶望させようとしたのだろう。

ったく、とことん最低な奴だったと思うよ。あいつは。

 取り敢えず、ミコト様について、そして俺とミコト様の関係について、千歳さんに話さないといけない。

「すまん千歳さん。実は––––」



「へぇー。この人神様なんだ。」

「まぁね。普段は全然そんな雰囲気ないけど」

 千歳さんは意外というかなんというか、わりかしアッサリとこの事実を受け入れてくれた。

 まぁ目の前であんなファンタジーじみたことをされたら信じざるを得ないっていうのもあるかもしれないけれど。


「じゃあミコト様が視えるってことは、私にも大麦君みたいな力があるってことかな?」


「うん。まぁ、多分ね」


 そういや、こうして神様が視えるようになったということは、千歳さんも神力を基にした何かしらの力を持っているはずだ。

 なんなんだろう、千歳さんの力って。


「ふーん。でもまぁ、今はいいや。大麦君が最近雰囲気が変わった理由が知れて、良かった」


 おいおい、いいのかよ。なんか軽いな

 でも今はそれで良いのかもしれない。


「さて、そろそろ大麦君は学校に戻らなくちゃいけないでしょ? みんな心配してると思うし」


 そうそう。千歳さんの力を知ること以上に重要なことが、今目の前にある。


 部活のみんなへの弁解どーしよ。


 いきなりちゃんとした説明もないまま飛び出したし、服ボロボロだし、まともな説明すらできる気がしない。

 取り敢えず学校に戻った時の言い訳くらいは考えておかなきゃ。めんどくせぇなあもう。


 見上げると、もう日が傾いていて、丸い太陽を中心に、空が茜色に染まっている。今は夕方の5時くらいだろうか。


「そうだな、じゃあ今日は一先ず、千歳さんは家に帰ってなよ。多分相当疲れてるだろうから」


「うん、そう思うと少し、疲れてるかも・・・」


 千歳さんは話してる時からずっとその場に座り込んだまんまだ。

 無理もない。ずっと妖に脳のリミッターを外されて、限界以上の力を出し続けていたのだから。


「ミコト様、千歳さんを家まで送ってくれないかな? 明日シュークリーム持ってくから。」


「了解、任せな。体のケアはアタシがしとくよ。少しくらいなら神力を使って治癒できるからさ。」


「おお、頼もしいな。ありがとう。」


 ミコト様は千歳さんをおぶって立ち上がった。


 千歳さんのことはこれで一応安心かな


「そうだ、お前のケガも直さないとな。てか派手にやられておいてよく立てるな、お前。」


 ミコト様は そう言って近づくと、片手を俺の体にかざす。

 暖かい何かに包まれる感じがする。見ると、体の傷が少しずつ消えていく。服も修繕されていく。

 しばらくすると、傷はもう目立たないくらいになっていた。


「おぉ! ありがとうミコト様。やっぱすげえわ!」


「さっき真反対のこと言ってたじゃねぇか。」


 ミコト様は少し非難の目線を向けるが、ため息を1つつくと、


「ほら、速く行けよ、遅くなったら余計面倒になんだろ?」


 諦めたのか、速く学校に向かうように促した。


「わかってる」


 俺は学校に戻るために、ミコト様たちからくるりと背を向ける。


「じゃあミコト様、また後でな。そして千歳さん、また明日。」


「うん。 大麦君、ありがとね。凄く–––––嬉しかった。」


 千歳さんは柔らかい笑みを俺に向かって浮かべる。

 その笑顔は、夕焼けに照らされて、凄く、凄く綺麗に映った。

 –––––少しは恩返しをすることができたかな?

 勿論これで全て返し切った、とは言わないけれど、そうであったなら嬉しいな。

 心なしか学校に向かって走るペースが、少しいつもより速くなった気がした。


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