Interlude2:Party on a hidden island―隠れ里での宴―

「ワンちゃんワンちゃん! カティーアちゃんとはどういう関係?」


 ランセは隣に腰を下ろし談笑しているジュジの肩へ手を置いた。

 高い位置でまとめられた烏の濡れ羽色をした髪をふわりと揺らし、彼女は振り向くと首をかしげて彼を見つめる。


「ワンちゃん……私のことですか?」


「そう! 最初は可愛い犬だなーって思ってたけどさ、あんたも強いじゃん。強い女っていいよなー憧れる」


「ランセ、ジュジと距離が近い」


 二人の間へ割り込みながら、ランセの膝を軽く蹴飛ばしたのはカティーアだった。

 彼は腰を下ろすと、ジュジの肩を抱き寄せ、冗談めいた大袈裟な動きでランセを睨み付ける。


「なんだよー! いたいけな青年を蹴るのはやめろよ! カティーアちゃんと違ってオレはまだ体中擦り傷切り傷でいっぱいなんだかんな!」


「鬼はヒトより丈夫なんだろ? よかったな」


「だからってその扱いはなくない? オレの扱いに愛を感じない!」


 自分の言葉を鼻で笑うカティーアの肩を掴んで揺らすと、彼は驚いたように目を見開いて静止する。


「会って二度目でいきなり殴りかかって来るやつの口から愛ってのはな……」


 そんな彼の言葉に、ランセは子供っぽく唇を尖らせて不服そうな表情を浮かべて、カティーアの肩から手を離した。


「だって絶対こいつが魔法使いとか嘘だって思ってたし……魔物退治では手抜きしないといけなかったから全力で戦えそうなやつがいて嬉しくてさ……カティーアちゃんも実際わかるだろ?」


「……。俺は能力を抑えて魔法使いだとバレないよう活動することには慣れていて……決して一時の楽しさでそのようにはしゃぐということはだな」


 少し沈黙をして、目を泳がせるカティーアはそういうが、ランセは不満そうな表情のままだ。


「カティーア、楽しそうでしたもんね。ランセさんと最初殴り合った時」


「ほらー!」


「ジュジ! そういう事は言わなくていい」


 横からひょこっと顔を出したジュジの言葉を聞くと、ランセはカティーアを指さしながら口を大きく開いて笑う。

 それにつられるようにジュジとカティーアが笑うと、彼は手にしていた渋茶色をした陶器のゴブレットを両手で包むようにして中の酒を呷った。


「でもさー寂しいよな。カティーアちゃんもワンちゃんも宴が終わったらまたどっかにいくんだろ?」


「自分の退屈な世界は自分でぶっ壊すんじゃなかったか?」


 さっきまでの楽しそうな表情とは一転、寂しげに目を伏せるランセを見て、カティーアが片眉を持ち上げてフッと短く笑う。


「それとこれとは話が別だろぉがよー」


「嬉しいです。こうして離れることを惜しんでくれる人が出来るというのは……」


「てめーら! もっと酒もってこーい!騒ぐぞ! 戦いでは勝てなかったけど酒でなら勝てる気がする! カティーアちゃん勝負だ」


「……やれやれ。付き合ってやるか」


 カティーアによりかかったと思えば、立ち上がって周りの衆をたきつけ始めたランセ。

 そんな彼を見て、カティーアはまぶしいものを見るかのように目を細めるとやれやれと大袈裟に肩を竦め、目の前にある陶器で出来た酒瓶を手に取った。


――こうして鬼の隠れ里での夜は更けていくのだった。

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