第2章 彼女の心の闇
第7話 大麦羅一の身近な人間関係
ミコト様の眷属となってから、俺の日常は新たなものになった訳だけど、今までの日常にまで大きな影響があったかというと、そうではない。
あくまでも、今までの日常の中に、眷属としての日常が組み込まれた、と言った感じだ。
今日も、俺の学生としての日常は廻る。
今日も、ミコト様に家から適当に持ってきた供え物を供えてから、学校へと向かった。
供え物についてだが、毎日買っているわけではない。 家で個人的に自分で作っている。
まぁ、理由としては俺の家は両親共に共働きで、基本的に、朝から父母共に家にいないって言う結構仕方のないものだったりするんだけど。
現にそのためか、母親は夕方近くには家に帰ってくるように努めてくれている。
だから、朝は親が料理をあらかじめ作ってくれているのだが、それプラス、自分で料理を作っている。その朝飯を半分ほど、ミコト様用により分けて、持って行っているのだ。
因みに、今日作った料理はスクランブルエッグだった。美味そうに食べていたので何よりだったが。
因みに、供物を持っていくうちにわかったことだが、結構酒が好きらしい。気になって地元のミコト様関連の文献を漁ってみたのだが、
曰く一升瓶2本飲んでなんともないほど酒には強いらしいとのこと。すごい。
ちなみに俺は子供の頃、水と間違えて日本酒コップ一杯飲んで倒れたくらい酒に弱い。まあ子供の頃の話だけど。まだ肝臓未発達だったからの話だけども。
酒に弱いと思いたくないとかそんな想いは断じて、ない。
でも、そういうことがあったので、成人して酒を飲むことがあったら程々にしておくのは大事だろうなぁ、とは心に留めておいてある。
そういえば、そろそろシュークリーム持って行ってやらないとな。週に一回は持ってくる約束だし。
最初にそう約束したときは少し文句を垂れていたのだが、それは「毎日食ってると飽きるぞ。」とだけ言っておいた。
その後思いっきり袈裟固めかけられたよ。
身体痛え。
さて、学校に着いた。
自分のクラスの指定の駐輪場に自転車を止め、昇降口へと向かう。すると、見知った声が耳に飛び込んできた。
「おーっす羅一、おはようさん。」
「ん?あぁ、おはよう。弥勒。」
そういやこいつとは陸上部の部活動見学で知り合ったんだっけか。高校から陸上を始めた俺と違って、こいつは中学の頃から陸上をやっていたので、始めたての頃はこいつから陸上のイロハを色々教えてもらったりしていたんだっけ。
俺が陸上選手として、ここまで来れたのも、力をつけられたのもこいつのおかげだ。
「そういや今度の大会に向けての調子はどうよ?お前最近調子いいじゃん。ようやく県大会上位を狙えるとこまで来たか?」
そう言って、俺の肩をぱしんと叩く。
去年の秋季新人戦でのこと。俺は念願かなって県大会に出場することが出来た。
元々走ることは好きで、帰宅部だった中学時代の時にも市民大会に趣味でよく参加していたこともあったし、それがこの結果に繋がっていたりするのかな。
だから、去年よりもより良いタイムを目指して、練習にも力を入れていたところではあったけど・・・、さあどうだろうか、ここ最近は部活の練習プラス、ミコト様に鍛えてもらっているとはいえ、そんなに早く成果が出るとは思えないが。
「どうだろうな。それよりお前はどうなんだよ。今度の大会で県入賞は叶いそうか?」
「ほっほっほ。安心なされよ。サクッと決めてみせますわい。」
「そんなノリで済みゃだーれも苦労しねえよ。」
春の大会で県ベスト10に入ったことがある奴ぁ言うことが違えや。羨まし。他の高校からのスカウトもあったろうになんでうちの高校に来たんすかね?
