第16話 神と魔女

「早速だけどソフィーリア、貴女の部屋は彼の隣の部屋でいいかしら」

 今まで何事もなかったかの体を装って先ぱいは話し始める。先程までの醜態は無かったことにしたいのだろう。

「出来れば、一緒の部屋が良いですが…」

 なっなんと! ヒューヒュー俺。

「いや流石に年頃の娘さんと同室という訳にはいかないよ」

 紳士を偽装する俺。

「そう、です、か」

 唇を噛み締め残念そうに頷くソフィー、了解は得られたということだ。

「普段の暮らしに関しては、そこの彼に合わせるということでいいわね?」

 ソフィーは頷いた。

「俺がやることなんて検証しか無いんだが、見たって面白いもんじゃないぞ?」

 おっさんが片や寝転がり、片や粛々と瞑想しているだけだからな。

「構いません。傍にお仕えできるなら、それだけで幸せですから」

 愛されている理由がわからない、少し怖いかも。


「じゃあ、そういうことで決まりね。

 それではあなたは持ち込んだ私物の片づけでもして、今日の日課を熟しなさい。ウサオくんは置いていっていいからね。私は彼女と少し話をします」

「わかった、そうさせてもらうよ」

 要するに、席を外せってことだろう。ソフィーは少し寂し気な目をしているが、仕方ないだろうな。

 軽く手を振って、食堂を出ていく。



  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 食堂の内側を壁に沿って淡い光の膜が形成された。


「消音結界を張ったわ。これで彼に漏れることもないし、ゆっくり話ができるわね」

 おっぱいの神様いえ、ご主人様の宣言にソフィーリアは頷きつつ先を促す。


「貴女が彼を害するつもりが無いことはわかっているわ。だからこそ、わからないのよ。

 何故貴女のような著名な魔女が、彼に会いに来たのかが」

 ご主人様の言に対し、ソフィーリアは静かに口を開く。


「私はずっと彼を見守っていたの、使い魔を通してね。しかし数日前に彼は消息を絶った。

 私は必死に探したわ、そしてやっと彼をみつけたの。ううん戻って来たと言うべきかしらね。

 あと、この子が私と契約した使い魔。今までありがとうね、ウサオちゃん」

 ソフィーリアはウサオを胸に抱き、頭をそっと撫でる。ご主人様は怪訝な顔をする。


「『見守っていた』というのはどういうこと?」


「彼が居なくなった日、彼は神になった。

 そして、その彼を保護したのは『サティ』貴女だということ。

 …でも、これ以上は何も話せないわ」


「あら、私の古い名まで知っているのねとは驚きね、流石は『再生の魔女』というべきかしら。

 それで…何かしらの制約があるということかしら、魔女も大変よね」


「私が魔女になったのは、彼に会う為だもの。疚しいことは何もないわ。

 ちなみにだけど、貴女の今の名も知っているわよ?」

 ソフィーリアが微笑しつつ返すと、ご主人様はキッと怒りの眼差しをソフィーリアへと向けた。


「そこで相談なのだけど、互いに彼に知られたくないこともあるでしょう。相互不干渉ということに出来ないかしら?」

 ソフィーリアの提案に、苦虫を噛み潰したような顔でご主人様は答える。


「了解したわ。貴女が魔女だということも伏せるわ、だから私の名は出さないでほしいの」


「ええ構わないわ。なら、そういうことでよろしく頼むわね。それと、そこの貴女もね」

 空気のようにご主人様の傍らに佇んでいた私にも、ソフィーリアは釘を刺した。


食堂の内側を覆っていた光の膜が解かれた。



  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 服とパンツを窓際の棚というか箪笥に綺麗に畳んで収める。

 これでもうパンツが無くて泣くこともない。

 トランクケースは、大きくて邪魔なのでベッドの下に転がしておくことにした。

 

 ベッドの上に横になり、慣れた動作で分離する。もう幽体離脱とは呼ばなくなったな。

 物書き用の机の上には、レポート用紙と鉛筆を準備してある。椅子の上にフワフワと浮遊しながら移動し、集中する。

 覚書きも同時やれば、体を動かす訓練も平行して出来るということだ。


 ソフィーのことなどすっかり頭から抜け落ち、いつも通りに俺は残滓の声を聴いた。

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