3-18:Weep oneself hoarseー泣きじゃくる少女ー
「せっかく愛しの師匠と会えたはずなのにうさぎみたいな目をして……。どうした」
強くこすったように赤くなっているジュジの目元を見て驚く。
取り乱しているのか混乱しているのか、尻餅をついたままでいるジュジの手を掴んで立ち上がらせると、彼女は大きな目からポロポロと涙をこぼし始めた。
「お、おいってば……どうしたんだよ」
彼女の手を取ったまま、オレたちは広間で焚き火を囲んで座る。
両手で顔を覆いながら鼻をスンスンと小動物のように鳴らすジュジは、目を離したら森の中だろうが夜の雪山だろうがおかまいなしに、飛び出してしまいそうだ。
シャンテと目配せをして、うなずき合う。
「とりあえず……なにか飲むか?」
落ち着かせるためにも何か飲ませたほうがいいと土間の方へ行こうとしたが、シャンテはオレの腕の上に手をおいて首を横に振る。
「なにか探してくるよ」
シャンテは意味ありげな目配せをしながら、オレの代わりに土間の方へ姿を消した。
仕方なく、オレは焚き火の前でグズグズ鼻を啜っているジュジの背中をポンポンと叩いて、涙を指で拭ってやる。
「痴話喧嘩か?」
すぐに土間から戻ってきたシャンテは、そう言って笑うと、スープを注いだ木の器をジュジにわたした。
シャンテがニコニコとしながら彼女の黒い髪をポンポンと撫でると、彼女は一瞬泣き止み、シャンテに頭を下げる。少しだけジュジの雰囲気が和らいだ気がする。
「こういうときはジェムのだよなー。おれはもう寝るからさ~、あとよろしく」
わざとらしい欠伸をしながらジュジから離れたシャンテは「うまくやれよ」オレの耳元で囁いて去っていった。
なにをうまくやれよなんだ。別にジュジのことは狙ってねーよ。
言い返そうとしたが、シャンテはさっさとオレから離れてしまっていて誤解を解けそうにない。
諦めて、オレは隣りにいるジュジに目を向けた。
黙ってスープに口をつけるジュジの伏せた目の下には睫毛の影が出来ていて、炎のゆらめきに合わせて揺れている。
気持ちが沈むと目線も沈みがちになるらしい。全く顔をあげる素振りの見えないジュジの顔を覗き込む。
夏の森みたいな緑色の潤んだ瞳から、涙の粒がこぼれる。
「話、聞いてやるからさ」
「……それが……村に……カティーアが……見捨てられちゃった……」
次から次に彼女の涙から大粒の涙がこぼれ落ちる。言葉もとぎれとぎれだし聞き取れない。
こうなると、大体の子供は気持ちを吐き出しきるまでまともに話せない。
だから、オレは彼女の肩に手を回した。そのまま腕を引き寄せて、彼女を胸元に抱き寄せる。
「ジェミト……ジェミト……私」
「女が泣いてる時は、こうするのが我が家の家訓だって話したろ?」
「また……そうやって適当なこと言う……」
頭を撫でるとジュジは顔を上げて一瞬笑う。でもあっという間に彼女の顔が悲しみにゆがむ。ジュジはオレにしがみつくように顔を胸に押し付けるようにして泣き始めた。
「好きなだけ泣け。ここにいてやるから」
弟たちや、シャンテが泣いた時もこうしてやったのを思い出す。そして、兄貴も、オレが親父に怒られたときはこうしてくれていた。
ジュジを抱きしめたまま、丸太の椅子に背中を預ける。
泣いて体温が上がっているのか、彼女の体温と、のしかかられた体重が心地よい。まだまだ泣き止みそうもないジュジの背中をトントンとリズムよく叩いて落ち着かせる。
「あり、がとう……。私、私ね……」
「礼なら、お前が泣き止んだらちゃんと聞いてやるからさ」
ぐずぐずと鼻を啜って、目を擦る彼女の涙を指で拭う。
ジュジは無言のまま頷いて、オレの胸元に顔を埋めた。干からびてしまうんじゃないかというくらい溢れた涙が、服に染みこんで少しだけひんやりする。
まあ、こういうのも悪くはない。子供のお守りをする大人の甲斐性みたいなものだろう。
少しずつ、荒かった彼女の呼吸が落ち着いてくる。
きっとこの調子なら、彼女はすぐに泣きつかれて寝るだろう。
心地よい微睡みの中、鼻をすすって涙声でなにかを言おうとしているジュジの頭を撫でる。そのままどっと押し寄せてくる眠気に抗えずにオレはゆっくりと瞼を閉じた。
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