真夜中のトリックスター(後編)

mysh

前編のあらすじ

 約18万字分なので大ざっぱな内容です。章ごとにまとめてあります。


     ◇プロローグ


 高校からの帰宅途中、太田は夜空に輝くUFOを目撃した。後日、文芸部のメンバーと一緒に、目撃場所に近い運動公園へ探索たんさくに向かった。


 そこは過去に高校生の集団失踪しゅうだんしっそう事件が発生したいわく付きの場所。結局、UFOは発見できずじまいだったが、広場の片隅かたすみで奇妙な物体を発見した。なぜかそれは、太田の目にしか映らない不可思議なものだった。


 その物体を自宅へ持ち帰ってから数時間後。それは突如とつじょとして覚醒かくせいし、不気味ぶきみ形態けいたいをした生物から、


「異世界旅行に加え、人間の感覚・自然現象・物理法則を操れる能力〈悪戯トリックスター〉をプレゼントする代わりに、『転覆てんぷく巫女みこ』を探し当ててほしい」


 と、奇妙な契約を持ちかけられる。異世界へ行くのは睡眠時のみ、朝になれば現実に戻れるという好条件だったため、太田は夢うつつのままオーケーした。


 それが仕組まれたわなだとも知らずに――。『契約時の記憶を抹消まっしょうする』という条件によって、太田はこの時の記憶を全て失う。


     ◇異世界


 普段ふだん通り眠りにつくと、太田は異世界で目覚め、パン屋の屋根裏部屋に居候いそうろうするダイアンと出会う。彼女と打ち解けることに成功すると、ウォルターと名を変え、パンの配達を手伝うことになった。


 配達の途中、ウォルターは街を徘徊はいかいするゾンビと遭遇そうぐうし、魔導士が魔法を用いて退治たいじする場面を一部始終いちぶしじゅう目撃した。レイヴンズヒルでは珍しいものの、この世界では人々が突然ゾンビ化する例があとたないと知る。


 ふと頭に浮かんだ『転覆の巫女』の話をダイアンに向けると、元王である巫女は現在行方不明で、どんな容姿ようしをしていたかさえ人々から忘れ去られた、と理解に苦しむ情報を得る。


 その際、ウォルターは〈侵入者〉――巫女の命をねらう〈外の世界〉の住人ではないかと、ダイアンに疑われる。また、風を吹きやませることで〈悪戯トリックスター〉の力をまざまざと実感した。


    ◇メイフィールド


 配達先のメイフィールドで、領主アシュリーと対立するベレスフォードきょうの一行と出会う。ふとしたことでウォルターは二人組の男にからまれる。重力操作を駆使くしして切りぬけると、その後、アシュリーの手助けで屋敷にかくまわれる。


 しかし、重力操作が相手方あいてかた勘違かんちがいを招き、違法に魔法を使用したと糾弾きゅうだんされる。さらに、追及ついきゅうを受ける最中さなか、ベレスフォード卿から魔法攻撃を受け、ウォルターはそれを無意識に無効化むこうかした。その場は相手の萎縮いしゅくもあってなんのがれた。


     ◇催眠術師さいみんじゅつし


 一日を終えると、太田は現実に舞い戻った。文芸部の部室で夢の中での話を披露ひろうしようとするも、喉元のどもとをつかまれる感覚におそわれ、なぜかそれはかなわなかった。しかも、運動公園での記憶が失われていることに気づく。


 眠りにつくと、ウォルターは再び異世界に戻り、ダイアンと再会を果たす。そして、十年来の知人ちじんであるパトリックを紹介された。


 中学生のような見た目ながら、アカデミーの学長をつとめるパトリックに、ベレスフォード卿との一件を仲裁ちゅうさいしてもらい、事なきを得た。


 そこで〈催眠術ヒプノシス〉の能力を持つパトリックから、〈侵入者〉に関する尋問じんもんを受け、ウォルターは疑惑を晴らす。また、〈転送トランスポート〉の能力を持ち、この国に〈侵入者〉を送り込み続けるトランスポーターの存在を知った。


