学校ジャック
春野ハル
第1話 バイオテロの巻
休校。学生なら一度は望むことがあるだろうことである。いくら学校が好きだからと言っても、学校に行きたくない日はあるだろう。
この平成の世に、休校にすべく計画を企てている二人の男子高校生がいた。榎田と椎名である。優等生風な榎田とやんちゃボーイの椎名、二人はまったく違う性格をしていたが、休校を望むという点においては共通の考えを持っていた。また、性格があまりにも違うのがよかったのだろう、二人はとてもウマがあった。
「これより第一回秘密会議を始める。」
放課後の空き教室で二人は大真面目な顔をして話し合いを始めた。時計は午後5時をさしていた。
「榎田、休校にするために何かアイデアないか?」
「僕はさ、バイオテロがいいと思うんだ。」
榎田が最初に出した案はバイオテロという過激なものだった。
「ちょっと待てよ。学生身分の俺らにバイオテロなんかできるのかよ?」
椎名がそう言うのにも無理はない。
「じゃあ椎名くん、椎名くんは何か他のアイデアがあるのかい?」
「いや、ないけどよ。」
「まあ、バイオテロと言っても、そんな難しいことをするわけではないよ。とりあえず聞いてくれ。」
榎田のだす案はこうだった。
まず、インフルエンザの可能性がある人物に接触する。そしてその人物の息を採取する。その息を職員室にばら撒く。そうしたらインフルエンザが流行って休校になる、というわけだ。
「なるほどな。息の採取ってどうやるんだ?」
榎田の案を聞いて、椎名は言った。
「うーん・・・。ビニール袋じゃダメかな?」
「どうだろう?やってみる価値はありそうだな。」
そして二人の計画は具体化された。まず、病院に行く。そして病院の空気を袋にためる。本当は患者の息を採取したかったのだが、それは現実的に不可能だろうと二人は考えた。いきなり「菌をばら撒きたいので息をください。」と言ってもドン引きされて終わる気がした。次に職員室に行く。その時、その病原菌入りの袋を持っていくのだ。そしてゴミ箱に穴を開けてその袋を捨てる。出来れば複数のゴミ箱に袋を入れてくるのが目標だ。こうすることで菌をばら撒く。
その日は日が暮れてしまったので、二人が計画を実行したのは次の日だった。その日は土曜日だった。
「病院、結構混んでるのな。」
病院に行って一言目に椎名はそう言った。こんなに病気の人がいるんだ、とぽつりと呟きを続ける。
「よし、持ってきた袋に空気をためるぞ。」
榎田がカバンの中から袋を取り出した。紙袋だと隙間があって菌が逃げそうなのでビニール袋である。その掛け声を合図に二人は袋に空気をため始めた。患者は二人を奇異の目で見ていた。
「あなたたち、何やってるの?」
看護師さんに捕まりそうになったところで間一髪、二人は逃げてきた。一応、採取成功である。二人は顔を見合わせてハイタッチをした。そしてそのまま学校に向かって駆け出した。
学校についた二人は次のミッションに挑もうとした。どうやって職員室に入るかが二人の間で長く議論されたが正面突破することになった。幸い榎田は先生からの信用がある生徒なので、用事をつければあっさりと中に通してくれるだろうということだった。椎名はその付き添いという名目だ。
「すみません、忘れ物をしてしまって。」
その一言で二人はあっさりと校内に入ることができた。担任の先生は「お疲れさま。」と労ってくれた。その言葉に少し罪悪感を感じた。しかし、二人は抜かりなく計画を実行しきったのである。
「ヒーターつけているし、そろそろ換気するかぁ。」
二人が出ていった直後の職員室でそのような会話があったことを二人は知らない。
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