第12話 新緑の邪気・後編
ダフネは利き足を前に向け、落ち着いた様子で敵との距離を詰める。
対する樹木のアンデッドは幹の根を鞭に変え、ダフネに攻撃を仕掛けた。
「スピード勝負なら誰にも遅れは取りませんわ!!」
ダフネはギラついた目でレイピアを伸ばし、前足を大きく一歩踏み出す。ダフネが繰り出す高速の突きが、本体の緑髪の女ゾンビまで一気に迫る。
「すごい……まるで達人クラスの動きじゃないか……!」
フレッドはダフネの剣さばきに見惚れ、思いがけず我に返る。
「何やってんだ俺、脳無しの化け物相手に真っ向からぶつかって……」
そこにマンイーターが大口を開けて、フレッドにかぶりつこうとする。
――が、フレッドは機転を利かせ、ダフネが斬り落とした太めの枝木をそのワニ型の口内に叩き込んだ。
「人間様はオマエ達と違ってな、頭を使って戦うんだよ!!」
「あグゥー、あガッ! あがガッ!!」
フレッドは右腕に力を込めて、声を大にして叫んだ。
「燃えあがれッ俺の右手ぇえええ!!」
安定のバーニング・ソードがマンイーターの左胸を裂き大打撃を与える。
だがマンイーターが倒れた瞬間、樹木のアンデッドを支えていた木の根っこが、足のように地面から抜け出した。その場から移動できないというフレッドの推測が見事にハズレたのであった――――。
さすがのダフネもこれに仰天し、一旦間合いを取ろうとバックステップする。
「C+以下とB-以上では……アンデッドの質が大分違うということですね……」
「だったら俺がサポート役に徹するぜッ! とぉッ!!」
フレッドはその軽快かつ珍妙な走りで、樹木のアンデッドを
さらに高笑いをして、元気さが取り柄の彼らしい奇行をしでかす。
「フーッハッハッハッハッハッ! 俺を捕まえてみやがれ!!」
その姿に笑いをこらえ、他愛もないおしゃべりをするダフネ。
「フフッ……ギリシャ神話でこういう逸話がありますわ。自分好みの美しい男性を見つけた木の精霊は、少女に化けて誘惑し木の中に閉じ込めてしまうらしいです」
それを聞いたフレッドは付け上がり彼女に返事をする。
「カーッ、俺ってばイケメンすぎてアンデッドも虜にしちゃったか!」
「どうやらその伝説は、ゲテモノ食いの間違いだったようですわッ!」
フレッドの体が赤い光を放ち、全身のエネルギーを開放する。
「ゲテモノは意外と旨いって相場が決まってるらしいけどなッ!」
「なら、一度くらいはデートのお誘いをお受けしないといけませんね!」
二人の呼吸が見事にぴったりと合い、レッド・アセンション中のフレッドが敵の背後に回り込む。
「アン」 「ワン」
「ドゥ!」 「ツー!」
樹木のアンデッドは木の幹についたツタで、フレッドの首を絞め殺そうとした。一方、姿勢を低くし突進してくるダフネには、切れ味の鋭い葉っぱをブーメランの様に飛ばす。
「トロワ!!」 「スリー!!」
宙吊りになったフレッドの回し蹴りが樹木を大きく揺らし、敵のカッター攻撃がダフネから完全にズレる。
捨て身で駆け抜けたダフネは、樹木のアンデッドの核である女ゾンビを自慢のレイピアで刺突した。
「……これでフィニッシュですわーッ!!」
「ギァァァァァアアアアアアアーッ!!!」
かん高い断末魔を上げた女ゾンビの肉体は塵となり、一体化していた樹木も徐々に枯れ果てていく――。ダフネは〈ヴァリアント〉を使わずに、自身の技量だけで敵をねじ伏せたのだ。
「やったね! ダフネちゃん!!」
ガッツポーズをとり、勝利を得たダフネにウインクするフレッド。
「まぁ……一応お礼を申し上げますわ。グラン メルシー」
ダフネは右腕を前に差し出し左足を交差させ丁寧にお辞儀をみせた。
「……君ってもしかしてフランス人?」