こいつは人との会話や、その場を和ませるのが上手い。だからこの学校内での顔がとても広い。そのコミュニケーション能力は見習いたいところではあるけど、
たまにおちょくったり悪ノリしたりしてくるところは見習わなくても別にいいよね。俺は忘れてねぇからな。
その後もお互いに軽口を叩き合いながら昇降口を通り、教室へ向かう。
「お、もう教室か、んじゃなー羅一。また部活での。」
「おう、わかった。」
お互い違うクラスなので、弥勒とはここで別れた。
俺は自分の教室、2年B組の教室に入り、自分の机に座る。
しばらく黒板の方をぼうっと見ていると前からひょこっと顔を出して来た女の子がいた。
「や、おはよ。大麦くん。」
「おぉ、おはよう。千歳さん。」
今日はやたらと不意をついてくる人が多いな。
そして、とにかく可愛い。
ロングストレートの黒髪に、クールビューティーという言葉が似合う顔立ち、そして誰彼隔てなく接することのできる優しい性格も相まって、クラスでも、陸上部でも、男女問わず人気が高い。
そんな彼女は、腕を組む仕草をして、
「んー、もうちょっと驚くと思ったんだけどな。意外。」
言葉の通り、少し意外といった表情を浮かべた。
「まぁ最近、人を驚かせて楽しんでる奴が身近にいるし。」
当然、ミコト様のことだ。
最近じゃお社の周辺に即席トラップを仕掛けて、俺が引っかかると、「こんなんに引っかかるなんてまだまだ甘い!」ってニヤニヤしながら、落とし穴に埋まった俺を上から見下ろしながら言っていた。
いや、正論なんだけどさぁ、
絶対俺の修行のためじゃなくて、自分が楽しみたいだけで仕掛けたろ。
そんな魂胆が隠れもせず見え見えで、ものっそい頭にきた。
だってトラップの張り方が悪質なんですもん。落とし穴の底に水張ってて。
悪質。超悪質。なに笑ってんねん。
まあその日は部活の休日練習の帰りでジャージだったからまだよかったけど、出た先にさらに深い落とし穴がもう1つってアンタ。
これで組手で一発入れられたらよかったんだけど、
あいにくその日も無理でした。くそう。
「ふーん、それって、男の人?女の人?」
「ん?なんかやけに食いつきがいいね。」
「いや、別に?最近大麦くんの雰囲気が変わって見えるから、何か関係あるのかなーって、単なる好奇心。」
そっか、そういうことか。
確かに俺はミコト様に出会って少しだけ変わることができたと思う。それが外面にも出ているのだろう。
他人の目から見てもわかるくらいまでは、前に進むことができたのかな。そう思うと、少し嬉しかった。
「で?で?どっちなの?」
千歳さんは俺の机に身を乗り出して聞いてくる。
なんか、こういう時は押しが強い人なんだよなあ。顔に似合わずというか。
「女の人だよ。つっても、女らしくない性格だけどさ。」
「ほうほう。そうなんだ。そうかそうか。」
何か思わせぶりな態度をとる千歳さん。
あれ、もしかして、勘違いしてないか?
「一応言っておくけど、その人と俺は恋愛関係にはないぞ。」
「え、そうなの?なーんだ。つまんないの。」
いや確かにミコト様はスタイルいいし、おちょくられた時に少しドキッとする時もある。
でも、あくまで、俺とミコト様は主従、つまり、神と眷属の関係なのだと思う。てか俺がそういう感じにしか認識できない。
神と眷属の関係にしては、俺たちはかなりフランクすぎる関係だとは思うけど、ミコト様自体かしこまりすぎるのがあまり好きじゃないみたいだし。
そういう関係だということを心の中に留めておいている、と言った感じかな。
「ま、でも、よかったかな。」
「え、それってどういうこと?」
「いや?まだ私ですら彼氏出来たことないから。いくら男子でも知り合いに先を越されるのはなんか気にくわないなって。つまり、そういうこと。」
なーんだそうかーそうかー
期待してすみませんでしたー。あー恥ずかしいちっっくしょーー!
目頭熱くなってきた。なんでかは察して。
「あ、もう始業のチャイムが鳴る。机に戻らなきゃ。ありがとね、大麦くん。」
そう言って千歳さんは自分の席へと戻っていった。
「へぇ、お前、今話してた奴に気があんのか?」
突如、どこからか声が聞こえた。
そして、突然目の前に何かが現れた。
それは俺の机の上にあぐらを組んで座っている。
え?
おい、ちょっと。
なんでここにいるんすかミコト様!?
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