第21話 天才と努力

 非戦闘員であるアップルを除くと、ダフネは単独で3人を相手にする事になる。


 またスリーマンセルでの戦闘を得意とする〈パラサイダー〉相手では、圧倒的不利と云わざるを得ない。さらに相手は得体のしれない何者かに、その肉体を操作されているかもしれないという状況である。


「左からメイナード・プロウライト、メルヴィン・プロウライト、メレディス・プロウライトじゃ。そして3人揃ってレベルは30みたいじゃのぉ……」


「とどのつまりは3兄弟ですわね、能力もやはり全員同じなのでしょうか?」


 質問の答えが返ってくる前に、プロウライト3兄弟がダフネに襲撃してきた。 

「変わった武器を使うようですね……槍のような、シャベルなのかしら?」


 プロウライト3兄弟が使っているのは、本来ならば土を掘り返すための刃先を、柄と同じ方向に取り付けた『踏みすき』と呼ばれた農具だ。ただしこれらは軍事用に改造されており、ロシア最強の特殊部隊スペツナズも実際に白兵戦闘に用いたとされる『スペード』という名の恐ろしい武器である。


「囲まれておるぞッ! 奴らの連携を甘く見るでないッ!!」


 まず前方の二人が左右から交互に攻勢に転じ、残りの一人は背後から常にダフネにプレッシャ―を与える。今度はその役割を順番に代えていく。これらの手順を三角形を維持したまま相手を囲み繰り返す、というのが彼ら3兄弟の戦法である。


「シャベルのエッジにさえ気を付ければ、直線的な動作でしかありませんね」 

 それでも敵の三身一体の攻撃を、華麗な身のこなしでかわし続けるダフネ。

「ふむぅ……、ダフネは天性の才能を持っておるな。脳筋プレイのフレッドに比べて安定感が段違いじゃわい」


 ダフネのパラメーターは技量と俊敏に偏っており、攻撃力と耐久をネックとしている、俗に『テクニカルプレイヤー』と云われる上級者タイプだ。


「あなた方のお相手をしてる暇はございませんわッ!!」 

 ダフネは先日の騒動で苦戦を強いられ、ようやく入手のできた樹木のアンデッドの能力、ロゼットドリアードの『アクティブ・スキル』を出し惜しみなく使う。


「〈ヴァリアント〉、ヘリックス・ロッド!!」 

 植物のツルによる鞭で猛打する、そうして敵のコンビネーションをたくみに潰す。


「しかも、すでにロゼットドリアードの能力をモノにしておるのじゃ……」

 その抜群のセンスと適応能力にただ感心するアップル。


 このゲームは自分と相手とのレベル差が10くらいならば、プレイヤーの立ち回り次第で十分ひっくり返せるバランス調整が為されている。それは複数対ソロの対人戦においても例外ではない。


「ヤツらが取り込んでおるのは不死物危険度C〈エラティックモール〉! 土の中に潜むモグラのアンデッドじゃぞ!!」


アップルの便益をもたらす忠告に耳を貸し、ダフネが背後に気を配るとプロウライト3兄弟のうちの一人が姿を消していた――。

「まさか……!?」

 ダフネが足元に目をやると、彼女の近場の地面がほんの少し揺れ出す。


「クッ……地面を掘って、わたくしに奇襲する気ですかッ!?」


 3兄弟の次男坊であるメルヴィンは、ダフネの目算通りに地中を掘り進み、彼女の真下から攻撃を繰り出す。その敵の両腕は〈ヴァリアント〉によりモグラのような硬い爪をした手の形になっていた。


「それを食らう訳にはいきませんッ! ジャンピング・トード!!」

 先読みが成功し、レイニーフロッグのスキルで自身を高く上昇させ回避した。

(なせだか分かりませんが、今の攻防で違和感を覚えましたわ……!)


