第30話 5人目の戦士

 援護射撃を行ったのは……ショートバングに近い、おかっぱボブで栗毛色の髪型をした、スレンダーでデニムスカートを穿いた可愛らしい女の子。


「……ルイーズ? 高校の時、一緒のクラスだった……ウソでしょ!?」

「ところがどっこい! ウソじゃありませ~ん! 現実デースッ!!」


 彼女の本名は芮 紫菲るい ずーふぇい。出身は台湾で彼女がイギリスに留学してた頃に、ダフネの学友だった経緯けいいをもつ。再会したのは実に11か月ぶりになるという……。


 人質だった者達とダフネの周囲にいたゾンビ達はルイーズへと標的を替える。


「ボクの方がタゲられたんご、ここは某霊界探偵の十八番おはこを出すしかないッ!」

 余裕の表情で彼女は所持していたライフルを捨て、右手で鉄砲のポーズをとる。

 

「レイジング・バレット!! 伊達にあの世は見てないぜよッ!」


 彼女が必殺技の名前を陽気に口ずさむと、人差し指から圧縮した空気弾がゾンビ共に放たれた。それは火薬を使った弾丸よりも一回り上をいく威力だ。

「ハッ……今のうちにバリアの幕をくぐって! はやくッ!」

 

 途端に標準語になったダフネはケガ人をかかえ、4人で固まって防壁に向かう。

「そのカエルの硫酸攻撃には気を付けなさいッ、ルイーズ!!」


 ダフネの忠告と同時に、レイニーフロッグはアシッド・スキャッターを吐く。

「〈ヴァリアント〉、ブリーディング・ショット!!」

 ルイーズはそれを予測してたかのように、右手を散弾銃に変型させていた。


「ゲコッ、ゲキューゥウ!?」

 その散弾銃から出た太い針は蛙の体液を根こそぎ抽出ちゅうしゅつし、干物にさせていく。

「ヘイッ! カエルのカンピンタン一丁上がりだぬ!!」 


 ルイーズの持つアンデッド能力は〈スキュラガンズ〉、その不死物危険度はC+。3メートル以上の茶色の猟犬で、肉体に6種類もの銃火器を内蔵しているハイテクなクリーチャーだ。 本来、スキュラはギリシャ神話で海の怪女として扱われている。


 ダフネは人質を安全な場所に運び、傷を負っていた男にはヒーリング・シャワーを使い食われた箇所を再生し、どうにか事なきを得た。


「どうやら……敵の狙撃手はフレッドさんの邪魔を優先しているようですわね」


「ん……? 『ですわね』って何だお? キミ、もしかしてキャラ作ってるの?」

 図星をつかれたダフネは赤面しながら、友達のルイーズに協力を要請する。



――――ライノストーカーの猛攻は木々をなぎ倒し、地面をえぐった。

 予想を遥かに超える難敵に、フレッドとトラヴィスは森の地形を活かして戦う。


「クソォ! 強力な磁場でさえぎられたように、簡単には近づけねぇ!!」

 敵は小回りが利かない分、それを補うために衝撃波による広範囲攻撃をもつ。

「狙撃を避けるためにも、ここで仕留めたいところだが……!」


 敵は鼻から尖った角を突き出して猛進、次に一時停止してからの方向転換という、レトロゲームのボスキャラを彷彿ほうふつとさせる単調な攻めを繰り返す。


「シャベルじゃまったく歯が立たない! マジで堅すぎだろコイツッ!!」


 攻撃後のすきを狙うも、フレッドに稲妻が走ったような痛みが全身を走り抜ける。

「ゴふぁッ!? もろに食らっちまった……!」


 フレッドの総合的なスペックは平均的に割り振ってはいるが、正直なところ耐久はさほど高くない。ネクロ・キメラに勝てた要因として、直接ダメージをほとんど受けなかった事が挙げられる。

 

 とどのつまりは、現状のフレッドにとってライノストーカーのこの一撃が、最悪な場合は致命傷になりかねないのだ。


「フレッドーッ! 急いでその辺の樹に登るんだ!!」

 壮絶なタックルでぶっ飛ばされ、意識がもうろうとするなか、必死で歯を食いしばるフレッド。彼がしがみつこうとした木は運悪く、すべての葉を落とした骸骨のような老樹であった…………。