     ◇ユニバーシティ


 ウォルターはパトリックの紹介で青年魔導士によって結成されたユニバーシティの一員となった。出席した定例会合ていれいかいごうの場で、最強魔導士の称号しょうごう――ジェネラルの座をねらっていると、パトリックが高らかに宣言してしまい、不本意ふほんい喝采かっさいを浴びる。


 会合終了後、のち同僚どうりょうとなるスコットから、傘下さんか部署ぶしょや三つの階級の存在、その決定のために定期的ていきてきに魔法の試合が行われるなど、ユニバーシティの制度せいど全般ぜんぱんについて説明を受ける。


     ◇試合


 城内の案内を受けている途中、ウォルターはベレスフォード卿のおいデビッドから試合を申し込まれた。最初はしぶったが、〈悪戯トリックスター〉の力で強力な魔法が使用できると判明し、試合に勝てば出世街道しゅっせかいどうに乗れるとそそのかされたこともあり、受けて立つことを決めた。


 試合では未熟みじゅく戦法せんぽうながらも、ウォルターは圧倒的あっとうてきな魔法の威力いりょく序盤じょばんから有利に戦いを進める。しかし、劣勢れっせいに立たされた相手から破れかぶれの攻撃をはなたれ、きんとも言える魔法無効化に手を出した。


 ギャラリーの不審ふしんを買ったものの、ウォルターは相手を窮地きゅうちに追い込むことに成功した。ところが、狂乱きょうらんした相手から殴りかかられ、試合はデビッドの反則はんそく負けで幕を閉じた。


     ◇資料室


 試合後、ウォルターは案内役のスコットやケイトと同じ〈資料室〉への所属しょぞくを決めた。そこはゾンビ関連の資料作成やそれを整理・保管する部署だ。


 初出仕はつしゅっしの日、ゾンビ化犠牲者の家族に対する聞き取り調査のため、近郊きんこうの村に向かう。この国に人口減少をもたらすゾンビ化のなぞについて、ウォルターは深く知った。また、業務の合間あいまにスコットから魔法の特訓とっくんを受けた。


     ◇新たな仲間


 ウォルターは帰宅途中に、長身ちょうしんの男ヒューゴから、五年前に国をるがした大事件――中央広場事件について聞かされ、その際、パトリックは親友を売り渡したと警告けいこくされる。


 その件をパトリックに問いただすと、〈樹海〉において精鋭せいえい部隊が一夜いちやにして全滅ぜんめつし、上層部じょうそうぶ相次あいついで暗殺された凄惨せいさんな事件の内容について知る。


 トランスポーターの能力的欠陥けっかん――〈侵入者〉を単独でしか送り込めないことを知るパトリックは、ウォルターの巫女に対する異常な執着しゅうちゃくを怪しみ、他の人間を現実から連れて来られないかと提案する。予想に反して、ウォルターは試してみると安請やすうけ合いした。


 太田(ウォルター)は文芸部の先輩土井に白羽しらはを立てた。自室に招いて試行錯誤しこうさくごを重ねると、ふいに未知の能力〈委任デリゲート〉が発動する。能力付与ふよと引きかえに『異世界に行って指導しどうする』という契約を土井とかわす。


 無事に土井を異世界へ連れて行くことに成功し、街を案内をしている途中、ウォルターはアシュリーとベレスフォード卿の一件が決着していないことを知る。


 アシュリーから、〈侵入者〉に両親を殺害されたこと、小麦価格の下落げらく苦境くきょうに立たされ、ベレスフォード卿から領地りょうち貸与たいよを要求されていることなどの告白を受け、ウォルターは彼女に協力を申し出た。


     ◇敵情視察てきじょうしさつ


 ウォルターはロイ(土井)と協力して敵情視察に向かった。偶然出会ったベレスフォード卿から屋敷に招待しょうたいされ、そこで巫女の描かれた絵画かいがを目にし、心を奪われた。


 昼食をともにした後、ベレスフォード卿と屋敷を訪れた侵入者対策室の二人との会話を盗み聞きし、ベレスフォード卿が〈侵入者〉に対する警備上けいびじょう不備ふび指摘してきされていることを知る。