 しかしダフネの着地を狙って、残りのふたりがスペードを突きだしてくる。

「しまったわッ! 体勢が……!?」

 高さ15メートル以上のジャンプをしたダフネは着地に失敗してしまう。


「ダフネェーーッ!!」


 ダフネはかろうじて急所を避け、腰の付近を流血する程の怪我を負った。

「へまをしてしまいました……が、これぐらい平気ですわッ!」


 それでもレイピアの先端部分をプロウライト3兄弟に向け、瀬戸際に立たされても不敵な笑みを欠かせない。――――彼女の人生において逆境は日常茶飯事だった。


 現実世界のダフネ・ヘイズは中流階級以下の身分に位置して、間違っても他者から『お嬢様』と呼ばれる立場ではなかった。血のにじむフェンシングの修練、かなぐり捨ててきた青春の日々、結果オリンピックで金メダルを取得するに至ったのである。


 そういう意味では、保安官として保安官のままプレイを続けるフレッドとは対照的で、別の誰かに成り切るというRPGの本分を実行しているのではないだろうか。

 なぜなら彼女はゲーム世界に強制的に落とされ、苦悶するように演じてはいるが、内情は……あふれる意慾を胸に秘めた、いちプレイヤーにすぎないのだ。


「アップルさん……、そろそろフレッドさんのサポートに行って下さい! ……もう着いている頃合いなのは分かっていますッ!!」


 そう、彼女は決して弱音を吐きはしない。プライドを捨てずに自信を持ち続けてきた努力家なのだから……――。


「……そやつらを倒したら、すぐワシ達の応援に来るのじゃぞ!」

 アップルは去り際に、親指を立てるジェスチャーをしてテレポートする。


は諦めません……この町を救う事も、そしてフレッドの事も……!」



 ダフネ達と別行動をとって10分が経過し――――、西方面に差し掛かった辺りでバトラーの運転を中断させ駐車する。


「チィッ!! ゾンビがもうこんな所にまで侵入してきてるのかよッ!」

 大きな爆発が起こったせいで西側にアンデッド達が集結してきたらしい。


「執事さんはこの家に身を隠していてくれッ!!」

 見晴らしのいい住宅街が並ぶ中、用心のため頑丈そうな家にバトラーを入れる。

「俺のセンサーだと4,500メートルが限界だっていうのに……」


 心を静め、敵の気を探る。バンダナの大男の位置を割り出そうとするフレッド。

「どこだ……どこにいやがるッ!?」


「オヌシのちょうど前方、800メートル先にヤツはおるぞッ!」


 フレッドのすぐ隣には赤い服にピンクの長髪をなびかしたアップルが居た。

「アップル! ダフネちゃんは大丈夫なのかッ……!?」

「案ずるな……、あやつはそう簡単にヤラレたりせぬのじゃ」


 血相を変えたフレッドはアップルの言葉を信用し、目の前の敵に集中する。


「ここは民家に入る手前で、ちょうど乾燥地帯の表土で覆われておる……」

「決着をつけるには、おあつらえ向きってことか…………」


 二人は互いに目線を合わせながら、パートナー同士の絆を深めて死地におもむく。


「ゆっくり少しずつ距離を詰めるのじゃ……相手もレーダーを使うやもしれん」


 道路から少し逸れた場所に立っている、大樹に身を隠し待機するフレッド達。

「残り500メートル付近まで接敵しておるが…………、どうやらバンダナの大男はアンデッドと交戦しておるようじゃな……」


「何ッ!? じゃあアイツは俺達と同じプレイヤー側の人間って事かよ!?」

 決着を付けようとしたこの土壇場で、衝撃の事実が明かされる。標的の男はすでにアンデッドの確立が濃厚と思われていたからである。


「でも上手くいけば、俺が戦う前にアンデッドが倒してくれるんじゃないか?」

「それがどうも……このままでは不利になるのはワシらの方なのじゃ……」

 アップルが冷や汗をたらし、なにやら暗然たる表情を浮かべる。


「厄介なことにバンダナの大男のレベルが……上がっておるのじゃ……!」

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