「二人とも! ……目をつぶってくだしあッ!!」


 眼球にみるほどの強烈な光が、視界を真っ白に染め上げていく――――。

「うおォッ!? まぶしぃ!!」


 フレッドを助けるために、ルイーズは手持ちの閃光弾をサイに投げ込んだのだ。

「キミは一体……何者なんだ?」


「ボクかい……? なに、通りすがりの美少女ガンナーさ。軟禁なんきん不眠中のね!!」


「え……? それは、体に気を付けてくれ給え……」

 狼狽ろうばいするフレッドをよそに、トラヴィスとルイーズが珍妙なやり取りをする。


「アノ化け物の動き……ボクの必殺技なら数秒だけ止められるヨ、その間になんとかダメージ与えれるよね……!?」

 ルイーズの言葉に反応をして、骨がミシミシ音を立てるほどの深手を負っていたが、フレッドはなんとか立ち上がり勇ましくうべなう。


「その子を信じて、トラヴィス……俺が合図をしたら木の上から強襲してくれ!」

 フレッドにはどうやら何か秘策があるみたいだ。


 視力を回復して怒り狂ったライノストーカーが、再びフレッドめがけて猪突しようと仕掛けてくる。その圧迫感は尋常ではなく、まさに背水の陣である。

「……今だッ美少女ガンナー!!」

「〈ヴァリアント〉、ハーミット・キャプチャ!!」


 ルイーズが撃ち出したのは網目をもつ巨大なネットガン。その猛獣を捕らえるためにハンターが使用する銃を、彼女は変型により右手から生み出したのだ。


 フレッドは敵が捕縛されているのを確認し、深い呼吸を丹田たんでんのあたりに溜める。


「俺の肉体よ、限界を超えるぞ!? レッド・アセンションーッ!!!」


 真っ赤なエネルギーを発光させ、なんとライノストーカーの真下に潜った。

「ひえぇ……、まさかアノ巨体を持ち上げる気ッ!? どんだけ~!」


 ライノストーカーの体重はおよそ12トン以上はある。これは現実世界における陸棲りくせい動物の中で最大種であるアフリカゾウに匹敵する重さなのだという。

 

「うおぉおおおりゃあああああああアーッ!!」

 それでもフレッドの火事場の馬鹿力によって、ライノストーカーは即座に仰向けの状態になった。だが、ここにきて彼のライフゲージは黄信号を点滅してしまう。


「なるほどッ、硬い鎧をまとっていない腹の箇所なら攻撃が通るってことネ!」

「今だッ、トラヴィス!!」


 トラヴィスは断崖だんがいから飛び降りる覚悟で、化け物のドテッ腹に斬撃を浴びせる。

「よしッ刀が通るぞ!」

 さらに興奮さめやらないルイーズのレイジング・バレットが敵を撃ち抜く。


「トドメは俺がもらうぜ……? ディレイド・フレアーッ!!」


 それはスローモーション映像のように……その5秒間はただ、犀のアンデッドのけたたましい凶暴な叫びがこだまする。そして、腹部の亀裂部分は爆発で起こった熱気で焦げ落ちていった。

「やべぇ……もう腕上がらねぇよ、ド畜生めがッ!」


 激闘の末――、強敵ライノストーカーを3人の力で退治することができた。


「オレの名はトラヴィス、協力に感謝する……キミは東洋人のようだが?」


「ボクはルイ・ズーフェイ、ルイーズでいいよ。まぁ、台湾美女ってやつなのだ」 

 自分で美女というのもはなはだしいのだが、外見に関しては未だに幼さの残っている感じだ。どちらかと言えば美人というよりは、栗鼠りすのような可憐な乙女である。

 結構なオタクであるため、ネットスラングを多用するのが実に彼女らしい。


「俺のフルネームはフレッド・赤江あかご・バーンズ! う~ん……君のバストサイズは85センチのDカップってところかな? 形の良いナイスおっぱいッ!」

 

 さっきまでの死ぬような思いをしてでも、フレッドは全くブレずにいた。

 


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