第49話 葛藤
俺は屋敷に帰って来た、応接間を抜け自分の部屋に入るとソフィーは本を読んでいる。
「ただいま」
「おかえいなさい、何かあったのですか?」
この娘は抜け目がないな、だが答えるつもりは無い。
「何でもないよ、何でもないさ」
「嘘です、あなたはギリギリまで抱え込むのを私は知っています。何がったのですか?」
本当によく見ている。
「何でもない」
そう、何でもないんだよ。
あいつらが人間と同じ姿をしているから勘違いを、思い違いをしていたんだ。そして俺はその本質まで人間と同じと錯覚していた。
そうでないということを知っていたにも関わらず、勝手に誤解して勝手に落ち込んでいるだけだ。だから、他の誰が悪い訳でもない、俺が悪いんだ。
「次に何かあるなら話してくださいね」
「ああ一つある、近い内にここを出るからな」
彼女は驚いているようだが、言葉を発することはなかった。
こんな言い方をすれば、何かを察してしまうだろうが今は気を回せるほどの余裕がなかった。
「今暫くはここに居てくれ、落ち着くまでで構わないから」
「では、お休みになられては如何ですか?」
一眠りして目覚めれば、少しくらいは楽になるかもしれない。俺を眠らせればこいつはサティの元へ問い質しに向かうだろうな。
「いや、いい。このままでいい」
覚悟が足りなかった、あくまで人間の延長戦での覚悟では足りないのだ。
俺は情報の対価として手を貸すと約束した、恐らくだがまた同じことが繰り返されるのだろう。
頭を抱え込み考え込む、俺の心は殺すしかないのか? 涙を生成する機構などないのに視界が歪む。
俺の姿を見守っていたであろうソフィーが口を開く。
「何でもないなら、なぜそんなに焦燥しているのですか?」
少しだけ嘘にならない程度に話すとしよう。
「実験場を一つ消し去った、神の居なくなった実験場だ」
ソフィーには理解が及ばないのだろう、一言ずつ噛み砕いて理解しようと努めている。
「俺にはわからない、あれが本当に彼らの救いになったのかどうか」
いくら偽りだろうとも、そこにあった命を世界を俺は消してしまった、答えを求めても返ってはこない。
「話したことで頭が少し冷えてきたよ」
「そんな顔で仰られても、嘘にしか聞こえませんよ」
「そんな顔してるか?」
「はい、この世の終わりのような表情をしています」
ハッ、皮肉が利いているな。
「本当に少しだが落ち着いたよ、これからのことを話そう」
「ここを出てどこへ行くのですか?」
ここも恐らく宇宙空間にあるのだろう、俺が消してしまった世界がそうであったように。
実験場を創るのは嫌だったのだが、地球に降りる危険性を説かれた後ではどうすることも出来んな。
「俺が住む場所を用意する、それまでは居候を続けるよ」
「地球に行けば良いのではないですか? 森に帰るという手もありますよ」
ソフィーに出会った森か、俺が地球に降りられない話もするべきかな…。
「あのな、俺な、邪神と同義みたいでな。地球には降りない方が良いみたいでな」
「な! なんで邪神なのですか?」
「欲望の神は邪神扱いらしいぞ、聞いた話だ」
これまで何度もウロウロしているからな、詳細は伏せよう。
「泣くなよ」
俺が泣きたいよ、踏んだり蹴ったりだ。
でも、俺の為に泣いているソフィーを見て思った、落ち込んでいる場合じゃない。
邪神? 上等だ、やってやるさ! 幾らでも消し去ってやる、こんな所で立ち止まっている訳にはいかないんだ。全て俺の糧にしてやる!
「俺とお前と豊を連れて、新しい場所で暮らそう」
俺と神共は相容れないことがわかったんだ、サティとはお別れだ良いように使われるのは御免だからな。
叡智の神とは取引があり利害が一致している。アーリマンも再び現れるような気がする、助言も貰いたいところだ。
ここに拘る必要は最早皆無だ。
「私はどこにでも付いて行きますから、お豊だってそのはずです」
「そうでなくては困る」
ソフィーが居てくれて本当に助かっている、なんとか立ち直れそうだ。
「普段通りになられましたね」
この笑顔が今の俺を支えてくれているのだ、大丈夫なはずだ。
「お前たちが驚くような立派な屋敷を用意してやろう」
「あまり広すぎても大変ですよ?」
「そうか? 折角だからドカーンと大きく創りたいんだけどな」
城でも建ててやろうじゃないか、驚く顔が目に浮かぶよ。
俺とソフィーとお豊しか居ない世界を創ろう、実験場とは異なるただ住むだけの場所を。
「何を考えているのですか? 無理だけはしないでくださいね」
「お前でも分からないことがあるんだな、まあいい楽しみにしておけ」
俺はソフィーのお陰ですっかり元通りだ、問題はサティが帰って来てからだろうな。
どう応対してくるのか、不安が残るところだ。
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