213話



「ただまぁ……」


 誠実は花火大会の会場から家に帰ってきていた。

 疲れた表情を浮かべる誠実は、自室に向かい部屋のベッドに横になる。


「はぁ……先輩まで……なんで俺なんだ……」


 花火大会での栞の告白に戸惑い、悩んだ結果、断った誠実だったが、栞から言われた返答は諦めないだった。

 そんな栞の言葉と、美沙と沙耶香から言われた言葉が重なり、誠実はかなり悩んでいた。


「断った……よな?」


 誠実の心の中には、いまだに綺凜が居る。

 だからこそ、いままでの三人からの告白を断って来た。

 しかし、それでも三人は誠実の事を好きだと言ってきた。

 そんな三人の返答にどう答えれば良いのか、誠実は戸惑っていた。


「うーん……」


 唸りながら、ベッドの上でゴロゴロしていると、誰かが階段を上ってくる音が聞こえてきた。

 恐らく美奈穂であろうと誠実は思いながら、再びベッドの上でゴロゴロする。

 すると、トントンとドアの二回ノックされた。

 

「はい?」


「おにぃ」


 誠実の返答の後、ドアを開けて入って来たのは案の定、美奈穂だった。


「どうした? 帰ってきたばっかか?」


「うん……ねぇ……」


「ん? どうした?」


「蓬清先輩と何かあった?」


「ぶっ!! な、なんでお前が……」


「あのお祭りには私も居たんだけど」


「そ、そうか……見てたのか……」


「うん、おにぃ随分モテるね」


「そ、そうだな……」


「モテる兄を持って、私も鼻が高いよー」


「おい、棒読みじゃねーか」


「ソンナコトナイワヨ」


「カタコトじゃねーか……はぁ……お前だって、今日は男と一緒だったじゃねーか」


「別に……ただの友達だし」


「そんな事言って、あの中の誰かと付き合ってるんじゃ……」


「そんな訳無いでしょ……じゃあ、私は着替えてくるから」


 そう言って美奈穂は自室に戻って行った。

 一体何の用だったのだろうと、誠実は疑問に思いながら誠実はベッドに横になり、スマホを手に取る。

 SNSのメッセージを確認し、誠実はスマホを再びベッドに置く。


「はぁ……なんだかなぁ……」


 ため息を吐きながら、誠実はベッドから立ち上がり風呂に入る準備を始める。


「あ……そう言えば……明日だな」


 着替えを探しながら、誠実は美奈穂に買った誕生日プレゼント見てそう思う。

 毎年買っている美奈穂への誕生日プレゼント。

 最近は簡単な手紙を添えて、部屋の前に置いていたが、今年はどうしようかと、誠実はプレゼント手に取りながら考える。


「考える事が多いなぁ……」


 最近考え事が多い誠実。

 ため息を吐きながら、誠実は風呂場に向かう。





「はぁ……」


「お嬢様……夜更かしはあまり……」


「わかっています……でも、今日だけは……許してください」


 部屋の窓を開け、栞は外を見ていた。

 メイドに注意をされても、栞は眠ろうとしない。

 栞は月を眺めながら、ため息を吐く。


「はぁ……誠実君……」


 そんな栞を見ている蓬清家のメイドは心配そうに栞の様子を見ていた。


「お嬢様……」


「一体どうしてしまわれたのかしら……」


 部屋のドアの隙間から、メイド二人が栞の様子を覗き見てそんな事を呟いていた。

 使用人にも優しく、栞は家のメイドや執事などからも厚い信頼を得ていた。

 そんな栞の様子がおかしいとなれば、その話題は光の速度で屋敷中に広まる。


「お嬢様……」


「心配だわ……」


「何をしているのですか」


「あ! 執事長」


 栞の部屋の前でメイド二人がコソコソ話しをしていると、執事長の義雄が難しい顔をしながらやってきた。


「お嬢様はお眠りになりましたか?」


「い、いえ……何か悩んでいるようで……」


「む……やはりか……」


「執事長! 何かご存じなのですか!?」


「うむ……帰りの車の中でのことだ……」


 義雄は車の中での出来事をメイド達二人に話し始めた。


『……義雄さん……』


『どうされましたか? お嬢様』


『恋と言うのは……難しいのですね……』


『ま、まさか! あの若造に何か!!』


『大丈夫です……何もされていません……ですが……』


『どうかされましたか?』


『………私の人生始めての告白は……とりあえず失敗で終わってしまいました……』


『なっ………』


 誠実を送った後の車の中で、義雄はそんな栞の話しを聞き、誠実に殺意を抱いたのは嘘では無い。

 

「……そういう訳で、私はこれからあの小僧を殺してくる」


「執事長、落ち着いて下さい」


 完全に犯罪者の目になっていた義雄をメイド二人が止めに入る。


「お嬢様のような容姿端麗な方が……」


「前にお屋敷にいらっしゃった方ですよね?」


「そうだ、しかも旦那様があの小僧の父親をえらく気に入っておる……その点も厄介なのだ」


「ナイフを片手にそういう話しをするのはやめて貰えませんか?」


「庭師と料理長の協力は得られたのだが……」


「協力者が!?」


「お屋敷から犯罪者を出すのはやめて下さい!」


 完全に誠実を殺そうとしている義雄。

 そんな義雄のことなど何も知らずに、栞は誠実の事を考えながら外を眺めていた。


「……」


 振られた後だからだろうか、栞は誠実の事ばかり考えていた。


「はぁ……」


 悩ましげなため息を吐きながら、栞はそっと自分のスマホを見る。

 連絡帳のアプリにある誠実の名前を見ながら、電話を掛けようか掛けまいかを悩む。

 声を聞きたい、もっと一緒に居たい。

 そんな思いが振られた後だというのに、より一層強くなっている栞。


「誠実君……」


 頬を赤く染めながら、栞はスマホを横の机の上に置く。


「いつか……振り向かせて見せます」


 栞はそう言うと、窓を閉めてベッドに横になる。

 その頃、部屋の前の廊下では……。


「執事長! ダメですって!」


「離せっ!! 私は! 私はあの小僧を!!」


「殺したら犯罪です! それにお嬢様から嫌われますよ!!」


「むがぁぁぁ!! こぞぉぉぉぉ!!」


 暴れる義雄をメイド二人は必死に止めていた。

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