山吹1

山吹…


私はどこまでも未熟者だった


誰より大切にしているつもりで、本当は全然君の想いを私は理解していなかったんだな…



「音羽、音羽ー!お祝いプレート何書いてほしい?ていうか蝋燭何本要る?」

「子供じゃあるまいしどちらも要らん!というか蝋燭は以前悲惨な事になっただろうが」

「あーあれね。やっぱ年の数は多かったよねー。今回は減らすよー」


もうそれ単純にお前が蝋燭立てたいだけだろうに。そういう馬鹿は自分の誕生日ケーキでやってほしい。というのも以前苺のケーキを買ってもらった際、食べる時になって蝋燭いっぱい持ってるよーと出してきて大量に刺し始めた。

だが、不安定に刺された蝋燭は火を吹き消した時に倒れあわや大惨事になるところだった。


「あ、ケーキこれとか良くない?」

「だから無駄にゴテゴテしたケーキは好みじゃない。前のとこのケーキ屋でサイズだけ大きくしてもらえば良いだろ」

「えーあそこー?カッコつけたのにカード落としたじゃない。覚えられてたら恥ずかしいじゃん」

「薄鈍に取りに行かせれば良いだろう」


変なとこに羞恥心を発揮するところが煤竹らしいが正直たかだかその程度の事あの店員は覚えてないだろうと思う。

私の新しい取引先獲得祝いの筈だが煤竹も香染も私に確認を取ってくるもんだから全て筒抜けであり楽しみも有ったもんじゃない。とはいえ勝手に決められ気にくわなければ文句を言うのは間違いないから予め本人に確認を取るというのは正しい。

祝って貰っているのだから文句を言わないという選択肢はなく、祝われる側だろうが恐らく文句は言う。元々そういう性質だ、過去を知る彼らに遠慮などしない。


今日は休日で私は現在も個人の仕事と戦っているというのに煤竹が居座っているのは本人曰く『音羽忙しそうだから俺飯炊きしてあげるー』との事らしい。

大人しくしていられない煤竹だから頻繁に話しかけてきてある意味作業妨害BGM化しているがまぁ今は資料を集めているだけだから追い出さずにいる。仕事に集中すると寝食を忘れる事もある私だから心配されているのだろうし。


「そういえば最近鉄紺さん見なくない?」

「あぁ、どうも忙しいらしい」


とはいえ特に気にはしていない。忙しいらしく何日も来てはいないが変わらず眠る前に電話が掛かってくる。私の夕飯事情の確認だとか、他愛もない雑談をし、私の気が緩んだのを確認すると満足して通話が終わる。

これも私の睡眠障害対策で始まったものだ。もう再会した頃と比べると落ち着いているから無くて問題ないとは伝えたが『俺が声を聴きたいんだ』と言われてしまえば何も言えなかった。


「てか鉄紺さん○△建築でしょ?こっちにも支店あるし異動してくれば良いのにねー」

「元々異動してきたとこだし、特に不便はないらしい」

「鉄紺さんって以外と尽くすタイプだよね」

「元がM気質なんじゃないか。梔子さんとも仲が良かったしな」

「妬いてる?」

「あまり五月蝿いと叩き出すぞ?」

「音羽お顔こわい」


こういう話は好きじゃないし得意じゃない。妬いているかで言えば全く妬いていないが。梔子さん相手であればむしろ存分に遊ばれれば良いとさえ思っているのだから。そうすれば余分に私が絡まれずに済む。


「音羽、音羽!ケーキこれとかは?」

「だからお前の耳には綿でも入ってるのか。それとも脳味噌プリンか?何だその無駄な装飾。変なクッキーの飾りとか要らん!」

「入ってないよー。だってクッキーとか色々フルーツとか乗ってておいしそうだよー」

「フルーツゼリーコーティングだろ。絶対甘くない。あとそれでその値段なら別の材料費ケチってるだろう」


おいしそうなのにーと不満気だが見た目でおいしそうなのと実際おいしいかは別物だ。特に最近はイン○タ映えだなんだと言われ見た目が華美で実際には大したことのない物が増えている。見た目が良く評価されたり羨ましがられて満足し味は二の次なんて時代だ。情けない。

