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第14話

 編入から数週がたった。学園にも馴染み始め、授業にも慣れてきた。

 今日は、年に一度ある国中の教師の会議がある様で午前だけの授業となっていた。


「では、今日の授業はこれで終わりです。学校に残る者は遅くまで残ることのない様に! いいですね?」


 先生がはしゃぐなと釘をさす様に強く言うが、生徒の方は特にそうは思わなかった様で軽く返事を返す者が多数だ。……その筆頭が隣にいる。薄い茶髪が新緑色の瞳を軽く隠している。その茶髪が、手をあげることでサラリと動いた。


「先生ー、会議ってどうなの? 楽しい?」


 ヒューバレルが先生に軽く質問をすると、先生の片方の眉根が上がった。


「アスウェントさん! また、なんですか! その口の聞き方は!」


 先生がアスウェントに対していつもの様に叱る。この数週でそれがいつものことだというのが分かった時は、呆れた目をヒューバレルに向けたものだ。今はそれも、するのを諦めた。


「はいはい、すみませんー。で、どうなんデスカ?」


 笑顔で返すヒューバレルを半分呆れた様な目で見ながらも、先生は口を開く。


「そうですね……。教師の意見交換の場でもありますから、新しい教え方などを意見しあったりしますね」


「へぇー……そうなんだ。じゃあ頑張ってクダサイ、先生」


 ヒューバレルが手を軽く振りながら先生を送り出す。それに眉をしかめながらも先生は教室を出て行った。

 一斉に教室が騒がしくなる。昼食を食べずに帰る人は、既に荷物を片付け席を立っている。センドリックもその一人で、私達に急いで帰る旨を告げると少し早歩きで教室を出て行った。色々忙しいのだろう。

 私はというと、特にこの後の予定が無いため昼食を食べて帰ろうか悩んでいた。


「レイラはこの後どうするの?」


 ヒューバレルが聞いてくる。


「うん、まぁ……昼食を食べてから帰ろうかと悩んでたところ」


 答えるとヒューバレルが、そうか、と呟いて後ろで机に突っ伏してるキースを指し示す。キースは授業が終わった気配を感じたのか、モゾモゾと動き始めていた。


「俺も今日は昼食食べたら、帰らなきゃいけないから無理だけど……キースだったら今日は暇だから、どこか案内してもらえば?」


 キースの方に目線を向けると、起き上がっていたキースは「いいよー」とゆったり了承している。

 そうか……それなら。


「じゃあ、お願いしてもいい? 図書室なんかはまだ行ったこと無いから、案内頼みたいんだけど……」


 行き先を告げると、キースの眠そうな顔が少し輝く。


「うんー。図書室なら僕もちょうど行きたかったからー」


「そうなの? じゃあいいタイミングだったね」


 ニコリとキースに笑顔を向けると、キースをほんわかと笑顔を返してくれた。


 ∇∇∇


「じゃあ、俺はこれで! また明日!」


 昼食を食べ終え、ヒューバレルを門の近くまで見送る。抱きついてこようとするヒューバレルを躱しながらも、挨拶を返した。


「うん、まぁ、またね」


「またねー」


 キースもゆったりと手を振りながらヒューバレルを見送る。名残惜しそうに、しながらもヒューバレルは帰って行った。

 まったく……、と苦笑いをする。


「今生の別れじゃあるまいし……」


 思わず、ボソリと呟く。それが聞こえたのか、キースもフフッと息を漏らす。


「そうだねー。ヒューは、ああいう奴だから」


 それには、長年の歳月が生んだ友への呆れと親しみが込められている。それに私は笑みをこぼして「そっか」と納得しながら、少なからずも羨望を抱いてしまった。


 じゃあ、行こうかと促されキースの横に立って歩き始める。もう意識は図書室へと向いている。一体どんなところなのか、期待が膨らんでいる。


「ねぇ、キース」


「なにー?」


 声を掛けると、キースは顔をこちらに向ける。キースのきらめく黄の瞳が陽の光に透かされて黄金の煌めきを纏う。その眩しさに、少しだけ目を細めた。


「図書室ってどんな感じなの?」


「んー、広くて本がいっぱいあるよー。棚は木目調だし、置いてある机と椅子も温かい雰囲気で居心地がいいかなー」


 少なくとも僕はそう思うよー、とキースが目を細める。

 私が想像したのは、家にある図書室をもう少し広くしたものだ。私の家の図書室は、大きな広間を一階と二階に別けていて吹き抜けになっており、できるだけ棚を多く置いてある。一階の中央部分は開けており一人で大きく使える机と椅子が二つずつとソファーが一つ置いてある。全てが焦げ茶の木目調とそれに合わせた調度品になっていて、なかなか居心地がいい。今の所、私の昼寝場所の第三位だ。

 一人で何と無く納得していると、キースが機嫌良さそうに図書室について話してくれる。


「僕、図書室の司書さんと最近仲良くなってねー。色々本とか勧めてくれるし、仮眠室とかも貸してくれるようになったんだー」


「へぇー。いい司書さんだね」


 仮眠室はきっと夜の警備員のためにあるものなのだろう。いつもキースが眠そうだから、それを見かねてなんだろうなぁ、と思いながらも歩いていくと大きな建物が見えてくる。この中の一室なのだろうかと首を傾げていると、キースが建物を指差す。


「ここが図書室だよー」


 ん? ここ図書室?


「ここの中にあるの?」


 聞くと違うと頭を振られた。


「この建物一つが図書室だよー」


「え? そうなの? こんなに大きいの!?」


 驚いて聞き返すと、逆にキースが驚いたように少しだけ目を見開いた。


「え、だってここ図書室……いや、正しくいうと王立図書館だよ? これぐらい大きく無いとねー」


 図書っていうのは学園の生徒が言い始めたことだからー、なんて言うキースにそう言う事かと納得する。

 王立図書館といえば、国の人ならば誰もが使える公共の図書館で子供から学者まで、様々な人が出入りする。学生たちが図書なんて言っているのは敷地内にあって、普段使いするからだろう。紛らわしい……。

 王立図書館であれば、国中の本や国外の本までもがここにあると思ってもいい。そうなれば広間の一室なんかでは間に合わないだろう。

 階段を上ると警備員が二人立っている。キースの顔を見ると頭に乗せている帽子を脱ぎ姿勢を正した。


「こんにちはー。今日も来たよー」


 キースが挨拶をすると、警備員たちは頭を下げ丁寧に挨拶を返した。


「キース様、本日も来ていただいて光栄でございます。お手数をおかけしますが、身分証の提示をお願いします」


 お連れ様もお願いいたします、と言われ学生証を出すと頷いて中に通してくれた。

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