254話

 そんな話をしていると三人がこちらの方に歩いてきた。


「やぁ、三人共! 今度は一体何をしてるの?」


「ん? 山瀬さんと美沙。今から帰り?」


「うん、伊敷君たちは今日も勧誘?」


「え、なんで知ってるの」


「まぁ、噂になってるしね。三馬鹿がまた何かやってるって」


「マジかよ」


「まさか、そんなに有名だったなんて……しかしおかしいな、馬鹿は二人だけのはずなんだが?」


「安心しろ、誠実お前が一番馬鹿だ」


「何自分はまともだ見たいに思ってんだ」


「なんだとぉ!」


「いや、三人共馬鹿だよ」


「「「おいコラ!」」」


 美沙の言葉に三人は声をそろえてそう言う。


「で、なんで勧誘活動なんてしてるの?」


「これには理由があるんだ」


「あぁ、俺達三人にとって大事な理由があるんだ」


「ふーん……ま、どうせそんな大した事じゃないんでしょ」


「否定は出来ない」


「どっちなのよ……」


「まぁ、二人は興味ないだろ? 新聞部なんて」


「うん、残念ながら。誠実君が入ってるなら興味あるかな?」


「残念ながら俺は部員じゃない」


「そうだったの? 私てっきり部員になったのかと……」


 私の言葉に伊敷君は少し緊張した様子で答えた。


「あぁ、いや、なんていうか成り行きでというか……」


「そうなんだ、もしかしてまた女の子絡みだったりして」


 私がそう言った瞬間、伊敷君はなぜか肩をびくっと震わせた。

 それを見た美沙が何かに気が付いたようで、伊敷君をジト目でジーっと見つめる。


「もしかして……女の子絡みなの?」


「いや、なんだよその疑いの目線は! 別にちげーから! 今回は新聞部の部長から頼まれただけだから!!」


「ふーん……誠実君は放っておくとすぐにライバルを増やすからなぁ~」


「は? ライバル? 何の事だ?」


「なんでもない、という訳で今度私とデートしよう!」


「え? なんで?」


「良いから、また今度連絡するから、約束だからね!」


「いや、なんで……」


 美沙の積極的なアプローチに伊敷君は気が付いていないらしい。

 いや、もしかしたら気が付いていて、こんな態度をとっているのかもしれない。

 美沙は一度伊敷君に振られている。

 伊敷君なりに美沙を突き放そうとしているのかもしれない。


「じゃ、私たちもう行くからじゃーねー!」


「お、おう」


「伊敷君、またね」


「あ、はい……また」


 私と美沙はそう言って伊敷君達の元を去った。


「良かったの? 伊敷君と一緒に居るチャンスだったのに」


「だって、なんか頑張ってるっぽいし、邪魔できないよ。それにデートの約束は取りつけたから問題なし!」


「あ、あれは約束って言うのかな?」


 伊敷君たちがなんで新聞部の為に頑張っているかは分からない。

 でもきっと、それは自分の為じゃなくて、新聞部のためなのだと私は思っている。

 私が夏休み前に助けられたように、伊敷君たちはまた別な誰かを助けているだと思う。

 そう思うと私は、なんでそんな良い人を振ってしまったのだろうと、考えてしまった。

 




「ダメだ……」


「今日が期限日だぞ! どうするんだよ!」


「やっぱりみんな、簡単に転部なんてしてくれないな」


「今日の放課後は期限の日だけど……暁美先輩は?」


「あの人も頑張ってるようだが、いまだに部員希望所は居ないらしい」


「そうか……」


 勧誘最終日、誠実たちは昼休みも勧誘をしていたが、結果は散々だった。

 もう流石に無理なのではないかと思い始め、誠実たちは他に何か作戦は無いかと考えていた。


「誠実! こうなったらお前、ちょっと蓬清先輩を誘惑してこい!」


「なんでそうなる!」


「お前が頼めばあの人は絶対に期限を延ばしてくれる!」


「そんな事出来るわけないだろ! 栞先輩を騙すなんて俺には出来ない!」


「そうでもしないと、結局部員が増えないまま終わりだぞ!」


「そ、それは……そうだけど……」


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る