―幕間―

Interlude1:The Two of Us One Night―ある夜の二人―

(カティーア、起きてます?)


 黒犬の姿になっているジュジは、床に伏せながらカティーアを見上げる。

 念話テレパスを送った彼女は、尾をパタリと振り、床を叩いた。


「ああ、どうしたジュジ、寝れないのか? 犬の体にはまだ馴れないよな」


 寝具の上から手を垂らしたカティーアは、ジュジの額をそっと手で撫でた。滑らかな毛並みの手触りは人間の姿だったときの彼女を思い起こさせる。

 そんな彼には気が付かないまま、毛長の黒犬と化しているジュジはクゥンとうれしそうに鼻を鳴らした。 


(そうですね。覚悟はしていましたが……まだヒトの身体だったころの癖は抜けないです。会話が出来なかった時はどうしようかと思いました)


念話テレパスを早く使えるようになってくれて助かった」


 ほっとしたようにカティーアはそういうと、体を起こす。

 そのまま床に伏せている彼女の両前足の下に手を入れて、ベッドの上へ抱き上げた。


「お前らがあんな無茶をするとはな。ちょっとしたお気に入りの消耗品として扱うつもりだったが……」


 溜息を吐いたカティーアは、ジュジの体の上に手を置いて溜め息を吐く。そして、干し草が詰められたマットレスの上へ横たわった。

 ジュジも彼と見つめ合いながら、マットレスの上へ腹ばいになった。

 干し草は入れ替えたばかりなのか、太陽のいい香りが漂っている。


(あの時、セルセラが本をあなたの部屋から持ち出したりして、ヒントをくれたんです。いくら天才だからって一つの恩恵に二つの呪いが重なるのはおかしいって)


「ヒントがあったとしても、逃してやるって言っている師匠を無視して使い魔ファミリアと人間が融合するなんてめちゃくちゃな真似するとは思わないだろ」


 魔法院の敷地内に聳える白い塔。その上層階で幽閉されていた彼女を救い出した夜のことを思い出したカティーアは苦笑を浮かべながらかぶりを振る。


(確かに、カティーアと離れ離れになった時はもうだめかと思いましたけど……傷ついて呪いに飲み込まれそうなあなたを見たら放っておけなくて……どうせ使われる覚悟は出来ていましたし)


「魔法院直属の魔法使いである大英雄カティーア様を気の遠くなるくらい演じていたんだ。お気に入りの弟子を救って呪いに飲まれるなら悪くないと思ったんだがな……それよりも、だ」


 隣で寝そべるジュジの方を見るために、カティーアは体を動かす。

 彼が自分を見つめていることに気が付いたジュジは、鼻先を彼の頬に押しつけて笑う代わりに尾をぱたぱたと振る。


(気の遠くなるほど永い時間いた機関に逆らってまで私を助けるとは思わなくて……。それに魔法院ですよ? 魔法院! 世界中の魔法使いを管理して、育てるだけじゃなくて、魔法の研究までしているすごい機関なんですよ?)


魔法管理高等議院マギカ=マギステル……大層な名前がついてるだけあって確かにこの西の大陸では影響力もそれなりに強いが、呪いの枷もなくなった不老不死の俺を止められる相手なんてそうそういない。まぁ気楽にお前の呪いを解く方法を探そう」


(気楽に……ってわけにはいきませんよ……。私はそもそも箱庭育ちで外のことも知らないですし)


「確かにアルカは外に出る機会はないだろうからな……。良い機会だ。俺の大切な弟子に色々見せてやらないとな。まずは……どこにいこうか……」


 頭を再び撫でられ、ジュジは目を細める。

 これからのことを不安に思いながらも彼女はそれを言い出せずにいる。横で寝息を立て始めたカティーアの顔を静かに眺めてこれからのことに思いを馳せた。

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