Always!三枚目の雄飛
笠原 レック(wreck)
第1話夏に春がきたが散った
「ずっと好きでした、私と付き合ってください」
高校三年の夏、俺に遅い春がきた。
「えっと、僕なんかでいいの?夏影さん」
そう、彼女は夏影 月夜、学校で知らない人はいない美少女である。白い肌に長い黒髪、普段は物静かでこれぞお嬢様って感じなのだが謎も多い。なにせ学校以外で彼女を見かけた人が誰もいない。
「私はあなたがいいのよ遠山君、あまりぱっとしない、いい所なんてほとんどない、優しさだけが取り柄のあなたがいいの」
「貶すのか褒めるのかどっちかにしてくれないかな!?」
「褒めてるわよ喜びなさい、で、あなたの返答は?」
「ねぇ、なんかキャラ崩れてない?凄くガサツになってる気がしますよ夏影さ……」
怖い怖い怖い、なんで!?夏なのに身体から冷気が出てますよ、人間なんですか!?
「失礼ね、人間よ」
はい、違うゥ!!化け物だこの人。
「ま、まぁ俺も夏影さんのこと気にはなってたしイメージとは性格が全然違ったけどそっちの夏影さんも可愛いよ。これからよろしくね」
「そう、よろしく」
恋人って何するんだろ。付き合ったことなんてないから女子が喜びそうな事とか全く知らないし。あぁそうだ、あいつがいるじゃん。
俺は夏影さんと別れ、あいつがいつもいる場所へ向かった。
「はぁ?女子が恋人にしてもらって嬉しいこと?何寝ぼけたこと言ってんの、そんな事は恋人ができてから考えなさいよレイトー」
こいつは鬼塚 楓。入学式の日に、初対面にも関わらず馴れ馴れしく俺に絡んできてからなんやかんやで仲はいい数少ない女友達だ。
ちなみにレイトーってのは俺のあだ名で、一年の夏、暑さを忘れるために食堂で毎日アイスを食べてるのを見た楓がつけた。
「あんたのアイスの食べ方キモイよ、なんかヤラシイし。見た目が中性的なんだから気をつけなよ、主に後ろ」
とかその時言われたが、確かに俺がアイスを食べに行くとき食堂が妙ににぎわってる気がするけどさ、あそこを利用するのはほとんど男子なんだし別に気をつけることなんか無いと思うんだけど。
そういえばアイス食べに行くとき、絶対に純弥がいるな。あいついつも何食ってんだろ。そんなことより、
「なぁ、教えてくれよ。楓だって一応女子なんだから少しは女心ってやつ分かるだろ」
「レイトー、あなたの言い方だと私は女の姿はしているけどほとんど女らしさを感じないってことになるのよ。引っ叩いてあげようか、ちょうど今凄くイライラしてるし」
「気に入らないことがあったらすぐ拳で解決しようとする脳筋を女子とは言わねぇ、女子ってのは夏影さんみたいなのをいうんだよ。出直してこい」
「よし決めた、半殺しで勘弁してやる」
「冗談ですごめんなさい楓様はお美しい、はい」
楓に殴られるのは非常にまずい。あの純弥までもボコボコにしてしまう女に一発くらったら間違いなく俺なんか昇天してしまう。
純弥は俺と同じクラスの友人で、柔道では全国大会に出場するくらいの強者だ。それをボコボコにする楓ってなに?あの霊長類最強女子のお仲間ですかね。楓曰く、
「純弥?あぁ、田所ね、あんなの私の敵じゃないわ」
らしい。皆、楓から一発くらっちゃ、ダメ!絶対!!
