記憶の中の君
Baum
藍染
私はずっとたった一人を探し続けている。
愛しい君に早く会いたい 出会いたい
なぁ山吹 君に言いたいことが 話したいことがたくさんあるんだ
「音羽(おとは)ー、また人間観察してるのかー?」
「観察じゃなくて人探しだって言っただろう?」
出掛けた先でぼんやりとただ人の流れを見ていると友人が買い物から戻り話し掛けてくる。 もうこのやり取りも何度繰り返しただろうか。
探している人が居る。夢で出会ったんだと何度か告げた。
この体で体験をした訳ではないから夢だと言うしかないが、けれどもあれはただの夢ではなかった。 だって心が、魂が記憶している。
この世では前世で親しかった者とは縁があるからきっと今側に居る人は前世でも共にいた大切な人なのだと一部仏教だったかでは信じられている。
それは事実だったのだと私は言える。この友人とて知り合いだ。前世では私よりも年上の人であった。おおらかで自由で、暴君で散々振り回されたものだ。けれどどうだろう…もう今はその事実は私しか知らない。
「藍染(あいぞめ)はもう良いのか?買い物」
「良いんだ!だって靴くらいしか買いたいものは無かったからな!」
「なら何故商店街の靴屋にせずこんなショッピングモールなんかに…」
今居る場所は市内の大きなショッピングモールの中だ。確かに靴屋も入っているがここに来るには電車に乗り、人ごみに揉まれて移動してくる必要があった。
ただ靴を買うだけにしては大袈裟過ぎ、無駄でしかないだろうと思う。
「来たかったからだ!それに音羽暇だろ」
げじげじの特徴的な眉毛、つぶらというよりもぎょろっとしていると言われる男らしい目でドヤ顔をした後当然のようにそう言ってくる友人に思わず頭をはたきたくなるのは仕方ないと思われる。
けれど前世から彼と付き合いのある私は知っている。突っ込むだけ無駄なのだと。
何をしようが振り回される運命にはなんの変わりもなく、むしろ頑丈な彼を殴ったこちらの方が負傷する。
「まぁ…暇ではあったけども…」
暇ではあったが私は既に社会人。大したことのない上司に偉そうに言われつつ5連勤に耐えてきたんだから労わってほしかった。休日くらいゆっくり休ませてくれ。
友人ではあるが、年の離れた友人で藍染は私の5つ下。まだ退屈な勉強をさせられている高3で私は22歳。短大を出て新卒で入社して2年。新卒の社会人は楽じゃない。
それなのにこんなとこに連れてこられている私可哀想過ぎないか。少し自分に同情したくなった。
「腹減ったな。クレープ食べて帰ろう。行くぞ音羽!」
「また唐突な。さっきコンビニで買って『からあがった君』食べてたろうに」
「あんなもんおやつだ!音羽も食べるだろ」
「…はいはい。分かったいこう。クレープ屋なら3階のフードコートに入ってる」
結局今も私は彼に逆らえないのだから黙って従う方が得策なのだ。そんな人間ならば就職を機に離れれば良かっただろうとは理解しているが彼から放っておいても寄ってくるし結局は私も彼を通して過去の彼をみている。ただ懐かしんでいたいだけなのだ。
初めは求める人物でなかった事にがっかりもした。けれど、私は過去世が愛おしくて仕方がない。
藍染を通して思い出すものは過去へ帰結する。
「給料入ったんだろう?奢ってくれ(任務の報酬入ったんだろう?団子奢ってくれ)」
「クレープ2個までなら(2本までなら)」
人の懐事情を把握し悪びれもなくたかってくる所も変わらない。よく山吹と甘味屋に居るところを目ざとく見つけてはたかられていた事を思い出す。まぁ、事前に釘を刺しておこうが聞く人では無かったから大量に食われてそこそこ痛手ではあったが。
『音羽、お金大丈夫?半分出すよ?』
『いいや、大丈夫だ。今回の仕事はやけに目を掛けてもらえてな。結構報酬も弾んでもらえたから』
『音羽はやっぱりすごいね』
そんな会話を思い出す。過去世私達は忍であった。里でも私は異端であり長の命で任務をこなすのではなく城に組する忍衆より声が掛かり任務を依頼される事の方が多かった。
というのも戦闘力も当然あったが1番得意とするのが変装であった。
対象を観察し完璧なまでに模倣する事に長けていた。噂が噂を呼び危険な場での影武者や暗殺阻止の為の囮を頼まれる事が多かった。一部は実力を目の当たりにし給金は弾むからうちへ来ないかと囲い込もうとするところも有ったが里を出るつもりの無かった私は断り続け気紛れに手を貸すフリーの忍のような事をしていた。
お陰で里へも多少入れていはいたが中々に羽振りは良かったものだ。今の薄給具合を思えば少し切なくなるくらいには。まぁ、あの頃はその代わり危険も有ったし命の遣り取りだったからな。
危険のない仕事なのだから仕方がないと諦めもついた。
「音羽、これとそれとあれな」
「1個多いぞ。というかそんなに食べれるのか?」
「ケチケチするな、成長期だから余裕で食べれるぞ」
高3ならもうほぼ成長期は終えている筈だが、学生は代謝が良いからな。燃費が悪いのは仕方ない。それにしてもご飯系クレープばかり3個は多いと思う。
「すいません、これとあれとそれと、あとカスタードクリームとカフェオレとコーラ下さい」
「はーい。少々お待ち下さい」
男2人連れにしか見えないだろうに4個もクレープを頼んだ事に何も突っ込まれなくて有り難い。突っ込まれたら正直に事実を述べるつもりではあったが居た堪れないだろうしな。
「甘いクレープって食べた気しなくないか?(甘い団子って食べた気しなくないか?)」
「いいや?私は甘いの好きだし(いいえ?私は甘い団子好きですよ)」
「ふーん」
こういうところも変わらない。前世から藍染は甘い物よりご飯派だ。団子だって甘いのよりご飯に近い物の方を頼んで気が済んだ頃今度は私のを奪いに来るタイプだった。
なぁ、山吹聞いてくれるか?相変わらず藍染さんが酷いんだ。
会えない君に今日も私は話し掛けるーー
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