おっさん覚醒する
第39話 ソフィーリアの秘密
ソフィーはなんだか全く聞き取れないが、ブツブツと独り言を呟いている。
「それで全員揃ったのだから、詳しい話を聞かせてもらえるのでしょう?」
先ぱいの一言で食堂が沈黙に包まれた。
「ああ、そうだ、そこまで詳しい話は時間が掛かるから、端折る部分もあるけどな」
全部話すと数日くらい掛かるだろう。
「旦那様、早くお話しください」
催促されたので、頷いてから話し始めた。
「皆からすれば、俺はついさっき買い物に出掛けたものだと思われるだろう。
しかし俺は、約一千年程前の過去から戻って来たばかりなんだよ」
先ぱいとリタは口をポカーンと開けて、放心しているように見える。ソフィーはというと何やらほくそ笑んでいる。
「続けるぞ。俺が何故あの時代に飛ばされたのかは、転移の事故だっていうことくらいしか判明していない。
俺が最初に飛ばされたのは、今で言うフィンランドの森の中だ。そこから大きな町に出て、小さな集落を見付け、その先で老婆と少女に会った。
老婆と少女は、運が良かったのだろう俺を認識することが出来た。正直助かったさ、独りで寂しかったからな。
数日そこで過ごしながら対応策を練り、五百年だか六百年だかを未来に向けて転移したんだ。その間に要した時間は一か月半程だろうと思われる」
「そんなことになっていたのね」
先ぱいは、やっと一言絞りだすことが出来たようだ、回復したのか?
「そうだ、ソフィー、後で話があるがいいか?」
「はい、ですが、ここでしてしまっても構いませんよ?」
質問で返されてしまった、視線で窺うと頷いた。
「ソフィーに訊きたいことがある。お前は、あの老婆や少女と関係があるのか?」
手を突っ込んで記憶を探るという行為は、近しい者に対して行うには抵抗があるからやりたくない。
「やっと私に出会えたのですね、あの時の少女が私です」
どういう意味だ? いや、そのままか?
「ちょっと待て、会ったのは千年も前の話だぞ?それにあの娘は金髪だったぞ」
「不思議に思われるでしょうね、今証拠を用意しますね」
そう言ったソフィーは左腕を真横に伸ばすと何か呟いた。彼女の左肘から先が消える、何かを引っ張る動作をすると一枚の金属の板を手にしていた。そうして、俺によく見えるように翳す。
「……それは!」
俺が少女の為に作ったステンレスの九九の表だった。遥か昔に作ったものだ、しかも本人と名乗るソフィーが持っているなど…。
「どういうことだ?それは確かに俺が作った物だ、だが………」
わからん!
「私の秘密をお話しします。
私は魔女、再生の魔女と呼ぶものたちもいます」
ソフィーはにっこりと微笑みながら話す、俺にはさっぱりだ、黙って先を促す。
「私はあの時、旦那様が転移させる前に約束した通り、再び会うために魔女となったのです」
あの約束を知っているなら、本人で間違いないだろうな。
「約束は守れなかったっと俺は思っていたのに、既に再会していたとはな。
だが、千年という時を魔女になったというだけで、過ごせるものでは無いだろう?」
単純に考えて人間が千年も生きられるはずがない!
「はい、その通りです。
私は先祖代々守ってきた不老不死の
馬鹿なことをしたもんだ、この娘は。だが、これは俺の責任だ。俺が干渉さえしなければ、こんな風にはならなかっただろう。
俺は死を奪われた存在だからこそ、死というものが重要なものだと思っているが彼女は違うのか?
そうまでして俺に会いに来たとということ自体は、感動ものなのだがどうするべきか。
「…そうか、わかった。やはり後で話そう」
俺は彼女に対して責任を持つべきだな、俺の肉体の延命なんて考えている場合じゃない。
食堂は俺の返答の後、いやに静かになっている。
「話を戻そう。俺は五百年だか六百年転移した後、オウルという都市に入りそこで神父に色々と助言をもらった。
その助言により、ユーラシア大陸の北限を海岸線沿いに進み、日本の江戸に辿り着いた。
そして俺は人間の成長を目安にして、時を転移することを思いついたんだ。その最初の試験体がこのお豊だ」
お豊を手で示した。
「その次に喜助という俺を認識できる少年に会い同じように転移した。
転移後、お豊は八十歳だったが現役で働いていてな、少し話をしたのだ。お豊に子供を紹介してもらい、その子でまた同じように転移したのだが……そこに何故かこいつが居てな、半ば強引に付いて来た。
本来はそのままここへ戻る予定だったのだが、安全を考慮し近所の娘でもう一度転移した後、ここに戻って来たという訳だ」
俺は軽く両手を広げ、そういう訳だと話し終えた。
「ちょっとあなた何やってんのよ!時間移動なんて前は無理だって言っていたでしょう?」
先ぱいが噛みついてきた。ガブ
「そうだな、今でも過去に遡るのは難しいと思うぞ」
「じゃあ未来に行くのは、簡単だとでも言うの?」
「ああ簡単だな、ただ戻ってくるのが大変だからやらないけどな。後でレポートにしてやるよ」
時間を弄ることに興味があるのか、毎回うるさいくらいに吠えるのな。
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