「というかなんで急に女子の喜ぶこととか聞いてきたの、好きな子でもできた?」
「いや、好きな子ができたというか俺にも春がきたというか」
「……レイトー、誰かに告られた?相手は誰?」
「夏影さんだよ、さっき……」
楓さん?身体からどす黒いオーラを放ってますがどうしました?俺、足が震えてチビりそうです。
「OK、したの?」
「断る理由がないだろ、自分のこと好きだって言ってくれたのは凄く嬉しいし、なにせ可愛い」
「そう、なんだ。じゃあ今日の放課後一緒に帰ろう。もう休み時間も終わりそうだし帰りながら質問に答えてあげるわ」
そう言うと楓は自分の教室へ足早に帰って行った。
「やっぱり月夜か。あぁ!!もっと早く告白してればよかった!というかなに人の想い人奪ってくれてんのよ、あの女狐ェ!!」
そして放課後、俺達は帰り道にある公園に来ていた。この公園はこの街では一番大きくランニングコースも整備されているため利用する人は多い。
秋になるとランニングコースに沿って植えられたイチョウ並木の紅葉が見られるために地元では有名なデートスポットであり、夜になるといたるところにカップルがわく。
楓に連れてこられたのはそんな公園の片隅、ほとんど人が来ないが景色は公園内では一番綺麗だと思う俺と楓のお気に入りの場所だ。
「よしレイトー、歯、食いしばれ」
「よし、じゃねぇよこの馬鹿!俺を殺す気か!?」
「じゃあなんでこいつも連れてきたのよ!」
楓は俺の後ろを指差しながら叫んだ。というかこの二人、知り合いなの?
「夏影さん、楓とは知り合い?」
「零君、月夜よ。はい、言い直し」
とびきりの笑顔で言われたが、目が全く笑っていない。女子ってなんでこんなことできるの?超怖い。怖いといえばもう一人、表情を失くして戦闘態勢に入ってる脳筋が一体、もう俺にどうしろと?
「零君?」
「つ、月夜。楓とは前から知り合いなのか?」
「知り合い、というか幼馴染みね」
「へぇ」
どうやら家が近いようで親同士は仲が良いらしいが二人は違うみたいだな。
「月夜、あなた、私がレイトーのこと好きって知ってて告白したでしょ」
「思ってもない人に告白するのは問題があるだろうけど、私は零君のことが好きだから別に問題なんてないでしょ?」
何この泥沼、もう帰りたい。俺のこと好きだったのかよ楓。サンドバッグ=レイトーとしか考えてないと思ってたぞ。
楓の見た目は悪くない、むしろいい。行動が良さを隠してしまっているがスタイルは月夜といい勝負してる。なにせアレがでかい、母性の象徴たるアレは男の希望だ。月夜とは……比べるまでもないな。
「今、凄く失礼な視線を感じたわ。二度と世界が映らないようにしてあげるわ、零君」
「私のも一発くらいなさいレイトー、こんな女に鼻の下伸ばしてる罰よ」
「まて、話せばわかる!!落ち着け!!!」
結論から言おう。駄目だった、死んだわ俺。
え?意味が分からない?俺が一番分かってないから安心しろ。月夜と楓のグーパンが目の前にきたところまでは覚えているが、目を覚ましたら体が半透明だった。コレハシニマシタワー……
(しかもなにここ?何もないんだけど)
俺が立っているのは真っ白な部屋。出口なし、隙間なし。
「まだ童貞なんですけどォおおおお!!女子に殴られて昇天とかどこのラノベだよ、異世界転生とかするんじゃねぇだろうな!?」
「ようこそ遠山 零様、異世界の入口へ。私は死の女神、オーガンです」
さっそくかよ。もう驚かない、なんでも来やがれ。
「あなたはこれから元とは違う世界へ送られます。異世界は今、様々な問題を抱えていて遠山様の力をお借りしたいのです」
まぁあれだな、女神とかなんとか言ってるけどどうせ年ばっか食ったババアなんだろ。ババアのお願いかぁ、いまいちやる気がなぁ。
「……あなたには特別なスキルを与えて送り出す予定、だったのですが気が変わったので呪いをかけて送り出すことにしました」
「おい、ふざけんな」
「神を冒涜した罰です♡それではいってらっしゃい」
そうして俺は呪い、『レベルup禁止』をかけられ異世界へと飛ばされた。強制的に……
今ここに不安しかない物語が始まった。
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