5-11:Let's negotiate.ー交渉開始といこうかー
「カティーアと……ジュジだったわね。時渡りの旅人だということはその紋章を通して理解したわ。貴方たちの目的も。神の御子の一族を救うためにここにいる……ということも」
磨かれた白い石で囲まれた応接間へ通された俺たちは、長椅子に腰掛けるプネブマと向き合うように座る。
ホムンクルスによって出された薔薇の茶を口にして、すっかりくつろぎながら俺は頷いた。
「ああ。その神の御子は、あんたがアルパガス討伐部隊に
何を話すべきか思案しているプネブマの様子にも注意しながら、俺は部屋の壁にぶら下がっている緑色の魔石へ目を向ける。離れた場所にいても会話が出来るこの魔石は元の時代ではもう失われてしまった貴重な品だ。
応接間の奥にはプネブマが使っているであろう机があり、透き通る大型の水晶が光っている。
光の中には旅をしている方の俺やイガーサたちが動いている様子が見えた。
「イガーサの弟……おそらく第13管理区から第48管理区に移動させたあの子ね。個体名はタフリール。でも……いくら
「どういうことだ?」
俺が表情を露骨に曇らせると、プネブマはこめかみに細い指を当てながら
「イガーサは
そりゃそうだろうと心の中では思いつつ、
その様子が怖かったのか、ヘニオだけではなく、お茶の入ったカップを手にしたままのジュジもビクッと体を竦ませた。内心反省しながらも、俺はヘニオを睨み付けて口を開く。
「……アルパガスを倒せば、魔法を使える
俺は知っている。アルパガスを倒した後、
これが
この戦争のあと、魔法院は魔法を使える
俺とジュジが二人で元の世界へ戻るためにも。
「確かにアルパガスを倒せれば、
「何のために俺が使者として選ばれたと思っている?俺が二人に増えたってことの意味をよく考えるんだな」
「そう易々と、危険因子を魔法院の目が届かない場所へ逃がすなんてまねを承諾するわけには……」
「……魔法の使えない
プネブマの綺麗な細い眉がピクリと動き、口元が少し引きつる。透明だった角が僅かに白濁するのは動揺している
ヘニオと違ってこの頃の統括はかなり感情豊かのようだ。だから、いろいろとやりやすくて助かる。
ジュジが僅かに顔をしかめているのを見ない振りをして、俺はプネブマを更に揺さぶるために言葉を続ける。
「欲しいものの場所はわかったんだ。今すぐこの塔をぶっ壊して第48管理区にいる
半ば脅しのような形だったが、プネブマは俺との取引を受け入れた。
彼女が出した条件は簡単なものだった。
アルパガス軍を殲滅させない程度に減らすことと、王族や貴族が管理する領地近辺の警護の補助。
この二つの条件で働き続ければ、イガーサたちがアルパガス城へ到着すると同時にタフリールを解放すると約束をしてくれた。
俺がここを破壊してアルパガスも倒し、タフリールを助け出すことも可能かもしれない。しかし、過去の歴史を大きく変えてしまった場合に俺たちの魂がどうなるのかは予想が出来ない。
なるべく世界に大きな変化をもたらせずに行動をした方が安全だろうという判断だ。
仕事のない場合は魔法院の客室でくつろぐことまで取り付けた俺は、早速案内された客室でジュジに膝枕をされながらくつろぐことにした。
あくびをしてから、大きなガラス張りの窓から色とりどりの花が咲いている中庭を眺める。
「あんなに脅さなくても、よかったんじゃないですか?」
「ジュジは相変わらず優しいねぇ」
魔法院という組織に自分が閉じ込められたり、殺されそうになったこともあるのに暢気なものだ。こういう変に甘いところも含めて俺は彼女のことを好いているので問題はないが……。
中庭ではプネブマが緑色に光るの魔石に、何かを話している様子が見える。
物資の周りでは、魔法使いたちが右往左往している。
あの魔石……なくても困らないが、あればあるで便利なんだよな。
魔石は中の魔力が枯渇したり、刻まれている魔法式が壊れると使い物にならなくなるし、通話用のものは魔法式が複雑だ。
魔石加工技術がすっかり衰退した元の時代では、通信用の魔石は作成も修理も出来ない。そのお陰であお代物は幻の存在になっている。
「やっぱ欲しいよなー。アレ」
しばらく中庭を見て、思わずぼやく。
どうにかして通話用の魔石も手に入れたい。しばらく、ジュジの太腿の柔らかさを堪能しながらと考えていると、ふと良いアイディアが浮かんできた。
急に立ち上がり、窓を開いて体を乗り出す俺を、ジュジがあきれたような顔をして見る。
「あんまり意地悪なことをしたらダメですよ?」
……俺がまだガキのころ、似たようなことをセルセラに言われたな。
ジュジに返事をする代わりにひらひらと手を振って、フードを目深に被って顔を隠した俺は、そのまま中庭へ飛び降りた。
急に空から目の前に舞い降りてきた来訪者に、プネブマと魔法使い達は驚いて動きを止めた。
しかし、降ってきたのがアルパガスの手先ではないと気が付いて、魔法使い達は作業に戻っていく。
プネブマだけが、少しだけ警戒した表情のまま俺に用件を聞いてきた。
「転移魔法に使う魔力が足りないんじゃないか?」
俺の言葉にざわつく魔法使い達を無視して、プネブマは無言のままこちらを睨み付けてくる。
何も敵意はないさ。と言う代わりに、俺は両手を広げて肩を竦めてみせる。
「その緑色の魔石……通信会話用だろ?そいつを幾つかくれるんなら、転移魔法を手伝ってやってもいいぜ?」
プネブマは、俺の提案に苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべながら頷いた。
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