第4話 十周くらい

 コンコンと扉をノックする音が響く、俺は現実逃避の浅い眠りから目覚めた。

「お客様、お食事の準備が出来ました」

 扉を開けリタちゃんが顔を覗かせた。お食事?お茶って言ってなかったけ?

 中途半端に伸び妙な寝ぐせの付いた丸坊主を一撫でして、「わかりました」と告げる。

 それにしてもリタちゃんは可愛いな、俺も結婚生活が順調だったなら今頃こんな子がいたのかもしれない。

 またも現実から逃避し始める俺だが、扉の前にじっと佇むリタちゃんを待たせるのも気まずいので移動することにした。


「食堂はすぐそこです」と説明を受けるが、そうすぐに辿り着く訳もなく結構な扉の数の前を歩かされた。何だろう? かなり広いよこの屋敷。

 こんなところに住んでるなんて、おっぱいは何者なんだろうか? 疑問しか湧かない、謎が謎を呼び謎しかない。謎のおっぱい屋敷に俺自身も謎だ。何も考えないようにしようとしても、後から後から湧いてくる、マジで勘弁してください。

 試行の渦に巻き込まれながら歩みを進めていたら、やっと着いたよ食堂に。

 結局、三分くらい歩いてなかったか……。家の中で三分も歩くなんてな。


 食堂に着くとリタちゃんが扉を開く、中を覗くと普通の家のダイニングにでも置いてあるような、こじんまりとした四人掛けのテーブルにおっぱいが一人座っていた。待たせてしまったのかと少しだけ悪い気もしたので、そそくさとおっぱいの対面の席へと座る。

 リタちゃんが俺の後からおっぱいの隣の席に座る。主人と家人が同じテーブルについて食事するのか、フランクなんだな。うん、余所の家のことだから放って置こう。

 テーブルには既に大皿盛りの料理がいくつか並んでいた。どれもまぁ普通目にするような料理たちだ、料理を珍しそうに眺めているとおっぱいが口を開いた。


「どう、少しは落ち着いたかしら?」

 いや、無理だって……。落ち着くも何も現状を理解できるだけの余裕はない、何より情報がない。

 それでも気を使ってくれているようなので、悪い応えはしたくない。

「あぁまぁ一周廻って? てか、十周くらいぐるぐるとバターになっちゃうかと思うほど廻って、落ち着いたというよりは諦めたと言った方が無難ですかね」

 何せ答えなんて俺は持ってないんだもの、考えるだけ無駄だ。ここは開き直ろう!

 おっぱいは何も言わずにフフフと笑い「それじゃあ、食べましょう」と食事を始める。美人の意味不明な微笑み、なんだろう妙に恐ろしい。

 終始無言の食事に気まずさがマックスなんですが、食後にリタちゃんがお茶を入れてくれ少しだけ空気が和らいだ。と思いたい。



「落ち着いたところで、少しお話しましょうか」

 食後の余韻を楽しんだ辺りでおっぱいは宣言により、リタちゃんは席を外し食事の後片付けをするようだ。

「あ、はい。もう開き直ることにしましたから、よろしくお願いします」

 俺はおっぱいに向き直りテーブルにつくほど頭を下げた。


 おっぱいは俺に微笑みながら話しを始める。

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