「いいえ、イギリス人ですわ」
「ありゃ……?」
二人は激闘の後にも関わらず、余力を感じさせる会話する。
「わたくし……、フェンシングでは世界オリンピックの女子サーブル個人で優勝した経験がありますの」
「マジでっ!? スゲェー……!」
「フランスの流儀や作法もフェンシングを通して習ったというわけですわ」
気品を漂わせるその口振りとは裏腹に、ウサ耳がピョコンと愛らしく動く。
――そこに本来の目的であった樹木のアンデッドの寄生虫がダフネに近寄る。
「おぉ、ドロップしてたのか! これでさっきの敵の能力が使える!!」
それを見てダフネは半歩下がってフレッドに遠慮をする。
「本当にわたくしが手に入れていいのでしょうか……?」
女王様気質と思われたダフネは、ことのほか控えめな性格らしい。
「俺にはこれがあるからさ……レディファーストだよ」
フレッドは人差し指を立てライターの様に火をともす。
「では……お言葉に甘えて……」
極小の寄生虫はダフネの体をよじ登り、彼女の開けた胸元に浸食する。
「アッ……くぅ…………んアァーッ!」
(ちょ、エロすぎでしょコレ……〉
しばらくの間、喘ぐダフネにフレッドから熱い視線が注がれる……。
――――3分後、ダフネはその場で微動だにせず、下を向いて沈黙をする。
「どう……? とりあえずセーフティエリアで一時休憩しない?」
フレッドは心配になってダフネの肩を触ろうとした…………。
「グゥ……フシュゥゥゥウー!」
「痛ッ!? どうしたんだダフネちゃん!?」
なんとダフネの肩から樹木の枝が生えてフレッドを攻撃してきたのだ。
殺伐としたダフネの金髪が少しずつ緑髪に変色していく。
「あっ……ああ馬鹿なッ、これって乗っ取られたってことか!?」
ダフネの目が赤く光り、フレッドに対して明らかに敵対行為を示していた。
(まさか、アップルが俺に2つ目の寄生虫を推奨しなかった理由って……〉
錯乱した彼女は鞘に収めたはずのレイピアを再び取り出す。
「情けないが……ここは
フレッドはダフネに背を向け全速力で逃げる。向かう先は、防壁付近のアップルと灰賀がレベリングしている場所だ。
「シャァアアアアー!!」
ダフネもフレッドを睨みつけ、その背後から追いかけてくる。
(これでいい……この距離を保ったままアップルの所まで彼女を連れていく!〉
フレッドとダフネの間隔は付かず離れずの10メートル差といった具合だ。
「…………ヴァ……ヴァ」
ダフネは薄紫色に変色した左手をフレッドに向けた。
「〈ヴァリアント〉、ファンフロンド・ダート!!」
「何ィ!?」
矢羽根型の葉っぱがまるでダーツの様に、フレッドの左ふくらはぎに刺さる。
「ぐわっちッ! クソォもうすぐ防壁なのに……!!」
フレッドはくじけずに片足で走るが、ダフネはすぐそこまで来ていた。
「やばいッ、万事休すか……!?」
そこに白き乱入者が、彼女のレイピアを隻腕で止める……――そして、その正体にフレッドは絶句した。
「ギィイーッ!!」
螺旋状の筋の入った1本の角を額から生やしたウサギの化け物、アルミラージが窮地に立たされていたフレッドを守ったのだ。
〈なんだこれ……? こいつはアンデッドじゃないのか!?〉
それはフレッドがダフネと最初に出会った光景をそのままに再現している。
「ふぅ……やはりワシがおらんと駄目のようじゃなぁ、小僧?」
前方で立ち込めていた霧が一気に晴れ、爽快な青空が刹那的にのぞいた。
「あっ……アップルーッ!!」
彼の眼前でカッコよく直立する美少女が一人、それは我らがヒロインにして最強のナビゲーターその人だった。
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