第6話 パラサイダー襲来
ウサギの怪物と対峙するその女性はフレッドと同じく〈寄宿者〉だった。
その爆乳といっても差し支えのない大きさの胸元がはだけ、色白のセクシーな美脚をあらわにしてフレッドを誘惑した。
「アップル……短いヒロインポジションだったな……同情するよ」
それを聞いたアップルはシラケた顔でそっぽを向く。
「ハイハイ……そのスケベ根性なんとかならんのかの」
二人の漫才をよそに筋肉を膨張させ、ウサ耳の女性に襲い掛かるアルミラージ。
「今助けに行きますよ! ウサ耳オッパイちゃん!」
「わたくしに助太刀は無用ですわッ!」
即行で相手側に拒否反応を起こさせたフレッドはしょぼくれる。
ウサ耳の女性はレイピアを巧みに操りアルミラージの猛攻を防ぐ。
「〈ヴァリアント〉、スティッキー・ウィップ!!」
彼女が叫ぶと左の手のひらが口のように裂け、凄まじく伸縮性の高いピンク色の鞭が飛び出す。
「アレは化けガエルのアンデッドの能力じゃな」
その鞭は確かに、カエルが捕食するときに伸ばす舌のように、アルミラージの動きを封じるために粘着し巻き付く。
「これでフィニッシュですッ!!」
必殺技で化け物を引き付けて、彼女はレイピアでそのウサギの首をはねた。
すると倒した怪物の死体から、例の寄生虫が彼女の足元まで 近付く。
その寄生虫は足が6つあり紐状の尾をもち、ミズスマシにどこか似ている。
「ふぅ……まったく汚らわしいッ!」
そう言うと彼女は右足のブーツで寄生虫をプチッと踏みつぶす。
「あっ……せっかくドロップしたのに」
アンデッドを倒すと低確率で寄生虫が対象の〈寄宿者〉に再寄生をしようとする。これを『ドロップ』といい、アンデッドの強さに応じてドロップ率も反比例する仕組みだ。敵の能力が欲しいものなら吸収し、要らないなら排除、またアイテムを使用してキープすることも可能だ。
ウサ耳の女性はフレッド達に視線を移し、自己紹介を始めた。
「わたくしの名前はダフネ・ヘイズと申します、あなた方もどうやら私と同類とみてよろしいのかしら?」
「俺の名前はフレッド・赤江・バーンズです! で、こっちの赤いのはアップル」
フレッドは背筋をピンッと立て、普段と違い礼儀正しくふるまう。
「オヌシの取り込んだアンデッドは不死物危険度C-〈レイニーフロッグ〉じゃな」
アップルはまるで動物博士のようにズバリと言い当てる。
「フッ……、このゲームで生き抜くためには能力のえり好みをできる余裕がありませんでしたからね。このような醜い寄生虫の力を得て、ようやくスタートラインなんてふざけていますわ」
「本当に最悪だよね、このクソゲ―」
フレッドが調子に乗って相づちを打つ。
「正常に機能しておれば、ゲーム開始時にBランクのアンデッド能力を有する3種の寄生虫から1匹をチョイスできたのじゃがのぉ……」
「ポ〇ットモンスター方式かよッ!!」
フレッドが人差し指を突き出し、キレッキレのツッコミを入れる。
「そちらの痴女衣装の女の子からはなにか特別な力を感じますけど……、〈寄宿者〉ではないのかしら?」
「オヌシがそれを言うかの」
「まぁまぁ……ここは協力し合うべきでしょ?」
3人はとりあえず近場のカフェで一服することにした。
かつてフレッドも通っていた町はずれにある店舗、豊かな観葉植物と赤いレンガの壁に白い建物が印象的なオシャレカフェだ。そして、あの頃と違うのは店員が誰とも知れぬNPCに代わってしまっている点――。
「ナビゲーターですって!? わたくしはずっとソロプレイを強いられてたのに羨ましい限りですね」
「オヌシのレベルをいくつか教えてもらえんじゃろうか?」
「あとスリーサイズを上から順にお願いします」
「……ふぅ」 「…………」
フレッドのせいでしばらく空気が冷たくなり、無言で紅茶をすするダフネ。
「……現実世界に帰るのは無理ということでよろしいのかしら?」
