第66話 終わりなき宴
宴会は未だ続いているというよりも、全く終わる気配が見えない。何度も総菜やら酒を買い足している始末。
こいつらは疲れるということを知らないのではないだろうか? 俺の肉体ほど純粋に疲労を感じている面子が見当たらない、器というものに疲労という概念が存在するのかすら謎だ。
「何を呆けているのですか? お料理が無くなりそうです、何か作ってください」
ソフィーは既に酔っぱらっている。お豊にも遠慮なく宴会に参加してもらう為に、俺が料理を作ることにしたのだが甘かった。こいつらの胃袋は大き過ぎる、無限に食い尽くすのではと思わざるを得ない。
それに合わせて適当に材料を買いに行かせてある為に、逃げる訳にもいかなくなっている。
「どんなのが良い?」
「お酒に合うものをお願いします」
「お前、呑み過ぎじゃないの?」
「大丈夫です、ちゃんと食べていますから、時期に酔いも醒めます」
異常な自浄作用で回復すると言いたいのだろうか? 便利な体をしているよな。
「大体この紹興酒の甕、どこから湧いてきたんだ?」
「これは家が完成した時に、旦那の父君に頂いたのさ」
「あのクソ親父か」
大きな甕の紹興酒も半分は飲み干されている、酒のペースもおかしい。ザルを通り越して枠という感じだ。
「適当に作ってくるよ」
一人パントリーへと向かう、片手にはデカンタに入れた紹興酒。自分で飲む分もあるが、ほぼ料理に使うつもりだ。
俺の酔いはほぼ醒めている、酔う暇がないと云った方が良い。
何を作ろうかと思案しながら適当に野菜を刻む。正直なところ調味料が足りない、香辛料の備蓄が少ないのだ。お豊は普段香辛料を用いる料理をしないので、仕方がないのだろうが。
食い物って、神の力とやらでパッパッと用意できないのかな? 料理そのものは趣味みたいなものだから、別に構わないのだが一人除け者になっているという状況が辛い。
適当に肉野菜炒め、鶏のディアブロ、スープの素に冷凍餃子を放り込んだだけの水餃子を持ってラウンジへと戻る。如何に器が枠だろうと汁物で胃袋を満たせば、酒の量も減るだろう。タプタプにしてやる。
「おまたせ、温かい内に食ってくれ」
俺は席着くなり直ぐに自分の分を取り分ける、目を離すと無くなっていることが多々あるのでね。
料理を確保した後は、酒を注ぐ。手酌だが、ソフィーはそんなことに気を使ってはくれないのだ。
「皮がパリパリじゃ、ビールによく合うのー」
アーリマン、こいつは酔ってすらいない。酔うという概念そのものが無いのだろうよ、酒でなく水でも飲んでればいいのに。
「旨い、どれもこれも旨いぞ」
円四郎、こいつは仕方ないな。死んでから酒も何も口にしていないのだから、同情したいくらいだ。
しかし、問題はこの神2体だ。
「お前ら、ゆっくり食えよ」
「うむ、すまぬ」
円四郎は仕方ないとは思うのだが、それを肯定してしまうとアーリマンを止める術が無くなってしまう。
「お主がこんな旨いものを作るのがいかんのじゃ」
「ほら、喧嘩しないさね。楽しくやるのが宴会さ」
道理だが。
「あまりハイペースで食べるなら、次からソフィー料理してもらうぞ」
「旦那、それはちょっとどうかと思うさ」
「豊まで何を言っているのです、私だって料理くらいできますよ。以前、旦那様も褒めてくれたではないですか」
宴会の席に並べるには、ちょっとばかり色が地味なんだよな。
「魔女っ娘も料理が出来るように、花嫁修業を頑張ったのじゃろ」
アーリマンお言葉に俺は目を逸らす、逸らした先には何も語らず、黙々と呑み食べているゲラルド。この主従は本当に対照的だ。
「冷めるのも何だから、さっさと食おうかね」
「ならば、旦那様と一緒に作りますね。それなら文句もないでしょう?」
「旦那に作らせて、手柄だけ持っていくのは無しさ、奥様」
「良いでしょう、私だけで作って見せますよ」
相変わらず、ちょろいなソフィーは。上手くお豊に乗せられている。
「なんか雲行きが怪しいのじゃ、魔女っ娘よ無理をするでないぞ。其方の夫に頼るのじゃ」
「なーに、大丈夫、味は俺が保証する」
「そうなのかえ、ならば安心じゃの。遠慮なく食べるとするかの」
「拙者はこの汁を頂くとしよう」
円四郎の器は、アーリマン謹製だから底なしの胃袋なのか? だとすれば失敗したな、俺が創ってやれば良かった。
「ソフィー、この鶏の肉は冷蔵庫に仕込んだのがまだあるから使っていいぞ」
「ご心配は無用です、私だってちゃんと出来るのですから」
あ、意固地になってる、少し揶揄いが過ぎたやもしれん。
「消費するだろうと思われる量の野菜も刻んであるから使ってくれ、使わないと無駄になってしまうからね」
「わかりました、ご期待に沿えるよう頑張ります」
もういい時間だ、その期待には応える時間もないと思いたい。
その後も食事のペースが落ちることは全くなく、見る間に無くなる料理の数々。お豊も気が付いたのだろう、このままでは本当にソフィーが料理を始めてしまうことに。
「旦那、拙いさ」
「お前が焚き付けたんだろう」
「旦那の料理があれだけあれば、大丈夫だと思ったさ」
俺も実際そう思ってはいたが、アーリマンと円四郎が止まらない。黙々と食べているゲラルドのペースだって異常なのだ。
ここに至っては、アーリマンの器が欠陥品なのだと嫌でも気付くことになる。
俺なら満福という幸せを享受できるように創るのだけどな、どうやら満福中枢は存在しないらしい。
このままでは本当に、ソフィーの手を煩わせることになってしまう。次善策として仕込みの済んでいる鶏肉や野菜を勧めてはいるが、どうしようもないな。
「あら、もうお料理が無くなりそうですね」
「なあ、そろそろ時間時間だしお開きにしないか? 円四郎も今日は泊っていってくれ」
「む、なんじゃもうそんな時間かえ」
「明日はあの菓子を買いに走らねばなりませんからな、早めに休めるのであれば嬉しく思います」
いいぞ、ゲラルドそのまま押し込め!
「拙者も泊めて貰えるのか、それは有り難い」
「あんたはその体で余韻を味わうのも良いだろうからな」
円四郎に関しては純粋な同情でしかない。アーリマンとゲラルドには、喫緊の事態を収拾するために踊ってもらおう。
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