第55話 おっさんの依頼

 アーリマンがエントランスの方を見ながら呟く。

「何か来たようじゃの、この感じは彼奴じゃろうの」

「何か来たのは分かるが誰だ? まぁいい、ちょっと迎えに行ってくる」

 大門の前に佇んでいる何者かを迎えに行く、俺の創った俺の空間だどこだろうと転移で一発だ。


「来たか、お前に打って付けの仕事が舞い込んだのでな」

「あんたか、突然仕事を振ってくるとは流石だよ。とりあえず中に案内するよ」

「そうか」

 挨拶も何もなく突然仕事を振ってくる叡智のおっさん、無表情で人形のようだ。

 このおっさんの場合、前庭を見たところで感動も何も無さそうなので転移してラウンジに戻る。



「おかえりなさい、旦那様」

「あぁ、追加の客だ。お豊、席を頼む」

「あいよ」

 新たに食器等を並べ、おっさんを席に案内した。

「これはまた、三柱しか居らん王の二柱が集うとはの」

「本当に三体しか居なかったのか…」

 神という名の化物は柱で数えるのか。

「私は仕事の話をしにきたのだ」

 おっさんは席に着くなり仕事の話をしてくる。

「あんた、相変わらずマイペースだよな」

「此奴は感情が芽生えて五百年程しか経っておらんからの、人間のようには如何のじゃよ」

「そういうものか、それでその仕事は急ぎなのか?」

「以前からあった話ではあるのだが、早いに越したことはないだろう。手遅れになれば、またお前に負担を強いることになる」

 またアレをやれと云うのか、俺は額に手を当て俯いた。

 おっさんは俺が世界を消すことを負担だと認識してくれてはいたのか。

「わかった、引き受けるよ」

 約束した以上、断るつもりはないのだけどな。


「場所を変えよう。お豊応接間はその右の部屋だ、茶を頼む」

 それだけ告げると、おっさんを連れて応接間に転移した。

「悪いな、あいつらには聞かせたくないのでな」

「構わんさ」

 ソファを勧め、俺も対面にフワリと移動する。

 遅れてやって来たお豊はお茶を置くと部屋を出て行く。



「詳しい話を聞かせてくれ」

 落ち着いて話を聞くことにした。

「神の去った世界がある、お前の嫌っている仮初の世界のことだ。

 だが、その世界には従者が二人残っている。彼らは世界の秩序を守るべく監視と運営を取り仕切っている」

 何かがおかしい。

「おかしくないか、神が居ないのに何で従者が残っている?」

「神が去る時に従者を世界の理に組み込んだのだそうだ、詳細は向こうで訊くといい」

 理? 世界の法則といったところだろうか。

「それで? 監視と運営をしているのだろう、何が問題なんだ?」

「イレギュラーが発生したそうだ」

 俺は首を捻る、イレギュラーなど幾らでも発生するだろうに。



「概要はこうだ、従者二人はそれぞれが大国を運営する神を演じている。

 その大国二つは戦争状態にあり、常に小競り合いが起きている状態にある。しかしこれは予定調和だ」

「どこが予定調和なんだ?」

「仮初の世界は極端に狭い、人間が飽和すればどうなると思う?」

「食糧問題か?」

「それも大きな問題だ、だがそれ以上に大きな問題がある。

 これは欠陥と云った方がいいな、仮初の世界に存在できる生命の総量には限界がある」

 入れ物には限界があるからな、やはり実験場ということだろう。

「…だから、間引いていると?」

 おっさんは何も言わず頷いた。

 まるで畑の作物だ。


「そこへ二国間での戦争に反対する勢力が生まれた」

「そんなもん政治的にどうにかしろよ! 若しくは宗教的に」

 アホらしい話だ。

「そう、宗教的に排除しようと云うことにした。その為にお前の力が必要なのだ」

 は?

「なんでそこで俺が出てくる?」

「彼らは神を演じているだけで、何が出来るという訳ではない。

 そして私はそういったことに向く能力ではない、そこでお前の出番だお前なら容易いだろう?」

 その言い分だと確かに俺向きかもしれないけどな。

「要するに戦争を恒常的に行う為に、そいつらを排除しろと?」

 本来なら正しいはずの、戦争に反対する人間を殺すというのだ。

「神威を示し見せしめにするようだな、派手に殺してほしいという話だった」

 最悪だ、消してしまうならまだしも殺すのか…。存在の消し方は前回学んだが、スプラッタじゃ話は別だ!


「それ、やらないと駄目なのか?」

 善良な人間を殺して戦争を続けようということ自体、既に壊れていると思うのだがな。

「戦争が終息し人間が増え続ければ、お前の云う食料問題も含めもっと大量の生命が失われるだろう。

 そうなってしまえば、最早現行の戦争へと導く運営方法も使えなくなり、いずれ世界は壊れる」

 壊れたら俺に消せと言い出すのだろ?

「大の為に小を殺せというのか」

 善良な人間を派手に殺せ…か、俺は頭を抱える。

「バランスをとるだけだ、深く考えるな」

 おっさんは珍しく渋い顔をした。

「結局やらなければ、俺にお鉢が回ってくるのだろ? やるけど一回限りだぞ、何度も繰り返されたら堪らないからな」

「構わない、以降は彼らに任せる」


「なぁ、欠陥があることを理解しているのに、神たちは何故世界を創ろうとするんだ?」

「私も詳しくは知らぬ」

 おっさんは何か知っていそうだが、教えられないといった感じだ。

 居なくなった神の負の遺産を、このおっさんはどうして救おうとするのかも謎だ。

 最後まで面倒みれないなら創るなと、俺は言いたい。子供が昆虫やペットを欲しがる時に親によく言われる言葉だ。

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