見た目よりも味で勝負してくれ。


「音羽相変わらず食べ物に厳しいんだから」

「食に命は握られているようなもんなんだぞ、拘って何が悪い」

「睡眠も大事だよ!」

「なら山吹と添い寝権くれ」


そうすれば何の心配も要らない。山吹が側に居てくれれば私は普通に眠れる。


「それは山吹に相談してよ。勝手に許可出したら俺が怒られちゃうじゃない」


相談出来ないからこその冗談じゃないか。出来る物ならしているし、むしろ側で既に寝落ちているかもしれない。

山吹の側だけは無条件に安心する事が出来た。だからと言って警戒を怠った訳でも山吹に頼りきりにした訳でもなかった。最期は山吹の為にこの命を使おうとさえ思っていた。

けれど実際には、命を使われたのは私だった……。


難しい密書を盗み出すという任務だった。首尾にも問題なく密書を盗み出せたことろまでは順調だったのに、最後で運があちらに味方してしまった。

偶然にも出払っていた忍衆が城に戻ってきてしまったのだ。

その仕事は本来私単独の依頼だったが、難易度の高さに里長が万が一の為と山吹を同行させてしまった。


『この人数じゃいくら音羽でも撒ききれないよ。だから……』

『山吹、私の代わりにこれを里まで…』

『僕の足じゃ無理だって音羽なら分かるでしょ。運の良いことにまだ僕は見つかってない。だから、僕を身代わりにして走って!音羽』

『そんな事っ!』

『絶対に後で追いかけるから。任せたよ、音羽!』


そんな言葉を最期に山吹はそれっきり戻らなかった。

私が山吹の顔を借りていたから、あの状態で山吹が出ていけば私だと思われる。予め潜入し潜入先の人間の顔を借りなかった事が悔やまれた。時間がなかったから仕方なかったがせめて山吹の顔から変えておけば良かった。

私は山吹から顔を奪いたくて借りていた訳では決してなかったのに、結果としてはそうなってしまった…。

可能な限り私の方にも集めたし、顔を変えて情報を流し撹乱だってしたが優秀な忍を抱える城だ急いで密書を届けて戻ったが間に合わなかった。

どれだけ探しても山吹を見つける事が出来ず、私は復讐の鬼となった。

里に鉄紺さん達の代が残っていれば叱りつけ物理で止めてくれたかもしれないが、優秀な彼等はとっくにそれぞれ城使えになっていたし、里長や煤竹達の声は遠かった。


『音羽、もし僕が任務に失敗して死ぬ事があってもお前は変わらないでね。それは僕の未熟さのせいだし相手だって悪くない。生き延びる為には仕方なかったんだから』


何年も前山吹に言われた言葉だけがこだましていた。仕方ないなんてあるものか。奴らは私の世界を、神を殺したんだ。それなら同じように殺されたって仕方ないだろう?そう嗤って里から飛び出し手始めに山吹を手に掛けたであろう忍達を殺した。一部の者へは拷問紛いな事もしたがどこぞで身を潜め野垂れ死んだろう、と口にしたから無惨に殺しその城への見せしめとしてやった。

そんな事をすれば当然城の兵や要人が犯人を探し始める。山吹が死んでしまうきっかけになった城だ。当然怨みは城へも向きたった一人で城を落とす羽目になってしまった。

もうその頃には心は麻痺し、全てが憎かった。密書を取ってくるよう依頼を私に出した者も世界も何もかも。だから殺せるだけ殺した。

自分の最期がどうだったかなんて覚えてないが、よくこの時代に産まれる事が出来た物だ。あれだけ私怨で殺したのに輪廻転生が私にも有ったとは。

まぁ、だからこそ罰として山吹に会えないのかもしれない。


「山吹といえばさー」

「山吹が何だ!見つけたのかっ」

「違うよぉ。もし山吹みつけたら鉄紺さんってどうするの?」

「どうするも何も何も変わらんだろう。山吹の代用品って訳じゃないんだから」


言い方!と怒られてしまったが煤竹こそ私に失礼だ。

流石の私でも山吹と鉄紺さんが違う事くらいしっかり理解している。そして、山吹が居ない寂しさを埋める為に傍に居る訳でもない。

どちらかといえば鉄紺さんこそ山吹の代わりに私をまともに生かそうとしている節があるが、山吹なら許容量を越えた食料を寄越してくる事はない。


「音羽ちょっと考え変わったねー。良かったよかった」

「煤竹その顔やめろ、不快だ」

「酷い。もうちょっと優しくしてくれないと俺泣くよ?」

「私の居ないとこで勝手に泣いてくれ」


山吹に会えない世界なら昔の私は要らないと断言しただろう。だけど、山吹に会えるかもしれないと希望を抱いて生きてみれば…煤竹にはなんだかんだ世話を焼かれ、鉄紺さんには生かそうと謎の使命感で庇護され、みなが私の成功を喜んでくれる。

山吹以外にもこんなに私を見ていてくれたなんて知らなかった…。



山吹、これではこんな世界要らないと言えない


君が居ないというのに世界は周り私を生かそうとするんだ


どうしたらいい?


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