第17話グラビアのオーディション受ける女性って度胸あるね。

 妹がオーディションを受ける、と決意を固めたのもつい先週のこと。トップグラドルへの道の初歩は早速難航を極めた。

 年齢制限がネックとなり、応募年齢は18歳からがほとんどで妹は今年16歳になったばかりなので、応募先を探すのにかなり手間取っていた。

 もちろん妹のグラビアのオーディション参加は、誰よりも母が一番力を入れていた。

 俺と父は無駄口を挟まないよう気を付けて、妹を応援した。

 そして今日はついにオーディション当日だった。妹が参加したのは、年齢制限が16歳から23歳で若手新人の発掘が目的のオーディションだ。

 玄関のドアが開けられ、母と妹がオーディションから帰ってきた。

「ただいま」

「……ただいま」

 二人がリビングに入ってくるなり、俺は訪ねずにはいられなかった。

「どうだった、手応えありか?」

「…………」

 妹はとろんと眠そうな目をして聞き流した。

 隣の母が妹の代わりに言い添える。

「手応えどころか、がっちり審査員のハートを掴んだはずよ。なんたってりつなはグラビアのニューウェーブになる逸材だもの」

「ちとばかし、過信じゃねぇか?」

「父さんは信じてるぞ」

 いつの間にかソファを立った父が、俺の横に来て強く同意した。

「合否の発表もされてないのに気が早いな」

「そんなことないわ、りつなはトップグラドルになるべき申し子なのよ。不合格のはずがないわ」

「なみと同じ意見だ」

 両親は妹にかなりの自信を持っているらしい。親の愛ってやつかな?

 その熱意が裏切られなければいいけど。


 一週間後、合格の吉報が届いた。この時から妹は現役グラドルとなった、わけだが。

 事務所側に母のことを元グラドルだと知っている人がおり、妹のマネージャーとして打診を申し出が来たそうだ。

 母は案の定、心安く承諾した。

 合格者には写真集出版の確約があり、妹も写真集の撮影が行われるのだが保護者兼マネージャーとして母も同行した。

 そこで問題が発生した。

 俺はその写真集を母に見させてもらったのだが、まさかの水着姿で親子二人デカデカ写っているのだ。

 当然俺は母に糾問した。

「なんで母さんまで一緒になって写ってるんだよ! これは妹のグラビアだろう。説明しろ」

 母は俺の責める問いに、急なはにかみを見せて答える。

「だって、りつなの撮影を見ていたら私も撮られたくなったのよ」

「なんだよ、撮られたくなったって。聞いたことねぇよそんな迷惑な欲求」

 俺の突っ込みに、母はムッとする。

「ちゃんとカメラから許可を得た上での撮影よ。そもそもがカメラが顔見知りだったのよ」

 これは驚いた。そんな偶然あるんだな。母が引退したのは18年も前なのに。

「しかも売れてるのよ、この親子グラビア。りくとが認めなくても世間が認めてるわ」

 尊大に胸を反らして見下ろすようにして言った。実際見下ろせてはいないが。

 俺は渡された写真集をもう一度、次はつぶさに見た。

 するとあることに気づく。

「見てて思ったけど……」

「何よ、りくと」

 母と妹が肩を並べて座っている写真のページを指差して言う。

「こうして二人で並ぶと母さんの方があきらかにウエスト太いよね」

「うぐっ」

 母が突発的に涙を溢れさせた。泣いて顔を歪めてはらはら涙を流す。ひっくと嗚咽まで漏らし出す。

「ひどいわりくと、お母さんがすごく気にしてたことをわざと指摘するなんて」

 どうやらウエストの話題は弱味だったらしい。

 俺のせいながらフォローの言葉を探す。

「いや……………………………」

 ダメだ、思い付かない。

 俺が狼狽えている間に、母は泣くことに加えて聞かれてもいない弁明を始めた。

「ううっ、ごめんなさい。すごい鯖読みしてます、現役の時より10センチくらいはゆうに偽ってます。正直に話していますから、どうか許してくださいぃ!」

 必死の謝罪に俺は言葉もない。

 許しも何も俺はとがめてないぞ。

 この後ほどなくして、ダイエットしてプロフィール通りのウエストを取り戻すわ! と勝手に立ち直り勝手に協力させられる羽目になった。

 どうせ三日坊主かリバウンドして、水泡に帰すんだろうな。巻き込むのやめてくれ。


 




   


 


 

 

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