214話


 あの日の事を俺は今でも良く覚えている。

 親父から聞かされた……あの話しを……。

 当時俺はまだ中学生で、それが本当の事なのかどうかも良く分からなかった。

 

『誠実……お前ももう中学生だ……だから話しておこう』


 いつもはふざけた感じの親父が、その日は真面目な顔で俺に話しをしてきた。

 だからこの話しは良く覚えている。

 内容も内容だったこともあり、俺は衝撃を受けた。


『……だから誠実……この事は……には……内緒だ』


『……うん』


 俺は真剣表情で親父の言葉にうなずく。





「ん……むあ……朝か……」


 花火大会の翌日、誠実の目覚めはあまり良いものでは無かった。

 色々な事がありすぎて結局は良く眠る事が出来ず、誠実は頭を抱える。


「うーん……なんだかなぁ……」


 朝から暑い上に、寝汗で来ていたTシャツはビショビショ。

 朝から目覚めは最悪だ。


「誠実ぃ-! 早く起きなさいよぉ!!」


「分かってるよぉ-!」


 一階から聞こえる母親の声に、誠実は部屋から大声を出して答える。

 まずはシャワーを浴びて、朝食を済ませて……。

 なんて事を考えながら、誠実は風呂場に向かう。

 シャワーを浴び、誠実は汗を流してリビングに向かう。


「おはー」


「あんたねぇ、もうすぐで夏休みも終わりなのよ、生活リズム戻しなさい」


「へーい」


 誠実は欠伸をしながら母親の忠告に答え、誠実は用意された朝食を食べる。


「あれ? 美奈穂は?」


「朝早くからお仕事に行ったわよ、アンタと違ってあの子は働き者だから」


「どう言う意味だよ! 俺だってバイト始めただろうが!」


「アンタとあの子じゃ稼ぐ額が違うのよ」


「結局金かよ!」


 誠実は母親にツッコみつつ食事を続ける。


「なぁ……それよりも……今日だよな? 美奈穂の誕生日……」


「……そうね」


「……来年には話すんだろ? あのこと……」


「……えぇ……お父さんも悩んでたわ……あの子の誕生日が来る度に辛くなるって……」


「……だよな」


 誠実は洗い物をする母親の背中を見ながら、何かを考えるように顎に手を当てる。


「行くのか? 今日」


「えぇ……幸い美奈穂は仕事だから、変に怪しまれなくて済むわ……」


「そうか……まぁ、安心しろよ、いざとなったら俺がなんとかするから」


「アンタみたいな不細工に何が出来るのよ」


「息子に向かってなんてこと言うんだよ!! それに不細工関係ねーだろ!!」


「でも……そうね……いざとなったらアンタに頑張って貰わなくちゃね……」


「あぁ……なんたって俺は……兄貴だからな……」


 誠実はそう言ってアイスコーヒーに口を付ける。

 

「しょっぱ!! 何だこれ!?」


「あぁ、ごめん。それ麺汁だったわ」


「どんな間違いだよ!!」





「と言うわけだ!」


「「何がだよ」」


 誠実は近くのファミレスで、健と武司を呼び出していた。

 誠実の言葉に健と武司は声を合わせて尋ねる。


「だから言ったろ? どうやったら気持ち悪くなく、プレゼントを相手に渡せるかをだな……」


「その前にどうやったら気持ち悪くプレゼントを渡せるんだよ……」


「まぁ、誠実も武司も顔面が男性器だからな……無理もない……」


「「誰の顔が男性器だ!!」」


「頭からパンストを被って渡すのはどうだ? 多少は気持ち悪さが軽減されるはずだ」


「「そっちの方が気持ち悪いわ!!」」


 健の言葉に、誠実と武司は健を怒鳴る。


「大体だ、その相手って美奈穂ちゃんだろ? 普通に渡せば良いじゃ無いか、兄妹なんだ」


「まぁ……それもそうなんだが……改めて渡すとなるとなぁ……」


「じゃあ部屋の前にでも置いておけよ……そんなくだらない事でいちいち呼び出すな」


「どうせ暇だろ?」


「そ、そんな事は!」


 武司にそう返す誠実。

 誠実の言ったとおり武司は暇だった。

 夏休みも後残りわずかとなり、残された夏休みで何をしようかと考えている最中だった。

 そんな時に誠実に誘われたものだから、暇つぶしに丁度良いと思ってファミレスにやってきたのだ。

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