第56話 粛清

 おっさんの転移で現地へと到着した。

 宴会の最中に招待した本人が居なくなるが、奴らは奴らで楽しそうだったので放っておいた。

 天国とでも云えば良いのか、天空に浮いた土地がありそこに屋敷がひとつだけポツンと建っている。簡単に云えば、サティの所と同じタイプだ。


 俺達の姿を確認したのか、例の従者だろうか迎えに出てきた。

「お待ちしておりました、どうぞ中へ」

 ここに来る前に教わった翻訳は上手く機能している、流石は叡智の神さんだ。

 従者の一人が先導し、もう一人は後ろから付いて来ている。

 俺は浮いてるだけなので、どこで話を聞こうと関係ないのだが、一般的な応接室に案内された。

「私はアーネスト、彼はマルクと申します」

「君たちの名は把握したから、他に紹介は必要ないよ。この世界の名がどうだとか、はっきり言って興味が無いんだ。

 俺が殺す平和主義者たちへの対応だけ教えてもらえないか?」

 狂った世界の従者の名など聞いてもしょうがない、それならば可哀そうな革命家の名を覚えた方がマシだ。

 俺の身勝手な発言だったが、おっさんも異論はないようだ。


「私たちの運営している国家、二国で凡そ千人程の人間が革命運動に従事していると思われます」

 アーネストが説明するのかと思えば、話し始めたのはマルクの方だった。

 続きを、と視線で促す。

「リーダー格が複数居り組織的に動いている為、尻尾を掴み切れませんでした。それと常に戦争状態にある為、厭戦感情の高まりもあり容易に手が出せる状況でもありませんでしたので」

「お前たちの政策云々に口を挟むつもりはねえよ。で、結局その千人だけ始末すれば良いのか?」

 この二人は人間のはずだ、それなのに何故こんなイカれた世界を維持しようとするのだろうか? 俺には不思議で堪らない。


「はい、それで構いません」

「全ての者の目に映るように派手にやってはやるが、千人で収まるかどうか分からないぞ」

「それはどういうことでしょうか?」

「革命運動に参加している者の名簿がある訳ではあるまい。ならば、人間の意思を読み取り判断するしか無いだろう?

 だがそうやって識別すると、厭戦感情の高まりによる潜在的な革命家も多数巻き添えになるだろうな」

 問題はどこでボーダーラインを引くだな、下手をすれば国民を根こそぎ失うことにもなり兼ねないだろう。

 従者二人がどう判断するのか、みてみよう。


「潜在的革命家ですか…。現在行動している者のみを対象とすることは可能ですか?」

「可、不可で言えば可だが、多少は巻き込むぞ」

「無理を言っているのは分かっています、それでお願いします」

 これ多分今回が上手くいっても同じことが繰り返されるだろうな、次はどう対処するのだろうか、こいつら。


「あんたは何かあるか?」

 おっさんに向かって尋ねる。

「私はお前に任せたのだ、やり易いようにやれ」

 そう言うと思ったよ。


「長居するつもりは無いのでな、今から対処させてもらう」

 一通りシミュレーションはしてあるのだが、千人も派手に殺さなければならないのか。

「今から、ここからですか?」

 焦った口調で訊いてきたのはアーネストだ。

「悪いがお前らの移動を待つつもりは無い、その代わり目一杯派手にしてやるよ、ここからでも余波が見えるように」

 悪趣味なことだ、革命家たちの死に様をそんなに見たいのかねえ?


「さて、まずは識別だな」

 声に出して確認しながら行う、何せ人殺しは初めてだ。

 この世界の表層に薄く俺自身を浸透させるようにイメージする。

 浸透した俺は人間達から記憶と思念を読み取る、右手を頭に突っ込んでいた頃とやっていることは同じだな。

 膨大な人数の記憶と思念を読み取りながら、過去に革命運動に参加したもの、これから参加しようと考えているものにマーカーを付けていく。

 これは、分体として切り離して仕事させた方が早かったな。何より数が多いので手間だ。


 ソフィーに買ってもらった懐中時計によると、二十分は掛かっただろうか。

「識別を完了、総数1,428名を確認した。これより虐殺に入る」

 この従者二人も相当ぶっ壊れてるな、虐殺の言葉に反応しやしない。戦争を続けているのだ、この程度では反応しないか。

 浸透させていた俺を戻し、天空より光の柱1,428本をマーカー目掛けて伸ばした。この柱は槍と呼んだ方が良いか? 俺の意思そのものだ、俺の意思で彼らを殺す、何者も防ぐことの叶わない全てを貫く槍。

 その先端を革命家の脳天から地面へと貫通したまま、石突は天空へと伸びている、まるで彼らの墓標のように。


「虐殺は完了した。光柱はあと二時間ほど残すか、こんなもんでどうだ?」

 俺は辛い、前回程ではないが落ち込んでいる。

 皮肉なもので、俺が殺した革命家たちの怨嗟の念は俺へと還元されるようだ。消してしまえばこの声を俺が聴くことは無かっただろう。

 おっさんをチラリと見て思う、分かっていて俺に殺させたのか? まさかな。


「ありがとうございます。これで立て直しを図れます」

 こんなに嬉しくない礼は初めてだ、大量に殺した俺の手はもう真っ赤なのだ。

「では、私たちは帰らせてもらう。

 ああ、いけない伝え忘れていた、私とこいつが対応するのはこれで最後になる。金輪際、この世界とは関りは持たんのでな、覚えておくと良い」

 おっさんをちょっと見直した。

「そ、それはどういうことでしょうか?」

「どうもこうもない、今回はこれで済んだが、次回以降も頼られては困るということだ。ではな」

 おっさんは彼らにそう告げると、俺と共に転移した。


 到着したのは、俺の城の大門の前だった。

「あんたにもアレが繰り返されると理解出来ていたのか?」

「あの従者たちには手に負えまい、あの世界は終わりだろう」

「なら、俺の仕事ってことか」

「いや、あそこにはもう関わる必要は無い。他に手を打てる場所もあるからな」

「無駄なことはしないって云うなら、今回はモロに無駄だと思うがな」

「だがお前は学んだだろう?」

「あぁ学んだ。怨嗟も俺に還元されるのだとな」

 俺が殺した者の恨みや辛みまでも、俺の力として還元されるのだ。全く酷い話だ。

「私は帰ることにする、また遊びに来る」

「あんたも冗談が言えるようになったんだな」

「お前からは学ぶところが多いのでな」

 俺から人間らしさでも学んでいるのか? 現在進行形で壊れていっている俺から?

「ではな」

 おっさんは帰って行った、どこに帰っているのか今度招待してもらおう。

 さてと、宴会は続いているかどうか気になるが、この心境では参加は無理だな。

 大門を通り、フヨフヨとゆっくり城を目指し進んでいく。

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