 対策室のヒューゴとその情報を交換する最中さなか、ウォルターは水路すいろからはい上がってきたゾンビと遭遇そうぐうした。ヒューゴと共に退治したものの、それがゾンビ化しにくいはずの貴族きぞくである疑いが出てくると、大きな騒ぎとなった。


     ◇文芸部出張所しゅっちょうじょ


 現実に戻ると、文芸部の女子部員二人――小谷こたにつじも異世界へ連れて行く話に発展はってんし、前回と同様どうよう手順てじゅんで成功する。ウォルターはコートニー(小谷)に付与ふよした〈分析アナライズ〉により、謎の能力が自身に四つもかかっていると知る。


 四人は異世界の新居しんきょで新たな生活を歩み始め、ロイとスージー(辻)はパトリックの助手に、コートニーはアカデミーの研究員となることが決定した。


     ◇ゾンビ探訪たんぽう


 北方ほっぽうの村で重傷じゅうしょうを負った不審ふしんな鹿が発見され、その調査に当たった魔導士キースが〈樹海じゅかい〉へ入ったきり行方ゆくえを絶った。大規模だいきぼ捜索隊そうさくたいが結成され、ウォルターら文芸部一行もゾンビ調査をねて同行どうこうした。


 アシュリー支援策しえんさくに知恵をしぼる文芸部一行は、旅路たびじの途中、パスタの普及ふきゅうで小麦の需要じゅようが増加すれば、間接的かんせつてき支援しえんにつながると発見した。


 ストロングホールドに到着すると、辺境守備隊ボーダーガードのトレイシーひきいるチームから、不審者調査への協力を依頼いらいされる。序列じょれつ二位の魔導士クレア、コートニーと共に〈樹海〉近郊の廃村はいそんへ向かった。


 調査開始後、コートニーと二人で別行動べつこうどうしていたウォルターは、魔法を用いる貴族型きぞくがたゾンビの襲撃しゅうげきにあう。執拗しつよう追跡ついせきを受けるも、重力操作と風の魔法を連携れんけいさせた空中飛行で逃走を続け、屋敷内の一室いっしつから暖炉だんろをつたって脱出する。


 その頃、トレイシーのチームメンバーであるラッセルが命を落とした。犯人はもう一人のチームメンバーであるギル。彼は〈扮装スプーフィング〉の能力を用いる〈侵入者〉の一味いちみで、その目的は貴族型ゾンビに『寄生きせい』する仲間――ネクロのために、新しい体を用意するためだった。


 ネクロはウォルターの不思議な能力をあやしみ、〈死霊魔術ネクロマンシー〉の能力と乗り捨てた貴族型ゾンビの体を用いて実験をこころみる。ところが、能力さえ無効化するウォルターの力で、あっさりとネクロの能力は打ち破られた。


 貴族型ゾンビの死亡で事件は解決したと思われたが、数々かずかず不審点ふしんてんからトレイシーはラッセルを追及する。


 しかし、その正体は〈扮装スプーフィング〉の能力を用いたネクロであり、トレイシーは返り討ちにあって命を落とす。


 ギル――スプーはウォルターが〈外の世界〉の伝承でんしょうに名を残し、二十年近く行方をくらまし続けたトリックスターであると考え、能力の本質ほんしつ見極みきわめるため、レイヴンズヒル行きを決意した。


     ◇忘れやすい人々


 空中飛行をクレアに目撃されたウォルターは、〈侵入者〉ではないかと疑われたが、『〈外の世界〉へ行くためなら何でも協力する』という条件を提示ていじして、彼女の口止くちどめに成功した。


 レイヴンズヒルへの帰還きかん後、会食かいしょく中にパスタの振興策しんこうさくに話が及ぶと、『忘れやすい人々』――ゾンビ化しやすい体質で、一週間以上前の記憶が保持ほじできない人々が、平民の中に 数多かずおおくいると、パトリックから忠告ちゅうこくされる。


 一週間以上ダイアンと顔を合わせていなかったウォルターは、屋敷を飛び出して彼女へ会いに行く。さいわいにも、ダイアン自身は大丈夫だった。彼女の一途いちずな思いを聞くと、ウォルターは強く胸を打たれた。

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