青春ってたぶんこういうこと

 「という訳で順番に鍵を取っていこうか」

 ゲーセンを出てすぐ、俺達はさっきのテーブルにそれぞれの鍵を並べた。苑浦を最初に、以下、牧島先輩、俺、瀬雄の順番で車を選ぶ権利が与えられる。レースに出てない楓姉さんの分は瀬雄が引くこととなった。まずはトップバッターなのだが、

 「自分のでいいわ。向こうで会いましょう」

 あっさりランチア(以下略)の鍵を取ると、さっさと駐車場に姿を消した。

 「あら、せっかく勝ったってのに」

 牧島先輩がつまらなそうにため息をつく。残された鍵は四つ、大袈裟な仕草で一つ一つ手にとって眺めを繰り返し、

 「借りるわよ」

 マツダのエンブレムが彫られたキーがその手に握られた。

 「め、免許は持ってるんですよね。免許は」

 「当たり前でしょ。アタシは先輩よ? 」

 俺の質問に牧島先輩は一睨みして突っぱねると、大股な足取りで去って行った。大丈夫かな、スクラップで返ってこないといいけど。こんなことならもっと車両保険かけとくんだった。

 さて、いよいよ俺の番だ。ママチャリは論外なので、楓姉さんのフェアレディZか、牧島先輩の物であろうスバルのどちらかを選ぶことになる。どうせなら乗ったことないのに乗りたいところだが……。

 「借りますよ、姉さん」

 「ええ~嘘でしょ!? 」

 大方の期待を裏切り、従姉の愛車を借りることにした。だって普段貸してくんないし。

 「む、睦くん。いくらなんでもそれはないんじゃない? 」

 「何でお前が絡むんだよ!? 」

 瀬雄までもが不満の目を向けてきた。おいおい、誰かさんと違ってこっちはか弱いんだぞ。

 「やれやれ仕方がないわね。よし、私達も行こうか」

 しかし、当の楓姉さんはというと満更でもない様子でスバルの鍵を手にとって、瀬雄を促した。あれ、おかしいな。いつものこの人だったらチョークスリーパーくらいかますかと思ってたけど。

 こうしてようやく、箱根までのツーリングは再開することとなった。

 「それじゃあまた後で」

 「うん睦、ごちそうさま」

 「え? 」

 別れ際、楓姉さんの一言を俺が理解するのは、それからすぐ後のこと。

 時計の針は十一時を差していた。休日なのか、この一時間足らずの間で駐車場にはさっきより確実に車の数が増えている。

 それでも楓姉さんのフェアレディZを探すのはそれ程難しくない。辺りを見回すと、ロードスターとは反対側のところにその特徴的なボディが見つかった。前から助手席に乗せてもらったり、洗車させられたりした車だから勝手は知っている。乗り込むと、革製の渋いシートが体を包んだ。目の前には茶色のステアリングと水平に並べられた三連メーター。そのノスタルジックな雰囲気を味わった後、鍵を捻る。

 「? 」

 エンジンが小気味良いエンジンを吹きかけたが、妙に元気がない。古い車だからどこかトラブルでも起きたのか、とメーターを覗いた所で、燃料計の針はゼロを差していた。

 「おい冗談だろ? !」

 言うまでもないが、、燃料がないと車は一メートルも走らない。幸いにして、サービスエリア内にはガソリンスタンドがあるので、給油は出来るといえば出来るが。

 ―睦、ごちそうさま。

 「やられた。こういうことかよ」

 さすがは楓姉さん。しかし、さっきの勝負で俺はフェアレディ以外にもう一つマシンを得た。車の屋根に括り付けられた、瀬雄のママチャリである。こいつで高速を降りて博物館までひた走るというのも一つの手か。いやいや、ここは自動車部だぞ。打つ手もなく、天を仰いだときだった。

 「何やってんの、アンタ? 」

 馴染みのある声。振り返ると、ロードスターに乗った牧島先輩が怪訝そうに顔を覗かせていた。聞いたところ、他の二台はもう出発したらしい。そして俺はガス欠。そうなると残された手段は一つだけ。

 「隣に乗せてもらません? 」

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