異世界召喚されたクラスの中で俺だけが魔王側に召喚されたんですけど?

傘地蔵憲明

プロローグ

 夜空との境界線を曖昧にするほどの黒海に沈み行く最中、青年は確かに聞いた。


「お前は・・、敵なんだ。だから・・仕方ないんだよ」


「悪いが死んでくれ・・、世界の為なんだ」


「ごめんね・・。こうするしかないの・・」


 聞くに堪えない陳腐な言葉の数々。

 そのどれもが、青年に申し訳なさを示しているようでその実自らの正当化を目的とした言葉だった。


 青年が落ちゆく意識の底から眺め見たその声の主たちの顔は一見悲痛に歪みながらも、どこか安堵の表情を含んでいたのが伺い見える。

 その悲痛な表情は決して偽物ではないのだろうが、たとえ本物だとしてもきっとその心持ちは集団心理によって薄れていき、いずれは彼らの心から消え失せるだろう。

 そして、彼らは青年を殺そうとしたことを正当化するのだ。

 なにしろ彼らはこの世界が認めた「正義そのもの」なのだから。


(何が正義だ・・。結局は自分たちの事しか考えていないだけだろ。敵ってなんだよ・・。見ず知らずの世界のために僕を殺すのか・・。謝るくらいならやるなよ・・)


 様々な思いをふつふつと心に湧きあがらせながらもそれを口から言葉として吐き出すことは青年にはかなわない。声を出そうとしても口から出るのは喉で固まりかけた半固形の赤黒い血塊のみだ。その口・・というよりも喉が、魔法の詠唱を防ぐために潰されているためだ。


 声の出ないその代わりに青年の凄絶な視線が声の主達を射殺さんばかりに貫く。青年の視線を受けて声の主達の中には「ヒッ」だの「イヤッ」だの情けのない声を上げているものも少なくない。

 それの示すところはひとえに彼らの覚悟の無さだった。

 青年は人を手にかける覚悟もないような彼らが、一部の人間にいいように扱われ自分を襲ったのだということを知っていた。が、それでも自分たちが人を殺めることになると理解していながら、いざ殺そうとした人間の目線一つに怯えるその覚悟の欠片も無い彼らに言い様のない殺意と憤りを感じていた。


(ふざけるな、こんな理不尽あってたまるか・・。自分達だけのうのうと生きていくなんて絶対に許さない・・。地獄の底からでも這いだしてお前ら全員・・殺してやる)


 青年のその純粋な殺意のみによって輝く瞳は、海底の漆黒の闇に青年の体が溶け込んだ後もまるで見続ける限りは消えないと錯覚しそうな程に輝いていた。


◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  


「キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン」


 午後の授業の始業5分前のベルが鳴る。

 ぞろぞろと各々の教室に戻る生徒たちの中に彼の姿があった。


「おー!雄馬ぁ!」


 自らを呼ぶ声に振り向く青年、「みなみ 雄馬ゆうま」は流れる人ごみの中から自身を呼んだ声の主を探そうとして———


 ベシッ


 何者かに後頭部をはたかれた。


「痛った!・・ったく、少しは手加減を学べよな、錦」


 呆れながらに自身への打撃実行犯に声を掛ける雄馬。

 雄馬の無二の親友にして、学校のスポーツ王「にしき 順平じゅんぺい」、それが犯人の名前だった。


「この後数学の山ちゃん休みだから自習だってさ!し・か・も・代わりの先生の補充が利かなくてなんとこの時間は生徒だけという天国仕様・・。先生たちに教えてやろうぜ、暇を持て余した猛獣だんしを放っておくと何が起きるのかってことを!」


「いや、錦。お前が授業中に大人しくしていないのはどの先生がいても同じことだろ?それに僕は真面目に自習に励むから邪魔すんなよ?」


 一時間先生の束縛なしで自由時間だ!と、息巻いている錦に雄馬は静かにくぎを刺す。

 いつも自習となると錦は真っ先に雄馬にちょっかいを掛けるため、提出予定の課題を未完全で提出せざるえないことが多く、普段は仲の良い錦も自習の時間となると雄馬にとって鬱陶しい事この上ないのだ。


「あら、雄馬ちゃん反抗期?お母さん悲しい・・ヨヨヨヨ」


 手に持った教科書をハンカチに見立て、泣きまねをしながら崩れ落ちる錦。


「僕の母さんはお前みたいな筋肉の化身じゃねぇよ。ほれ急ぐぞ。一応学級委員が出席の点呼取るみたいだから、遅刻なんて言われても面白くないしな」


 そんな錦を見て、道端で裏返るゴ〇ブリでも見るかのような視線で雄馬がツッコミを入れながら教室へと急ぐのだった

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