十数秒黙っていたダフネがいきなり本題に切り出す。
「現段階ではの……じゃがゲームクリアの過程で問題点をいくつか改善できれば、最終的には帰還はできると断言しておくのじゃ」
ダフネはここぞとばかりにアップルに質問攻めをする。
「わたくしの知る限りでは、現代のVR技術でこのような膨大なインフラを確立することはまず不可能だと存じますが?」
たしかに昨今のヴァーチャル・リアリティの発展は目覚ましく、すでに仮想世界において嗅覚や触覚の再現も実証されており、近未来の到来も夢ではなくなったと思われる。
だがこのように瓜二つの現世を完全投影するには、やはり進歩の限界を超えていると云わざるを得ない。
(俺ってその場のノリに流されるから……こういう風にマジレスする事はためらっちゃうんだよなぁ……)
「まぁ、こうなっちゃったモンは仕方ないよね、ハッハッハ!」
とりあえず笑って誤魔化すのが彼のスタンスである。
「コホンッ、ご協力するに至ってこちらから条件があります」
「できうる限りの事はなんでもするのじゃ」
二人の会話をパンケーキを食いながら静かに見守るフレッド。
「わたくしにもチート能力とやらをお貸しいただけるかしら?」
アップルは眉間にしわをよせ難しい顔をして答える。
「そもそもフレッドにチート能力を与えれたのは、寄生虫にまだ浸食されておらんかったという理由があるのじゃ。あと手持ちに〈ヴァーミリオンバード〉ほどの激レア能力がなくてのぉ……」
意外にもアップルの台所事情は厳しいことがうかがえる。
「ならパーティを組むという件は白紙ですわね」
ハンカチで口を拭きその場から立ち去ろうとするダフネ――。
「えっ……仲間になってもらえないの!?」
「どうやら気難しいタイプのようじゃな」
残されたふたりはせっかくなので、ランチタイムも兼用して休息することにする。
しばらくして、フレッド達は町の雰囲気が一変して慌ただしくなっていることに気づく。どうやら町の東側から、部外者の集団が踏み込んできたみたいだ。
「なんだありゃ? マローダーまで持ち出して軍隊でも来たのか……?」
マローダーとは一般人でも買える世界一硬いとされている軍事用装甲車である。
「まずい……、あれは〈パラサイダー〉の特殊部隊なのじゃ……!!」
急いでフレッドとアップルは姿勢を低くして身を隠す。
「セーフティエリアまで乗り込んでくるなんて聞いてないぞッ!?」
フレッドは気が動転してテンパってしまっている。
特殊部隊員の格好は深紅色の軍服を着用し、ライフルを携えて20人くらいの小隊で編成さているようだ。その中でふたり、金髪の大男と茶髪の美女がその部隊を率いてるが目立つ。
金髪の大男は顔にゴーグルをかけ、全身にピッチリとした黒スーツで固めた背丈2m30cmほどのマッチョマン。茶髪の外はねショートカットの子はウェスタン風の恰好をして、黒い帽子に黒ブルマーのセクシーウーマンだ。
「“鋼鉄”のヴォルテールと“猫目”のケイティか……! どちらもレベル50のカンスト勢、強敵なのじゃ!!」
「あの子もバスト90後半はいってるな……今日は巨乳日和だぜッ」
「このアンポンターン!」
急いでその場から退避し、逆方向に逃走を
「パラサイダーの狙いはやっぱ俺なのか、アップルッ!?」
「そうじゃ……あの生物化学研究所に居たものは奴らのブラックリストに記載されておる」
「マジかよ……ここで奴らが発砲できる可能性はあるのか?」
「試すにはリスクが高いのじゃ。今はセーフティエリア外に出るしかないのぉ」
フレッドの力を発揮できる自陣外に出るほうが有効、安全圏の方がかえって危険というややこしい事態へと突入するのであった――――。
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