第16話 神と魔女
「早速だけどソフィーリア、貴女の部屋は彼の隣の部屋でいいかしら」
今まで何事もなかったかの体を装って先ぱいは話し始める。先程までの醜態は無かったことにしたいのだろう。
「出来れば、一緒の部屋が良いですが…」
なっなんと! ヒューヒュー俺。
「いや流石に年頃の娘さんと同室という訳にはいかないよ」
紳士を偽装する俺。
「そう、です、か」
唇を噛み締め残念そうに頷くソフィー、了解は得られたということだ。
「普段の暮らしに関しては、そこの彼に合わせるということでいいわね?」
ソフィーは頷いた。
「俺がやることなんて検証しか無いんだが、見たって面白いもんじゃないぞ?」
おっさんが片や寝転がり、片や粛々と瞑想しているだけだからな。
「構いません。傍にお仕えできるなら、それだけで幸せですから」
愛されている理由がわからない、少し怖いかも。
「じゃあ、そういうことで決まりね。
それではあなたは持ち込んだ私物の片づけでもして、今日の日課を熟しなさい。ウサオくんは置いていっていいからね。私は彼女と少し話をします」
「わかった、そうさせてもらうよ」
要するに、席を外せってことだろう。ソフィーは少し寂し気な目をしているが、仕方ないだろうな。
軽く手を振って、食堂を出ていく。
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食堂の内側を壁に沿って淡い光の膜が形成された。
「消音結界を張ったわ。これで彼に漏れることもないし、ゆっくり話ができるわね」
おっぱいの神様いえ、ご主人様の宣言にソフィーリアは頷きつつ先を促す。
「貴女が彼を害するつもりが無いことはわかっているわ。だからこそ、わからないのよ。
何故貴女のような著名な魔女が、彼に会いに来たのかが」
ご主人様の言に対し、ソフィーリアは静かに口を開く。
「私はずっと彼を見守っていたの、使い魔を通してね。しかし数日前に彼は消息を絶った。
私は必死に探したわ、そしてやっと彼をみつけたの。ううん戻って来たと言うべきかしらね。
あと、この子が私と契約した使い魔。今までありがとうね、ウサオちゃん」
ソフィーリアはウサオを胸に抱き、頭をそっと撫でる。ご主人様は怪訝な顔をする。
「『見守っていた』というのはどういうこと?」
「彼が居なくなった日、彼は神になった。
そして、その彼を保護したのは『サティ』貴女だということ。
…でも、これ以上は何も話せないわ」
「あら、私の古い名まで知っているのねとは驚きね、流石は『再生の魔女』というべきかしら。
それで…何かしらの制約があるということかしら、魔女も大変よね」
「私が魔女になったのは、彼に会う為だもの。疚しいことは何もないわ。
ちなみにだけど、貴女の今の名も知っているわよ?」
ソフィーリアが微笑しつつ返すと、ご主人様はキッと怒りの眼差しをソフィーリアへと向けた。
「そこで相談なのだけど、互いに彼に知られたくないこともあるでしょう。相互不干渉ということに出来ないかしら?」
ソフィーリアの提案に、苦虫を噛み潰したような顔でご主人様は答える。
「了解したわ。貴女が魔女だということも伏せるわ、だから私の名は出さないでほしいの」
「ええ構わないわ。なら、そういうことでよろしく頼むわね。それと、そこの貴女もね」
空気のようにご主人様の傍らに佇んでいた私にも、ソフィーリアは釘を刺した。
食堂の内側を覆っていた光の膜が解かれた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
服とパンツを窓際の棚というか箪笥に綺麗に畳んで収める。
これでもうパンツが無くて泣くこともない。
トランクケースは、大きくて邪魔なのでベッドの下に転がしておくことにした。
ベッドの上に横になり、慣れた動作で分離する。もう幽体離脱とは呼ばなくなったな。
物書き用の机の上には、レポート用紙と鉛筆を準備してある。椅子の上にフワフワと浮遊しながら移動し、集中する。
覚書きも同時やれば、体を動かす訓練も平行して出来るということだ。
ソフィーのことなどすっかり頭から抜け落ち、いつも通りに俺は残滓の声を聴いた。
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